EP.5 乱雑な。
「はあぁ、はぁ、」
あれ、俺何やってたんだっけ。そうだ、あいつらが。
ゆっくりと現実味が戻ってくる。夢のような浮遊感はもうない。魔法もない。それなのにもう聞き飽きたエンジンの音がまた戻ってくる。それが大きくなるたびに冷や汗が垂れる。体力はもうない。なのに、まだまだたくさん。もう気力もなかった。
その時だった。
「こちら戦闘課B班!これより突撃を開始する」
激しい銃声が耳に飛び込んでくる。加勢だ、よかった。
「あ、あぁ、」
膝にもう力が入らなかった。もう貧血で、動けない。肉を切られ続けて、魔法を使い続け、痛みだけで。出来上がったのは、ぼろぼろになった車が十数台と、飛び散った破片だけだった。銃声が大きくなっていくと共に、エンジン音が小さくなっていく。
「負傷者1名!担架で運びます!」
その時に初めて、自分が起こしたものがどれだけ酷いものかを知った。車の赤青緑の破片が自分の血で染色されて、どことなく喉にナイフを突き刺されたようなそんな感じがあった。恨みつらみはたくさんある。来るのが遅いだの、でもそんなの言ってられるほどの余裕は、なかった。そもそも命の危険をおかして助けに来てくれたんだから、恨みつらみを言う方がおかしい。込み上がっている思いを抑えて運ばれる担架の上で揺れるままに、身を委ねた。その時に莫廻さんの顔が見えた。表情はわからなかった。なぜかわからないけど、それを見るのが少し怖かった。
* * ♤ * * ♤ * * ♤ * * ♤ * *
ぴっ、ぴっ、ぴっ
妙に安定した音、それでどことなく落ち着けない音。その音で目を覚ます。見慣れない白い天井。全身から繋がれてる管の数々。上半身を起き上がらせる。
「起きた?」
「君、なんとなく分かってると思うけど、出血過多で搬送されたの。病院にね」
莫廻さんは顔を合わせてくれなかった。
「君に色々言いたいことがあるの、ちょっといい?」
「大丈夫です」
「まず、君は組織で管理することになったの」
「え?俺の意思関係なくですか?」
「そう。君の意思関係なく強制」
「はっ?え、なんで、ですか?」
「君が危険だから。はっきり言ってあそこから重装備もなしで、治療が輸血だけで済んでいるのがおかしいもの。それに加えて、一人で12体もの魔獣を討伐。アサルトライフルとかそういった銃を持っていたならまだしも、君は拳銃一丁でそれらを討伐した……。明らかに異質よ。それにあの未知の能力。管理しない方がおかしいでしょう?」
声はどことなく無機質で。少しだけ不安定な気がした。
「そうですか」
意外性も何もなかった。なんとなく、気づいていた。
「管理という雇用に近いけどね。戦闘課で働いてもらう」
「衣食住はちゃんと用意するから。悪いことじゃないでしょ?」
「……はい」
不満はなかった。それよりも安堵感の方が強かった。でも不安がないっていったら嘘になる。
「んで、未知の能力って言ったけど。あれってなんなの?あれが魔法?」
「はい。といってもあれは少し特殊ですが」
「喉を打つのが発動条件?それとも気が狂うことが発動条件?」
「”死ぬ”ことが発動条件です」
「じゃ、なんで生きてるの?」
「わかりません」
「じゃあそれはそうとして、なんであんなおかしい表情を」
「怖いからに決まってるじゃないですか!」
声が大きくなった。
死ぬことが怖い。それだけはどうしようも、なくて。でもそれしかできないから。
「あぁでもならないと、無理なんです」
「すみません大きな声出しちゃって、わざわざあんな状態でカバーしていただいたのに」
「……うん」
莫廻さんはうつむいたまま、こっちを見なかった。自然と俺の目線も下に向いていた。
「それと生存者だけど」
「1人」
「そう……ですか」
少ない。思っちゃいけないなんてわかってるけど。
「で、その生存者の少女なんだけどさ」
「その子も組織に来ることになったの」
「へ?」
「戸惑うのもわかる」
その場には、会話をしているはずなのに、そんなことを知らずにぴっ、ぴっ、ぴっと音が鳴り続けていた。
「……詳細はまた後で言う」
「これを踏まえて、聞く」
「君はどうしたいの?」
聴かれるとは思っていた。大体、そんなことを聞いてくるだろうな、と分かっていた。それでも、答えは用意できなかった。
「わかりません」
何をしたいのか。そんなのは自分だってわからなかった。今のままじゃいけない。その考えだけが頭で回る。俺はずっと上に従ってるだけ、自分に従ってるだけの、バカ野郎。しょうがないじゃない。兵長に任命されたのも俺の意思じゃなかったんだから。今この状況も俺が起こしたものじゃない。そういって、他責ばかり。他責ばっかり。他責ばっかり上手くなっていく。だったらせめて、表向きだけでも
「人を助けたい。それ以外の望みなんていらない」
表だけ取り繕った嘘ではないバカみたいな嘘だった。でもきっと、ついてよかったものなんだなとそれは本心から思った。多分腕か何か、体が震えていたんだと思う。だからか、莫廻さんの目は見透かしたような目で
「そう」
それだけ言った。その時に、目があって、莫廻さんはほろっと笑った。
どこか物言いたげですぐにほつれてしまいそうな笑みだった。
一章 完




