EP.4 綺麗な。
開発課の私がいつも見てないといけない、命が吹き飛んでく光景。その光景の中に今私はいる。硫酸の試験管を不気味なエンジン音の中にに投げては、すかさず銃を撃つ。幸いなことに、後ろは転生者が止めてくれているが、こんな量、
「っと、危な」
油断も隙もない。まずは前の、魔獣を処理しないと。こんなんじゃ生存者を探せない、四方八方からゴキブリみたいに、しかも、早い、こんなん探す前に体力がつきる。どうすれば、どうすればいいの?ダメ、前に集中しなきゃ。でも、こんな量じゃ、いや、地区長の期待に応えないと、地区長が私を信頼してくれたんだから。
って、え?
気づけば前には転生者が前に立っていた。どんどん魔獣の方へ一人で進んでいく。
「何やってるの!」
咄嗟の言葉もエンジン音に遮られてしまう。試験管を投げて投げて、撃って撃って、もうキリがない。なんで一人で、気でも狂っ
ダメだそんなことを気にしてる余裕がない!早く切り抜けないと。
ばりっ、ぼりっ
エンジン音それに紛れ、砕けたような異様な音が混じる。同時にその景色から彼の口が見えた。その度、転生者の方が心配だけど、今はそんな暇は、もう、彼を置いて逃げいやそんなことダメ!何考えてんの!犠牲は極力出さないって決めたでしょうが!
ばん
銃声、その音と同時に赤い液体が目に映る。彼が、彼が、自分の喉を、
「何、やってるの……」
見れば、彼の先には歯形がついた魔獣。彼は真っ赤な喉から
「モクシロク」
確かに、そう言った。それに呼応して壁にヒビが入りぱっくりと開く。
なん、なの。なに、あれ。目、目だ。目が、彼をじっと見てる、無数の目が彼を、じっと。目を離せなかった。そして、鼻をつんざくような焦げた匂いがした。無数の触手、タイヤが彼に傷をつけても彼はそれに構わず、体制を変えず、撃った。その姿は人よりも魔獣側を彷彿とさせた。でも、これならなんとかなるかもしれない。今のうちに、上に上がって生存者を探せば。そう考えると自然と足が階段のほうへと向かった。私が離れるのは生存者を探すため、そう探すため。怖いからなんかじゃない。パッと後ろを見た。彼の後ろ姿は、なぜか思っているよりも数倍小さいものに感じた。
足音と心臓の鼓動が響く中、肉が刺される音、裂かれる音はずっと聞こえてるけど、それが止む気配もなく、ただただ遠ざかっていくだけで、それがなんだか、こう、なんとも、言えなくて、駆け足で階段を駆け上がった。いつしか音は私の足音だけになっていた。それでも焦げ臭い匂いだけは鼻にずっとこびりついていた。……私、彼を置いて逃げちゃった。仕事なのに、
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駆け上がって、目にしたのは普段と何一つ変わらない、いつもの駐車場だった。なのに、車がここまで恐ろしく見える。そんな駐車場に
どん
音が響いた。階段の方からだ。
どんどん
どんどんどんどん
生存者だろうか?あれ、鍵かかってない。
「開いてますよ」
がちゃ
ドアが開いた。誰もいない。周りを見回しても誰も。
ぼとっ
私はその音に反応する。ドアから、どろりと緑の液体がたれ、塊となって落ちた音だった。それは一つの車ほどの大きな塊になって、その姿を見せる。
不定形でまぶしいほどの蛍光色で、透き通ったその体の中には、
骨とまだ動いている人の体があった。
ぶるるるっぐ
ぶるぐあああ!!!!
動きが速い!避けきれないほどじゃないけど、避け続けたら、体内の人の体力と息が続かない。銃は?ダメだ、もし中の人に当たったら、ってなると硫酸も使えな
「危ないな!」
どん
その音の次には、ボンネットがボロボロになっている車があった。こんなのが自分に当たっ、いやそんなの考えちゃいけない。どうする、どうすれば
「しまっ」
頬にべっとりと蛍光色のものがついた。考える隙もない。
どうすれば、一旦、一旦落ち着こう。一旦。広い駐車場、消火器、火災報知器、蛍光灯、防火シャッター、消火栓、現実的に考えると駐車場あるものといったらこれぐらい?あとは車を開けられれば、荷台に何か入ってるかもしれないけど。こんなんで、中の人を助ける?無理じゃいややるんだ、やらなきゃ。考えて、考え。そうだ。倒す必要なんてない。生存者だけ出せばいいんだ。
なら、やることはひとつ。
走ってその場所まで誘導する!
大きな体とは想像できないほどに動きが素早い、息が、息が吸えない、とりあえず、三角コーン、三角コーンあった!バーだけもらう、もう後ろに、距離が、いや、振り返るより走る!んで、んで。そのあとはえっとなんだっけ、えっと、んで、そう防火シャッター。防火シャッター。防火シャッター、あった!
違う、これじゃ防火シャッターが下げる前に、内側にきちゃう、だから一回、見極めて、見極めて。正面から奴が来る。その鈍重とは思えない素早さもっ!
避ければ意味なし!
あとは走る!振り返らずに、走って走って走りまくる!
んで、落ち着いて、シャッターを、下ろす、ハンドルハンドル、っ差し込んで、回す。挟まれ挟まれ挟まれ、挟まれ!
とにかく挟まることを祈ってハンドルを回し続けた。目を開け、そシャッターの重さで動かなくなっていた蛍光色を見て安堵した。動かなくなったそいつにバーを差し込み、少女に声をかける。
「掴まって!」
その少女はバーを掴み、私は無理やり引っ張った。
「げほっ、げほっ」
「ごめんね、遅くなちゃって」
その少女の目はまだ怯えたままだったが、ゆっくりと安堵の目に変わっていった。
私はその目を羨ましいと思ってしまった。私も怯える方でいたかった。その時、携帯から0時のアラームが鳴った。




