表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/58

第8章:闇を統べる群れ

黒い瘴気を纏ったゴブリンの親玉が、森の奥から姿を現した。

その巨体は常軌を逸しており、普通のゴブリンの二倍はある。

皮膚は青黒く変色し、目は血走って赤く光っている。


 


「――あれが、親ゴブリン……しかも闇魔法で強化されてるな」


 


レイは目を細めながら呟いた。

セラは息を飲み、ドランは完全に硬直していた。


 


「どうする、レイ様……!? 数も多いですし、あの親はただ者じゃないっ!」


 


「落ち着け、セラ。状況を整理する」


 


周囲には、すでに三十体を超えるゴブリンが取り囲んでいた。

そのすべてが異様な魔力の波を放っている。


 


「まずは、群れを崩す。親は後だ。セラ、広域魔法いけるか?」


 


「はいっ、任せてください!」


 


セラは両手を広げ、澄んだ水の魔力を周囲に放つ。


 


「《氷鎖のアイス・シェルター》!」


 


周囲の気温が急激に下がり、地面が凍りつく。

水から生まれた氷の鎖が、数体のゴブリンの足元を絡め取り、動きを封じた。


 


「いい判断だ。じゃあ、次は――」


 


レイの手のひらに、風と炎の魔力が収束する。


 


「《烈風炎舞れっぷうえんぶ》!」


 


螺旋状に混ざり合った風と炎が、まるで生き物のようにゴブリンたちを焼き払っていく。

爆発的な熱と風圧が発生し、敵の隊列が一気に崩れる。


 


「ひ、ひいっ……! な、なんなんだよお前ら……!」


 


怯えた声が後ろから聞こえる。ドランだった。

崩れ落ちたまま動けず、呆然と戦いを見ている。


 


「――足手まといは黙ってろ。せめて逃げる方向くらい考えとけ」


 


冷たい言葉を残し、レイはさらなる魔法を構築する。


 


 


◆ ◆ ◆ 


 


しばらくして、取り巻きのゴブリンたちはすべて討ち取られた。

だが――本当の脅威は、これからだった。


 


「……来る」


 


レイの視線の先に、ゆっくりと、だが確かな威圧感を纏いながら“親”が迫ってきた。


 


「グォォォォ……ッ!!」


 


唸り声と同時に、親ゴブリンが腕を振るった。

闇の波動が放たれ、地面が裂けるように魔力が走る。


 


「っ、危ない!」


 


セラがレイを引き寄せて避ける。すんでのところで直撃は免れた。


 


「さっきの……魔法反射か。いや、違う。魔力を“跳ね返す膜”を纏ってやがる」


 


レイは冷静に分析する。

普通の攻撃では、表面の闇のバリアに吸収されてしまう。

そしてそのバリアは、魔力を蓄積し、逆に攻撃に転用してくる性質を持っていると、即座に見抜いた。


 


「これは、下手に攻撃したら返される……」


 


「じゃあ、どうすれば……!」


 


「突破口はある」


 


レイは微笑んだ。その微笑には、自信とある種の“楽しさ”が滲んでいた。

この異世界でしか体験できない、命を懸けた戦い――

それが、今の彼にとって、生きている実感を与えていた。


 


「セラ、水で奴の動きを封じられるか?」


 


「やってみます!」


 


セラが両手を高く掲げ、空中に水の輪を浮かべる。


 


「《氷結のフロスト・バインド》!」


 


空から降り注ぐ水が瞬時に凍り、親ゴブリンの両足を拘束した。

だがそれでも、完全には止まらない。


 


「今だ、隙間を狙って……!」


 


その時だった――


 


「う、うわあああっ!!」


 


ドランの叫び声。

恐怖のあまり手にした杖を振り回し、偶然にも放たれた雷の魔法が、

親ゴブリンの背中に当たった。


 


「……! 今の、効いてる?」


 


その一瞬、闇のバリアが揺らいだ。


 


「今の魔法、強くなかったからこそ通ったんだ……! 魔力を一定以下に抑えて、急所を狙えば、反射されない!」


 


レイは直ちに結論を導き出す。


 


「セラ、援護してくれ。弱い魔法を連打する。狙いは心臓だ」


 


「はいっ!」


 


セラは小さくうなずき、連続で水の矢を放ち始める。

レイも魔力を抑えた光の矢を、正確に撃ち込んでいく。


 


親ゴブリンは咆哮しながらバリアを強めるが、魔力を抑えた魔法にはうまく対応できない。

そして――


 


「――決めるぞ」


 


レイの手に、光と雷の魔力が融合する。


 


「《白雷終断はくらいしゅうだん》!」


 


輝く斬光が、空を裂くように親ゴブリンへと突き刺さった。

その一撃で、闇のバリアごと体を貫かれ――親ゴブリンは、地に崩れ落ちた。


 


「……終わった、な」


 


静かに呟くレイの手元には、親ゴブリンの体から転がり落ちた“黒い魔石”があった。

それは、かつてリオン事件の際にも見られた、闇魔法の媒介――


 


「また、誰かが“仕組んでる”ってことか……」


 


そう呟いたレイの表情には、笑みはなかった。

ただ、鋭く冷たい目が、黒い石を睨みつけていた。


 


 


◆ ◆ ◆ 


 


「おい……レイ」


 


おずおずとドランが声をかけてきた。

恐る恐る、だがはっきりと。


 


「さっき……助けてくれて、ありがとよ」


 


レイはちらりと振り返り――


 


「次は、足引っ張るな」


 


それだけを言って、踵を返した。


 


 


――この闇の裏にいる真の存在へ、レイの追跡は再び始まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ