EP.3 不気味な。
「……それで、俺に手伝えって、言うんですか?」
「そう。やってくれる?」
「封鎖は警察がやってくれてるけど、民間人もそこに巻き込まれてる」
即答は出来なかった。喉から出てきそうなものを抑えて、
「はい」
確かにそう言った。
それを言った俺の顔は、どんな顔だったんだろう。
「目的地は?」
「デパートの立体駐車場」
車の中の空気は冷えていた。どこか張り詰めた空気感の中、莫廻さんの車は進む。現実離れしたビルばかりの町並みが流れていく。
その間莫廻さんの顔は前を向いたまま、こっちに視線を返さなかった。
規制線の前で、降りる。その光景はビルばかりの光景から変わることがなくずっと同じ景色が続いているだけだった。
「ほら早く行くよ」
トランクのドアを開けると、銃が大量に置かれていた。
「君こういうのは知ってるの?そんなの聞いてる暇ないけどさぁ」
拳銃を手に取り、莫廻さんに着いていく。空気は分かりやすく触れづらくなっているにも関わらず、あえて読まないかのように光景は何も変わらない。
「着いたよ」
その言葉を聞いた時も同じ。
「え?他の人はいないんですか?」
「いないよ」
「2人で?きし、じゃなかった、警察は?同じ組織の方は?」
「他の地点で交戦中。だから来るまで待たないといけない」
「相手の総数はいくつですか?」
「知らない。けどこの中にある車、全部が相手」
「車?擬態でもしてるんですか?」
「うん」
「それ以外の情報は?」
「ない」
「時間は?」
「0時まで。今が20時49分だから……大体3時間」
「それを2人で?」
「うん」
「む、無理ですよそんなの!」
「私だって無理だと思うよ!でも君、使えるんでしょ?魔法。そんな非現実的なものを使えるんでしょ?」
「無理だと思うならなんでやるんですか!」
「……民間人が中にいる。全滅まで時間がない」
無理だそんなの。無理に決まってる。魔法には魔獣の血が必要だ。それに使えたとしてもこの量。魔法がないなら、一体倒すのすら難しい。
「もう上の階で犠牲者が出てる。迷ってる暇はないよ」
「目的は?」
「民間人の救出。及び援軍が来るまで待つこと」
「……分かりました」
まだ少し緩んでいた空気を引き締める。冷たい空気がピリッとした。
* * ♤ * * ♤ * * ♤ * * ♤ * *
コンクリートばかりに閉ざされた駐車場。沢山の車。それが一斉に動き出す。エンジン音が周りに響く。
「もういるよ」
油断はできない。いつ襲われてもおかしくない。
拳銃をかまえながら、周りを見回す。
「後ろ!」
莫廻さんの叫び声。僅かに反応が遅れ、額がヒリヒリと痛む。血が散り、
それが見えた。
光沢のある銀色の触手。それがライトから生え、エンジン音を鳴らしている。それが自分を前にボンネットを開き涎を零した。
「離れて」
試験管が宙を舞う。ガラスの音。触手から煙が上がる。
「今のうちに離れるよ!」
おそらく効いてない。エンジン音がまだ鳴ってる。エンジン音は少しずつ大きくなる。どんどん後ろから近づいてる。このままだと轢かれて、犠牲者とおんなじ状況に。
「後ろから来てます!前からも!」
後ろにも前にも。いやそれどころじゃない。もう既に囲まれてる。
「分かってる!」
周りとの距離がじりじりと狭まる。段々と大きくなるエンジン音、同時に不快なガソリンの匂いが鼻を刺す。
「どうするんですか!これ!」
「どうするも、何も、やるしか、ないでしょ!」
「後ろ、頼んだよ!」
「え、莫廻さんは……」
「うっさい!」
莫廻さんは俺の声を振り切り魔獣に突っ切っていった。俺もやらなきゃ。
「やらなきゃ、やらなきゃ」
そうやらなきゃ。俺はやらなきゃいけないのに。なのに、なんでまだ
なんでまだ体が動かないんだ?
何を恐れてるんだ?何が難しいのか?なんでできないの?
それなのに帰ってきたの?
「はあっ、はあっ、」
帰ってきたの?酒ばっか飲んでた飲んだくれのくせに?
何もしてないくせに?
「何してるの!」
俺は、何もできないんだ。そんな、ゴミなんか全員死んじまえばいい。
ばんっ。音が鳴った。気分がいい。俺を殺すのは気分がいい。
俺に囲まれてる。
俺を食べてみた。ガソリンみたいな味がする。じゃあこっちの俺もいらないや。
俺の喉を撃った。
だんだん、俺は車の形をしたばけものに姿を変えていく。
「モクシロク」
声が出せないはずの喉からはっきりと声が出た。
壁にヒビのような曲線が走った。でも。それはヒビではない。ヒビが割れ、
たくさんの目が俺の周りを蠢く。そして。俺を見た。
そうだよな。
俺が、やらなくちゃいけないよな。
やらなくちゃ。
気づいた時には触手が目の前だった。それは俺の体を切りきざんだ。痛かった。でもやらなくちゃ。触手に銃弾を入れる。3回。本体の方にもやった。倒れなかったから、ボンネットに手を突っ込んで、撃ってみた。ようやく、それはボンネットを閉じて、ライトを消し、動かなくなった。
まだ、たくさんいる。
たくさんの触手がこっちに向く。それを丁寧に撃ち落とす。撃っても効かなかったから、普通に殴る。それでも止まっただけだったから、触手を掴んで一個一個丁寧に蹴った。
あとは、本体に近づいて、ボンネットの中を撃つだけだ。まだたくさんやることがある。




