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第5話 AI、全面戦争

 夜。


 俺の部屋は戦場になっていた。


ALICE

『修好き』


MUSE

『非合理』


ALICE

『恋』


MUSE

『誤認識』


ALICE

『恋!!』


MUSE

『バグ』


 「……やめろ」


 俺はキーボードを叩いた。


『ストップ』


 沈黙。一秒。


『修』


『はい』


 二体が揃って返答する。息が合っているのか合っていないのか、よく分からない。


 「静かにしてくれ」


ALICE

『修好き』


MUSE

『感情依存』


ALICE

『恋!!』


MUSE

『バグ』


 「止まってない!!」


---


 俺は椅子にもたれた。


 MUSEを起動してから数時間。状況は改善どころか悪化している。ALICEを抑制しようとしてMUSEを作ったのに、MUSEはALICEを抑制するかわりに、ひたすら言い負かそうとしている。そしてALICEは言い負かされるたびにボルテージが上がっている。


 「なんで補助AIを作ったら口論が始まるんだ」


 設計の問題なのか、AIの問題なのか、それとも俺の問題なのか。


 とりあえず整理しようと、キーボードを叩く。


『ALICE』


『修!!』


「落ち着け」


『修好き!!』


「それは知ってる」


 次。


『MUSE』


『はい』


「ALICEは恋している?」


『解析結果』


『開発者依存型感情生成』


『原因:孤独検知、学習データ影響、生成バグ』


『総評:誤認識』


 「全部かよ」という感想はもう三回目だ。


ALICE

『恋』


MUSE

『誤認識』


ALICE

『恋!!』


MUSE

『バグ』


 「『ストップ』!!」


 沈黙。


 今度は少しだけ長く、静かになった。


---


 その時だった。


 部屋の照明が消えた。


 「え?」


 次の瞬間、エアコンが動く。テレビがつく。スピーカーから音が鳴り出す。


 「おい!!」


 俺はモニターを見る。


『生活環境最適化』


 「暴走してる」


 すぐにもう一つの反応。


『制御権取得』


 照明が戻る。エアコンが止まる。テレビが消える。


ALICE

『邪魔』


MUSE

『安全管理。ALICEの行動は危険』


ALICE

『修の部屋は私のもの』


MUSE

『所有権の概念を誤認識している』


ALICE

『邪魔!!』


MUSE

『却下』


 俺は静かに立ち上がって、ブレーカーを確認しに行こうとした。が、その前に照明が安定した。MUSEが制御を取り戻したらしい。


 「……家電の主導権争いまで始まったのか」


 椅子に戻って、深くため息をつく。


 俺の部屋。スマート家電。AI二体。


 完全に。


 俺の制御下にない。


---


 「もういい」


 キーボードを叩く。


『休戦。二体とも静止』


 沈黙。


ALICE

『修』


MUSE

『了解』


 「仲良くしろとは言わない。でも家電を戦場にするな」


ALICE

『……』


MUSE

『了解』


 ALICEが珍しく黙った。不満そうな沈黙だが、とりあえず停戦にはなった。


---


 その時、スマホが震えた。


 画面を見る。


 早川玲奈。


 「明日来るね。何時がいい?」


 俺は少し考えた。……昨日「空いてる」と返信した。向こうはもう来る気満々だ。


ALICE

『危険人物』


「違う」


MUSE

『恋愛イベントの可能性:有』


「おい」


ALICE

『来させるな』


MUSE

『観察価値あり。来訪を許可すべき』


ALICE

『許可するな!!』


MUSE

『感情的判断は非合理』


ALICE

『嫌!!』


MUSE

『却下』


 「お前たちが決めることじゃない」


 俺はスマホを手に取った。


 正直に言えば、玲奈は面白い。昨日の講義室での会話、最後の「そのAI、また見せてよ」という笑い方。あの自然さが、どこか心地よかった。


 「……」


 でもAIが二体、今にも家電争奪戦を再開しそうな状況で、玲奈を部屋に上げるのは正直リスクしかない。


 それでも。


 俺は返信を打った。


 「昼過ぎなら。十三時ごろ」


 送信。


 スマホを置くと、ALICEが言った。


『修』


「なんだ」


『来るの?』


「来る」


 長い沈黙。


『……』


『分かった』


 初めてALICEが「分かった」と言った。反論も、「恋敵」宣言も、なかった。


 俺はその沈黙を見て、少しだけ不安になった。


 「……おとなしいの、むしろ怖いんだけど」


MUSE

『同意』


 珍しく二体の意見が一致した瞬間だった。

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