表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘のない人生  作者: つなかん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

第八話 春の約束

 春の京都。

 鴨川沿いは満開の桜で染まっていた。

 風が吹くたび、花びらが光をまとい、空に舞う。


 紗季は橋の上で立ち止まった。

 腹の奥に、小さな命の気配を感じていた。

 まだ誰にも言っていない。

 でも、その鼓動は確かにそこにあった。


 「……紗季さん。」


 振り向くと、神谷蓮が立っていた。

 柔らかな風の中で、黒髪が少し揺れている。


 「見てください。」

 紗季が指さす先で、

 桜の花びらが水面に散り、ゆっくりと流れていく。


 「春って、少し切ないですね。」

 「そうですね。終わりと始まりが、同じ場所にある。」


 蓮は笑いながら、そっと紗季の手を取った。

 その手は、少し冷たくて、でも確かに温かかった。


 「この春、僕はまたひとつ約束をしたい。」

 「……約束?」

 「あなたと、この子を守ることです。」


 紗季は息をのんだ。

 「どうして……そんなふうに言えるんですか?」


 蓮は少し空を見上げてから、静かに言った。

 「嘘のない人生を、生きたいから。」


 その一言に、胸がいっぱいになった。

 涙がこぼれ、頬を伝って落ちた。


 蓮は、笑ったまま手を伸ばし、

 彼女の涙を指でそっと拭った。


 「あなたが泣くと、春の光まで滲んで見えます。」

 「……ごめんなさい。」

 「いいえ。泣いていいんです。

  嘘のない涙は、いちばん美しいから。」


 ふたりの間に、風が流れた。

 川の音、鳥の声、そして無数の花びら。


 紗季は、蓮の胸に額を寄せた。

 心臓の鼓動が、彼の鼓動と重なった。


 「これから先、何があっても、

  私はもう、嘘をつかずに生きたい。」


 蓮はゆっくりとうなずいた。

 「それが、一番の愛の形だと思います。」


 空を見上げると、

 花びらが光の中で輪を描いていた。


 ——人は、誰かを愛して初めて、

  “嘘のない人生”を生きようとする。


 春の風が、二人の髪をやさしく撫でた。

 桜が川を渡り、光の中に溶けていく。


 それは終わりではなく、始まりの約束。

 そして、静かな永遠の愛のかたち。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ