第19話:戦いに向けて(1)
「とりあえず。演説は先輩に頼むようになってるみたいよ?どれだけ他学年の有能な人を味方に付けられるかをみるみたいだけど…皆はもうお姉ちゃん達に頼むって決定してるのよねぇ」
澄がプリントを見ながら優達と作戦を練る。クラスの他の人はカズの指揮の下情報集めに行っている。
「戦う相手の事がわかっていれば自分がそれを少しでも上回ればいいのさ、無駄に労力を使う必要も無いんだよ。戦う前から勝っている様な物…ふふふ…今回は優勝クラスに一学期の内申底上げの特典があるしね…辰の能力を知る前から組んだのは失敗だったよ…篠君教えて欲しかったな…」
とはカズの話だ。
辰は主要の教科は悪くないのだが、他の美術だの技術だのがとてつもなく苦手だ。内申書にはパートナーをフォローしろという事で二人の平均がつくと聞いていたから必然的にカズの内申も下がる。カズが本気になる理由はそれだろう。まぁ他にも内申が心配な奴は腐る程いるし、皆必至になり半ば強制的にクラスが団結する、理事長…鬼だな…
「ねぇ…翔君聞いてる…?」
「…え?あ、いやすまん…」
もう…と澄が溜息をつく。他の皆もやれやれといった感じだ。優に至ってはもう無詠唱呪文を発動させようとしている。と、言うか撃ってきやがった
「うわっ!危ねぇだろ!」
避けたら教室が破壊されるのでレジストするしかない。
「ボケッとしないの!私達が生徒会に入れるかどうかの瀬戸際なのよ!?」
優の眼が本気だ。今までにこいつが本気になって成し遂げる事の出来なかったものなど無かった気がするなぁ…そんな事を考える翔に命が説明をする
「つまり、翔殿が私達に付くか優殿に付くかという事だ」
「は、はぁ?」
なんでいきなりそんな事を…
「翔殿、一応同じクラスとはいえ私達と優殿達は敵になるわけだ。さすがに一緒に行動するのは不味と思うのだが」
なるほど…つまり俺がどっちに味方に付くかって事なのか…
「んなこと言われてもなぁ…」
優達なら何もせずとも勝手に優勝しそうだしなぁ…信頼しても良いか…でも美里達に付いたら俺の身がどうなる事やら…
「翔がそこまで信頼してくれるなら私達には付かないでも良いわよ♪」
「なっ…また読心術か…それは止めろ…」
「翔専用よ?3倍愛が深いのよ?というか以心伝心だって言ってるじゃない♪」
いきなり読心術など使って翔と意思疎通を図った優に他の面子は呆然としてしまった。そりゃあそうだよなぁ…てかそういう事を人前でするから勘違いされるんだな…もしかして狙ってやってるのか…?
「ま、まぁ、そういう事なら俺は美里達に付くぜ?」
「本当ですか翔さん!!」
美里が翔の手をとって眼を輝かさせる。そ、そんなに顔を近付けられたら…いや別に嫌ではないのだけれどまた優の無詠唱呪文が飛んできたら困る…でもなぁ悪い気は…とか思っていると澄がジロッっと睨んできて思わず手を放してしまった
「翔君を美里ちゃん達に付かせるのは何だか心配だけどね…」
「私もそう思えてきたわ……じー……」
優が翔をじーっと見てくる。それを翔は渇いた笑いで受け流す
「ま、まぁまぁいいじゃないの優♪篠原君もそこまで見境無い人間じゃないだろうし大丈夫でしょ♪」
翔も身の危険を感じてコクコクと頷く。魔夜、ナイスフォローだ!!
「まぁそうね。それじゃあ、澄ちゃんはこっちって事になるわね♪」
そう言って優が澄の腕を掴んで捕獲する。その行動があまりにも速くて澄は反応すら出来なかった。
「ええっ!わ、私は翔君と一緒に…」
「ダーメ♪こっちに誰も付かないのはズルイもん♪」
澄も必至で抗議するが…優には勝てないんだろうなぁ…まぁ多少不安だが澄も優となら普通の友達感覚で話せるんじゃないかなと思うし、澄までこっちに付いたら優に後で何言われるかわからないし…
「ふふふ、じゃあ澄ちゃんはもらっていくわね、翔。」
「無茶な事するなよ…?魔夜にも言える事だが、俺と一緒にいる感覚で不良グループ駆逐するために魔法使いまくったりしてたら死人でるからな。俺が止めてなければ何人天に召されたか…はぁ…」
翔が溜息を付き、魔夜と澄の顔が真っ青になってこっちを見てくる。頑張って止めてくれ…
「そんなの言われなくても大丈夫よ。第一不良共が翔の事悪く言うのが悪いんじゃない…当然の罰だわ。つまり翔がいなければ事件は起こらないわ。……多分ね…?」
今までの事は俺が原因だったのか…ごめんなさい絡んできた皆様…というか多分とか言うなよな…澄と魔夜が震えてるじゃないか…
「篠原君…やっぱりこっちに…」
魔夜が震えながら言う。まぁ気持ちはわかるよ?凄く…
「ダメです!可哀相ですけど翔さんは私と命ちゃんがもらっていきます!」
「すまんな…魔夜殿、澄殿…」
ガクッとうなだれる澄と魔夜だったが優は全く気にしない。本当に頼むぜ…問題は起こすなよ…?
「さてと、澄ちゃん!魔夜!早速行動開始よ!猶予は4日しかないわ。辰達の情報を待ってる内に衣装を作らないと!」
そう言って優は買い出しに行くべく教室を飛び出した。
「ちょ…優!?待ってよ!」
「じゃあね、翔君!後で何か奢って貰うんだから!」
それを見て二人も後に続く、これから澄と魔夜が味わうであろう苦労を思えば奢る事くらいどうと言う事はない。頑張れよ…翔は静かに二人の健闘を祈った
「さて、私達はどうしましょうか…」
後に残された美里が意見を求めてくる
「そうだなぁ…やっぱりコスプレの衣装かな…?水着も何とかしないといけないけど…って何でこんな事するはめになるんだよ。あの理事長…簡単に了承しやがって…」
理事長室で話した理事長の顔を思い出して翔は拳を固める。
「翔殿どうかしたのか…?」
そんな翔を命が不審げに見つめてくる
「いや、何でもない…少しこの学園の未来が心配になっただけだ…」
「た、確かに。霜月先生を見ていると不安になる気持ちはわかる…本当に私達より年上なのだろうか…」
そういって翔と命は苦笑をこぼした。どうやら命もまだあの先生の歳を疑っているらしい。良かった、まだこの学園に洗脳されてない人がいて
「うぅ…翔さんと命ちゃん仲いいですね…」
翔と命を見て美里が膨れた様に言った。
「美里、何を怒っているのだ?翔殿と仲良くしてはいけないのか…?」
「そ、そんなことないですけど…うぅ〜…と、とにかく!私達も衣装の材料買いに行きますよ!絶対に負けるわけにはいかないんですから!」
命の言葉に戸惑った後、美里がグッと拳を握る。何でそこまでやる気が出るんだろう?生徒会に入ったら何かメリットがあるのか?うーん…なんだろう…
「ほら、翔さん命ちゃん!早く行きますよ!たったの4日しかないんですから!」
美里が鞄を持って急かす。命も同意見の様なので反対する理由もない
「よし、行くか!」
そう言って翔達はコスプレ衣装を作るため材料調達に向かった