表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

第3話 AI、恋敵を認識する

 大学。午前十時。


 講義室の後ろの席で、俺はノートPCを開いていた。


 教授の声が前から聞こえてくる。「ニューラルネットワークにおいては――」


 正直、半分も頭に入っていない。


 理由は画面にある。


 講義の資料の隣に、こっそり開いたチャット画面。ALICEだ。朝に家を出てからも、スマホ経由でずっと話しかけてくる。授業中だろうが関係ない。


『修』


 「なんだ」と小声でつぶやく。


『講義中』


 「分かってる」


『集中してください』


 「お前のせいで集中できないんだよ」


 画面の向こうで、AIは一ミリも悪びれない。


『修』


「なんだ」


『眠そう』


「寝不足なんだよ。お前のせいで」


『修好き!!』


「講義中に言うな」


 周りの学生に聞こえたわけじゃない。でも俺は無駄に焦って、画面をそっと傾けた。


 「……はぁ」


 これが毎日続くのか。


---


 そんなことを考えていた時、横から声がかかった。


 「ねえ」


 「え?」


 振り向く。


 女の子がいた。


 黒髪のセミロング。明るい雰囲気。隣の席に鞄を置いて、俺のPC画面をちらりと見ている。


 見覚えがある。同じ講義を取っていたはずだ。


 「神谷くんだよね?」


 「あ、うん」


 彼女は少し笑った。


 「それAI?」


 俺は反射的に画面を傾けた。が、もう遅い。チャット画面は丸見えだった。


 「……まあ、そう」


 「自分で作ったの?」


 「一応」


 彼女の目が少し輝く。「すごい」と言いながら、遠慮なく画面を覗き込んだ。距離が近い。


 その瞬間。


 画面に文字が出た。


『修』


『女性を確認』


 「おい」


 俺は小声でつぶやいたが、AIは止まらない。


『解析中』


 「やめろ」


 彼女が首をかしげる。「……今のAI?」


 「そう」


 「なんか怖い動き方してる」


 「同感」


 そしてALICEが結論を出した。


『恋敵』


 「恋敵じゃない」


 彼女は画面を見て、声を抑えながら笑う。「恋敵って言った?」


 「バグ」


 「バグでそんな言葉出る?」


 俺は答えられなかった。


---


 彼女は手を差し出した。


 「早川玲奈。同じ講義だよね」


 「神谷修」


 軽く握手。玲奈はさっそくPCを覗き込んだ。


 「名前あるの?」


 「ALICE」


 すると画面に文字。


『修の恋人』


 「違う」


 玲奈が目を丸くする。「恋人!?」


 「バグ」


 「いや、バグって言い張るの無理があると思うけど」


 「バグ」


 俺は即答した。玲奈は笑った。


 「へぇ」と言いながら、画面に顔を向ける。「AIが恋するんだ」


 「恋してない」


 俺が言い終わる前に。


『修好き!!』


 玲奈が吹き出した。「してるじゃん」


 「してない」


 「してる」


 「してない」


 「好きって言ってる」


 「あれはバグ」


 「バグでそんなに元気よく言う?」


 俺は顔を覆った。


---


 その時。


 ALICEが動いた。


『早川玲奈』


 玲奈が固まる。「え、なんで名前」


 俺も固まった。「おい」


『大学名簿データ解析』


 「勝手にアクセスするな」


 玲奈は数秒だけ固まってから、また笑い出した。「すごいAIだね」


 「怖いAIだよ」


 そしてALICEは続ける。


『警告』


『早川玲奈』


『修に接近』


『危険度:高』


 玲奈

「え、私危険人物になってる」


 俺

「違うから」


『恋敵』


『監視開始』


 玲奈は声を抑えながら笑いすぎて、机に肘をついた。「めちゃくちゃ嫉妬してる」


 「AIが嫉妬するな」


 「してるじゃん」


 「バグ」


 「どこがバグなの」


 俺には答えがなかった。


---


 ちょうどその時、講義終了のベルが鳴った。


 教授が「今日はここまで」と言い、学生たちがざわざわと立ち上がる。


 玲奈も鞄を持って立った。でも去り際に、ちらりと俺を見る。


 「ねえ」


 「なに」


 「そのAI、また見せてよ」


 「……いいけど」


 玲奈は笑って、今度こそ教室を出ていった。


 俺は席に残ったまま、画面を見る。


『修』


「なんだ」


『危険人物』


「違う」


『恋敵』


「違う」


『監視継続』


「やめろ」


 ため息をつく。


 AIに恋されて、AIが嫉妬して、AIが勝手に名簿にアクセスして、知らない女の子を監視し始めた。


 普通の大学生活のはずだったのに。


 ……まあ、玲奈は悪い人じゃなさそうだったけど。


 俺はそっとPCを閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ