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―――私の前世は、この国の王女様だった。
誰もが羨むような煌びやかな生活だったと思う。
でも、王女だったから、いろんな制限があった。
前世の私は隣国の王太子に淡い恋心を抱いていたけれど、嫁がされたのは、30も歳上の国内の有力貴族だった。
生まれ変われたら、自由に生きたいと思った。
それでも、これは……、これは、ない。
微睡んでいたレティシアはいるか分からない神様への恨み言をまた思ってしまって、小さく溜息をついた。
今更自分の境遇を悔やんでもどうしようもないのに。
気怠げな体をゆっくりと起こす。昨晩の疲労が体に纏わりついていて、頭がぼんやりとして思考が纏まらない。
茜色の光が部屋のレースカーテンを照らしている。思った以上に寝てしまっていた。いい加減、起き上がろう。
レティシアは背伸びをして、鏡台の前に座った。
夜の帳に包まれだして、街は休息に入りつつある。
でも、レティシアは違う。今から仕事の時間だ。
王都一の歴史と品格を誇る娼館、レーヴ。
今日の客は娼館の中でも最も格調高い部屋に通されている。
レティシアは過剰とも思えるくらいに重厚なドアを開けた。
「ロランド様!今晩も来るなら、朝教えてくれたら良かったじゃないですか」
部屋にいたのはレティシアがそうであればいいと望んでいた男、ロランドだった。
ソファーに緩く腰掛けていたロランドは、口角を上げて微笑む。昨晩の情事のせいで、レティシアは夕暮れまで寝てしまったのに、ロランドは昨日と変わらず洗練されていて乱れを感じさせない。
ロランドは高価な調度品に囲まれた部屋の中で違和感なく馴染んでいた。精悍なルックスで身体もほどよく鍛えられている。年もレティシアと同じくらいに思えた。恐らく、高貴な身分もある。それなのに、どうして25歳にもなった娼婦の自分なんかの元へ来るのだろう。レティシアは改めて不思議に思いながらも、グラスに手をかけた。
「何呑みますか?昨日は………」
「酒はいい」
言葉少なげにソファーから立ち上がったロランドは、レティシアの肩に手を置いた。
ロランドはレティシアに5日間通い詰めていて、ついに昨晩深い仲になった。
今まで慎重に関係を深めてきたロランドなのに、今日は世間話もするつもりもないのだろうか。どこか性急さを感じさせる。違和感を感じたレティシアは、軽く小首を傾げて瞳を瞬きさせた。
ロランドは、2人っきりなのに無邪気に振る舞うレティシアが、どこか気に食わなかった。
レティシアは光沢のある純白のワンピースを身に纏っていて、その美貌も相まって穢れを知らない少女のように見える。ここは娼館ではなく深窓の王女の寝室のようにも思えてきた。今日は話をするだけのつもりだったけれど、ロランドはレティシアを汚したくなった。
「レティシアは?レティシアは俺を呑みたくないの?」
ロランドは、長い睫毛に縁取られた綺麗な青紫の瞳を細めて、レティシアを煽るように、挑発的な視線をレティシアに向けた。
先ほどまでの余裕そうな態度はどこにいったのか、視線を逸し頬を赤らめだしたレティシアを見て、ロランドは満足気に微笑んだ。
ロランドはレティシアの細腰を抱き寄せ、そのまま抱き上げた。王女様に相応しい天蓋付きのベットへ運ぶと、レティシアを優しく下ろしたロランドはレティシアに馬乗りになった。
ロランドはレティシアの滑らかな金髪を一房手にして口付けた。深い欲情を感じさせる熱い瞳が、レティシアを捉えた。
「ロランド様………?」
戸惑うレティシアの首元に、ロランドは強く吸い付いた。微かな痛みとともにいくつかの紅い鬱血痕が白い肌に浮かび上がっていく。
「ロランド様…………!止めて………!!!」
「どうして?オーナーに伝えて、レティシアのこれからの6ヶ月は俺のものにしたよ」
「えっ…………………?」
ロランドは何てこともないように言うけれど、レティシアを長期間買い取るためには大金が必要だ。
どうしてそんなことを。問いただために開かれたレティシアの潤んだ唇は、あっけなくロランドによって塞がれてしまう。
ロランドによって繰り返される口づけは深さを増し、レティシアはロランドに抗うことなどできなかった。
閨の主導権が、ロランドの手に落ちた。
されるがままのレティシアは、快楽に溺れていき、ただ吐息を漏らす。
「レティ、好きだ、好きだ、愛しているんだ」
ロランドは甘い言葉を繰り返しレティシアに使った。朦朧とする頭の中で、それがロランドの本心であって欲しいとレティシアは思った。




