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………結局、ロランド様と話せなかった。
ルザール公爵家での最後の夜を過ごすレティシアは、溜息をこぼした。
王宮で働くために必要な最低限のマナーを学ぶため、レティシアは1ヶ月間ルザール公爵家で過ごした。
勿論、彼の館だからロランドの姿を見かけたことは姿を見かけたことは何度もある。でも、レティシアから声をかけることなんて許されることではなかった。
ロランドは、ルザール公爵だった。
王太子殿下の従兄弟でもある高貴な身分の公爵。
公爵にレティシアが話しかけることなんてできない。ロランドがレティシアを一瞥する姿をただ見るだけだった。
ロランドがレティシアの身体中につけた鬱血痕が薄くなっていくように、ロランドのレティシアに対する興味も薄れていっているようだった。
時を経て再び訪れた王宮は、レティシアが前世で過ごしていたときの趣を残していて、懐かしさが胸を膨らませる。
壁面に飾られている王族の肖像画を眺めながら、物思いにふけるレティシアを、フランソワは溜息まじりに見た。
(ルザール公爵家の遠縁の子だと聞いたけど、この子、王宮でちゃんと働けるの………?)
不安を抱くフランソワを他所に、同僚のアンリがレティシアに優しく声をかけた。
アンリはおっとりしたいい子だが、レティシアと同じくルザール公爵家縁の者ということもあるのか、レティシアのことを不審がってないようだった。
「静かに過ごされるのをお好みになるから、王太子殿下のお側に寄れるのは少人数なの。だから、結構忙しくて……。でも、大丈夫よ?王太子殿下は私達メイドにもお優しいから。これから、一緒に頑張りましょうね?」
「はい…………!よろしく、お願いします。フランソワさん、アンリさん」
レティシアは2人に花が咲いたように笑いかけた。
(この子、可愛い………!)
王宮に溢れる美女達を毎日見てるせいか、容姿の優れている女性に慣れているフランソワでも思わずレティシアの笑顔に見惚れてしまった。
王家の血筋かと思わせるアメジストの澄んだ瞳。
すっと通った鼻筋。
ほのかに赤みを帯びたふっくらとした唇。
透き通った色白の肌。
どこか幼さの残る笑顔が、守ってあげたくなる。
華奢なのに、女性として魅力的な身体つきをしていた。
年の頃は20歳くらいだろうか。今まで、この子はどこに匿われていたのだろう。男性がほっとかないだろうに……。
(この子の…………、いや、ルザール公爵の目的は何…………?)
王太子殿下の部屋付きは、王宮に勤め始めたばかりの者が任される仕事ではない。レティシアはルザール公爵の強い後押しで王太子殿下の部屋付きとなった。
王太子殿下とルザール公爵は従兄弟の関係だが、良好な関係を築いている。
ルザール公爵は王太子殿下のことを慮ってレティシアを寄越したのだ、何も不安がることはないと思うもののフランソワは胸騒ぎがした。




