表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まじかるタイム  作者: 匿名
2/101

第2話:校章と制服について?

「やばい、初日から遅刻は洒落にならないぞ!!」


「翔、そんな無駄口叩いてる暇あったらもっと飛ばさないと!!」


「分かってるよ!!」


 焦りながらも落ち込むという高度な表情を作りながらぼやいた翔に、優は苦笑混じりにそう言った。現在高度三十メートル、空の上。


「はぁっ、翔を起こす幼馴染みポジションって利害合わせてプラスマイナス0なんだもんなぁ……。お願いだから、もうちょっと朝早く起きない?」


「うぅっ………悪い。」


 こんな風に優から文句を言われても、なら止めろ、とは言えない。止められればこっちが困った事になるのは分かりきっているからだ。かなり情けないが、これが現実である。篠原翔の朝は……弱い。


「おし、後一キロ切った!! 速度制限守ってもギリギリ間に合うな。」


「もう、こんなギリギリなのは最後にしてよね。法定速度ギリギリよ。」


 そんな事を言いつつ、スイスイと踊るようにターンなんて決めてしまう優は、やはり天才なのだろう。魔法を使って飛行移動する場合は制限がつく。車を使っての移動と同じ様な感じだ。勿論、魔法使い全てが飛行できるわけでもなく、飛べても車で移動する者もいる為、全体では車での移動の方が圧倒的に多くなり、快適な空の速度制限を忘れてしまう人も多いのだが。


「あと何キロ早く飛べば、十分くらいの短縮になるんだろうか。」


「やめてよね。それよりも早く起きてよ!!」


 そんな話をしながら、翔も優も内心安心しきって前方不注意だったのかもしれない。翔はつい前を見ないで飛行してしまい、優も声をかける事が出来なかった。


「………うわっ!?」


「きゃあっ!?」


ドンッ


 油断して前から眼を離した次の瞬間。ドンッと、音を立てて前を飛んでいた人に当たってしまった。昨日から続いて2度目だ。もっとも、昨日の場合は相手から当たって来たのだが。ともあれこれも立派な交通事故である。シールドがなければお互いに即死だった……気が抜けている証拠だ。


「……翔って当たり屋志望? 昨日もあの子に当たっちゃったんでしょ?」


「うるさい……っと、大丈夫ですか? すいません、よそ見してて…………あっ……。」


「大丈夫です。シールドもあるので驚きましたが怪我はありません。こちらこそよそ見をしていて、気配も……こんな筈では…………あら?」


 顔を上げて相手の顔を見てみると、その顔は昨日見たばかりの少女のものだった。こちらと同じ様に驚きの表情を浮かべて瞳を丸くしている。


「君は確か……魔法瓶の子だよね?」


「え……? あ、はい!! そうです、昨日は手伝って頂いてありがとうございました。」


 どうやら昨日の今日であった事もあり、少女も翔を覚えていたようだった。昨日と同じ様に、再びペコリと頭を下げられてしまう。尤も向こうは杖を使っている様子なので、座っている関係上昨日と同じ45度のお辞儀にはなっていなかったが。


「あー、えっと、本当にごめんな?」


「いいえ、こちらこそ不注意でした。貴方の気配に気が付かないなんて……うーん……。」


「気配? 殺気とかか? まあ高速飛行中はある程度仕方ないよな。だからシールド張ってるんだし。とにかく、申し訳なかった。」


「………ほら、翔、急がなきゃ。」


 何やら考え込む少女に向かって、翔が念をおして謝ると、優がムッとした様子で催促をしてきた。謝るくらいちゃんとやらせてくれと思うが、余計な事を言った上に遅刻なんてしたら後で魔法攻撃をされるので黙っておくのが良いだろう。相手の女の子には悪いが。


「はいはい、わかったよ……。それじゃあ、またっ!!」


「え、あ、はい……。って、あの制服は……もしかして……。」


 少女は急いだ様子の2人を見て、暫くぼーっとしていたが、自分も急がなきゃいけないことを思い出して我に返った。


「あ、わ、私も急がなければ!!」








----

------

--------







「おおっ!! 2人共遅かったなぁ。」


 辰は2人より一足先に学園に来ていた。3人が通うのは光明こうめい学園という大学附属の高校だ。かなりの人気がある高倍率校であり、魔法に特化して勉強している魔法校でもある。国内だけでなく、世界規模で見てもその魔法学は間違いなく最高レベルだ。中には、本当の名家の出なんかがうようよ居たりする。


「さてと、辰、俺達のクラスはどうなった?」


「ああ、まだ見て無いんだ。というか、どこにあるのか分からん。」


 まだ張り出してないのかなぁ。とか考えていると後ろから背中を叩かれた。優の表情が少し歪んだのを見るとどうやら女らしい。……この認識の仕方はどうかとは思うが、確実だ。


「すいませーん、クラス名簿がどこにあるか分かる?」


 話しかけてきたのは、紫色の髪を肩の下辺りまで伸びるサイドテールに纏めた少女で、背中に赤い宝珠のついた杖を差している、しかしこれまた容姿のレベルの高い美少女が出てきたものだ。やはり優で識別するこの方法は信頼性が高いらしい、容姿のレベルに関しても、だ。美少女のレベルが高いと露骨に嫌な顔するし。


「いいや、俺らも今それを探してて……。」


「ふーん、やっぱそっかー……あっ。」


『あーあーあー、皆さーん、長らくお待たせしましたぁ!! ふふふっ、聞いて驚いてはいけません。今から皆さんには殺し合いをしてもらおうと思います!!』


 それは校舎のスピーカーから聞こえてきた。さて、ここはいつから傭兵の訓練所になったんだ? と誰もが思った。驚くというより、皆ぽかーんとしている。これは何か悪ふざけの類なのか?


『ルールはかんた、いたっ……!! 何するの司ちゃん!? あ、ちょ……まいくぅぅぅぅっ。』


 スピーカーからギャーギャーと声が聞こえてくる。どうやら何か揉め事が起きているらしい。当たり前だが、不測の事態の様だ。まぁ本気でこの場で殺し合いをしろと言われたら、勝ち残るのは誰か簡単に予想が付く。速やかに棄権をさせて貰おう。狙われるのは俺だ。


『いいから奏は退いていなさい……っ!! ………大変申し訳ありませんでした。クラスを発表します。』


 後ろから酷いよ……とか泣きそうな声が聞こえてくる。しかしそんな言葉を無視して司と呼ばれていた先生らしき女性は続けた。すすり泣く声はオールスルー、子供でも連れて来ていたのだろうか?


『いた、痛いっ、髪を引っ張らないの……っ!! ……皆さんの校章を手のひらに乗せてください。』


 思わず、校章? とクエスチョンを浮かべてしまったが、翔達は取り敢えず言う通りにしてみる事にした。


「うわっ!!」


「ふぅん、手が込んでるわねぇ……さすが。」


 校章を手のひらに置くとそれが赤色に光りだした。いや、赤色だけではない。周りを見ると青や黄色などに光っている物もあった。そして翔達もそれを見て大体の事を察した。


「つまり、色ごとにクラスが分けられるわけか。」


 スピーカーの向こうで司と呼ばれていた教師は続ける。


『それはその人の魔力を感じとり、相性の良い人同士を見つけると言ったものです。高価な物なので紛失しないで下さい。同じ大きさの宝石ならなんでも買えてしまいます。』


「うわっ、まじか。盗難には気を付けないとな。」


 校章の値段に少し怯みながらも翔が周りを見ると、紫色の髪の少女を含めた3人は、翔と同じ赤色の光を発していた。


「まぁ分かってはいたけど、また翔と同じクラスみたいね。ふふっ、末長くよろしくね?」


「……末長く宜しくするかはともかく。まあ安心したよ。辰もそうだし、そこの、え〜と……。」


「私? 私は未倉魔夜だよ。よろしくね?」


 未倉 魔夜 (みくら まや)だよ、と自己紹介してくれた少女は、翔達に向かってにこっと笑顔を向けた。うん、可愛い。可愛いけど隣の人の表情が怖すぎる。


「あー、じゃあ、未倉さんもよろしく。」


「あはは、魔夜で良いよ?」


 魔夜はもう一度にこっと笑ってそう言った。優の笑顔を見慣れていなかったら、かなりの確立で男が撃墜されそうな笑顔だ。見慣れていてもかなりの衝撃が来るのだから間違いない。物理的な衝撃を加えてきそうな人とは目を合わせたくない。


「そんじゃあ魔夜も、これからよろしくな。」


 よろしく、と魔夜も返事を返し、優と辰にも律義にそれを繰り返した。礼儀の正しい子である様だ。そういう人間は自分達のグループにはいない。貴重な人材だ。


『あーもう奏、本気で泣かないで? ねっ? 貴方も先生なんだから………。……え、えー、こほん。まず赤色の光を出した人は……。』


 司が奏と呼ばれた人物を泣き止ませるのを諦め、クラスの説明を始めたので、後ろで聞こえる泣き声はあくまで聞こえないフリをしつつ、翔達はそれに耳を傾けた。







「へぇ、やっぱり広いな……。」


 光明学園を建てた人は、石油王だったとか、国をいくつか買い取ったとか聞いているが詳しくは不明だ。だが、この広さはそのためだろう。何か黒いものを背負っていてもおかしくはない。


「クラスは……あれか。」


 1年A組それが翔達のクラスだった。クラスに入ると周りは当然知らない人ばかりなはずだが、かなり賑やかで翔も何となく安心できた。


「ねっ、翔? あの子ってさ。」


 優が見ているのは今朝ぶつかった魔法瓶の女の子だった。どうやら同じクラスらしい。ここまで一緒となると、何かと縁があるようだ。


「ああ、同じ学校だったのか、それも同じクラス……。」


「ほぉっ、運命を感じるねぇ……折角高校に上がったんだし、スタートダッシュにレッツアタックと行くかぁ!!」


 そんな事を言いつつ辰が少女に話しかけようと近付いて行く。今日はなんだか手が早い。いつもはこんな感じではないのだが、初日でテンションがあがっているらしい。まあ結構なことだ。


「ねぇ、君って昨日の店の子……。」


 少女が辰に気付き、振り向こうとすると翔と目が合った。その瞬間、何故か少女の表情がパァッっと華やいだ。同時に約一名の表情が固まった。今日は随分とこのパターンが多い気がする……。


「貴方は……やっぱり一緒の学校だったんですね!! この学校の制服を着ていたみたいでしたから、そうだろうとは思いましたけど。一緒のクラスになれたみたいですね。これもきっと何かの御縁です。」


 優や魔夜とは違う制服姿の少女は、そう言って翔の方まで駆け寄ってきた。ちなみに光明は生徒数が多いので皆一緒の制服ではつまらない!! という事で男女ごとに種類がある。ちなみに優は男だが女子用のブレザーだ、これは例外としても、魔夜はワンピース風、少女が着ているのは和服寄りのデザインの制服だ。着物の様なデザインというのが近いかもしれない。優はなんで女子用の制服を持ってるんだよ、と翔は突っ込みたくなったがあえて触れない。一目で優を男だと分かる人間は多くない、分かってもそれは翔や辰の態度から予想したり推理する必要がある。


「確かに縁があるな、俺は篠原翔だ。よろしくな。」


「は、はいっ!!」


 翔が自己紹介をすると、少女は少し恥ずかしそうに返事をした。……うーん初々しくてイイんだけど、思わせぶりな態度は俺の命に関わっちゃうんだよなあ。


「あ、私は愛沢(あいざわ) 美里(みさと)っていいます、それでその……。」


「…………?」


「もし宜しければ、名前で呼んで頂けますか? 苗字で呼ばれるよりもその方が好きなので……それと、私も翔さんってお呼びしたいのですけれど……。」


「ん、構わないよ?」


「あ、ありがとうございます!!」


 翔が答えると、美里は嬉しそうに微笑んだ。あー、やっぱり可愛いなあ。背中に突き刺さる視線は知らないフリをしておこう。そんな風に二人で暫く話していると、翔との話が一区切りしたと踏んだのか、魔夜や優も会話に入ってきた。


「美里ちゃんかぁ、私は未倉魔夜って言います。あとで自己紹介すると思うけど、宜しくね?」


「あ、はい。宜しくお願いします。」


 魔夜がそう言って挨拶をすると、美里も律儀に頭を下げて返した。今更だが、なんだかこのクラスは美少女比率が高い気がする。少なくとも、この場でそれを否定する人間はいないだろう。三人中三人だ。あれ、一人男が混じってる気がする。


「あ、私も優って呼んでね? 美里ちゃん。」


「はい、優さんも一年間宜しくお願いします。」


 そんな事を考えてる間に、早くも女性陣は仲良くなっている。優のああいう所は昔から変わらない。男女の垣根無く輪を作ってしまうのはもう特技と言ってもいいだろう。そのくせ、ずっと翔の傍から離れないから勘違いする人間も多いのだが。


「俺は……。」


 辰が自己紹介を始めたがもう誰も聞いていない。持論だが、女子が集まって話を始めるとこんな感じになる事が多い気がする。翔は哀れと思ったが放っておくことにした。取り敢えず今は、この二人に優についての最重要事項を伝えておかねばなるまい。


「ちなみに二人共、優は男だから。女子だと思って接しない方がいい。何れ分かるとは思うけどな。」


「あれ、篠原君って優ちゃんには意地悪なんだ? ふふふっ、俺の優にさわるなぁ!! って感じ? そんなんじゃ嫌われちゃうわよー?」


 翔のその言葉に、魔夜が冗談めかして言う。美里は優をじーっと見ていたが、明らかに信じていない。


「魔夜、止めてくれ。真面目に悪寒がする……。」


「はぁっ、翔がそういう意味で言ってくれれば良いんだけどねぇ。残念ながらまだ男よ? 私。」


 くすっと笑って優が言うと、翔は半分諦めた様な眼で優を見た。まあこれは後々要らぬ誤解を招く事もあるし、優もそれは分かっているので毎年の定例事項となっている。


「まだとか言うな。」


「あら、翔が望めばいつでもいいわよ?」


 いつも通りのやり取りだが、優なら本当にやりそうで怖い。このやり取りにさすがに魔夜と美里も気付いたようで、眼を見開いて驚いた。


「え、えっ? まさか男性って……本当なんですか!? 私てっきり女の人かと……服も女性用ですし……。」


「私もだよ……へー、可愛いのになぁ……。でも、同性愛とか性転換とかは普通に出来るんだよね? 魔法もあるし………。」


 頼むからやめてくれ。と翔は切に思った。


「そうだよ? だから卒業しだい婚約を……。」


「はーい、HR始めますよ〜♪」


 トラウマになりそうな事を言われる前に担任が入ってくる。翔は溜息をつきつつ席に戻っていった。どうやら退屈しない高校生活になりそうだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ