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EP.1 冷ややかな。

 「いっただきまーす!」


こんなに大きな声、人と一緒だとなかなか出せない。氷で自然保存された缶詰を取り出す。


さて、缶詰はここからが重要だ。匂いと味。




ギコギコと音を立て、少しずつ甘い美味しそうな匂いが辺りに漂ってきた。匂いは大丈夫そう。でも、ここから裏切られるのが缶詰というもの。美味しそうな匂いで食べたらクソ不味いヤマモモとアリンコの何かが出てきたことだってある。




油断はしちゃいけない。覚悟を決めて……。目をつぶって、具材を頬張った。途端に甘い匂いとフルーティーな味が口中に広がる。この味は……、桃だ!最近不味いものしか食べれてなかったから余計に美味い!




久々のまともな食糧を食べて、体が軽くなったような。それでも、嫌というほど目に入ってくる景色が体を重く沈める。凍ったままの死体、骨、瓦礫。青い空の下、灰色のそれらがせめぎ合っている。興奮した体を抑えて、力を抜く。




人と魔獣が互いに危害を加えずに、共生するためにとの目的で結ばれ、人は魔獣の食料(人肉)を魔獣に、魔獣は魔力(魔獣の血)を人に与えることを決めた契約。それは人間が魔獣への横暴……例えば勝手に研究材料にしたり、魔獣狩りを面白がって人に危害を与えていない魔獣も殺しちゃったり。それが続いて、魔獣側が契約違反だと怒って契約を破棄して人類を攻めてきたんだ。この町に攻め込んで来たのは、アイスドラゴン。アイスドラゴンは見上げるほどの大きさで、一匹で街一つを軽々と破壊してしまう。そしてその口から吐かれるものはあらゆるものを凍らせる、なんて言い伝えもある。そんな化け物を俺は騎士団の兵長としてあらゆる手を使ってこのアイスドラゴンの討伐に挑んだ。なけなしの魔力で魔法を連発したりとか、落とし穴だとか、大きな岩を落としたりとかもした。それでも、あの化け物には到底敵わなかった。そうして、逃げるばかりして少しずつ兵力が減ってきたころ、司令官から伝達が飛んで来たのだ。兵長の俺だけに。内容はよく覚えていない。ただ一節が強烈すぎて。




「歩兵に毒を盛れ。その状態でドラゴンに食わせろ。」




要するに、歩兵を贄としてアイスドラゴンを毒殺しろ。ということだった。……それ以外に方法はなかった。魔獣は人以外を食べない。だから仕方がなかった。そう仕方なかったんだ。




結局、アイスドラゴンは討伐できた。幸いなことに民間人は来る前に避難しろといったからアイスドラゴン”には”やられてないはずだ。街を守るという目的の騎士団は、全滅した。俺のせいなんだ。アイスドラゴンの体が大きく、毒の量を見誤ったんだ。もっと毒を盛れば犠牲は少なくて済んだのだろう。でも自分の手でそんなことは到底できなかった。毒を盛るという行為が人道を外れているなんてことは知っている。分かっている。それなのに俺は”それ以上”ができなかった。それが出来なくて、アイスドラゴンに食われるまでずっと毒に苦しんでた兵士の顔は今でも忘れない。何も知らずに行けと命令されて、健気に引き受けて。既に顔は青ざめているというのに。




「兵長!俺!やります!兵長に期待されているからには頑張ります!」


「頼んだぞ」




疑われない程度の遅効性の毒。その毒が少しずつ回って、苦しんでた顔。見捨てた時の悲痛な声。忘れられない。忘れるわけがない。いいやそのどれとも違う。忘れてはいけない。




そうして、気づけば1人になっていた。




思えば思うほど悔しくなってくる。もっと上手くできなかったのか。別の方法はなかったのか。俺はなんであそこで従ったんだ!俺も所詮、上からの指示に従っただけじゃないか!




そんなこと思ったって世界は励ましたりしてくれない。世界がするのはただただ無慈悲な現実を突きつけることだけだ。ここももうすぐ、食糧がなくなる。でも、町に、兵士達に、まともな別れを告げずに町を離れるなんてあんまりだ。無責任にも程がある。俺は町に行かなきゃならない。ちゃんと、過去を振り切らなきゃ、生きていけない。そうして、町の中へと入っていった。




* * ♤ * * ♤ * * ♤ * * ♤ * *




もはや道になっていない氷の上を歩き、食堂の扉を潜くぐる。人の話し声、食堂のおばちゃんの笑顔。俺や兵隊は訓練が終わったらここに来て、おばちゃんの味噌汁飲んでたんだっけ。それも今では天井が崩れ、前を塞ぎ、割れた砂糖の瓶に蜚蠊(ごきぶり)が群がっていた。


「ごめんなさい。」


深々と頭を下げた。どれだけ謝っても、許されるわけがない。でもそれ以外、何をすれば良いのか、分からなかった。




向かい側には俺達の拠点がある。魔法の授業、肉体訓練、射撃訓練の器具が沢山置いてある。兵士達と汗水垂らした場所。無駄に丈夫でドラゴンでさえ壊せなかったその拠点は、町の人からの落書きで塗れ、兵士達のアルコールの匂いが漂っていた。




未練は、まだ沢山あった。でも、その未練は何に対する未練なのかはよく分からなかった。




中からナイフを一つ拝借して、教会へ向かう。神なんていないのは分かってる。でも、そうでもしないと、もうもたない。苦しい時の神頼み。本当にすることになるなんて。




足だけ残った神の石像。その前の魔法陣に立つ。上から差し込まれた光を浴びながら、祈った。何を祈ったのかは、わからなかった。何を祈ればいいのかも分からなかった。その光の温かさと町中を歩いた疲れでそっと目を閉じた。

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