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第三話 静かな痛み
夜。
紗季は携帯の画面を見つめていた。
メッセージ欄の「神谷蓮」という名前が光っている。
『明日、撮影の合間に少しだけ会えますか?』
その瞬間、心臓が跳ねた。
けれど、同時に罪悪感が広がった。
彼女には、八年付き合っている恋人――
医師の桐原悠真がいた。
最近は連絡も減り、会うのは彼の都合のいい時だけ。
それでも別れを口にできないのは、
彼の“肩書き”に自分が縛られていることを、紗季自身がわかっていたからだ。
画面を閉じると、胸の奥がきゅっと痛んだ。
誰かを想うことが、どうしてこんなにも苦しいのだろう。




