第6章:決着の夜――炎と影の果てに
漆黒の夜空に、閃光が走る。
影と炎、闇と光がぶつかり合い、学園の裏手にある古びた訓練場が、まるで戦場のような熱を帯びていた。
リオン「……やるな、ノヴァリア」
リオン・カーディアが息を整えながら低くつぶやいた。
その身体は傷ついていたが、瞳の奥には未だ冷たい光が宿っている。
対するレイ=ノヴァリアは、息を切らしながらも、まっすぐにリオンを見据えていた。
彼の掌からは、まだ魔力の余熱が立ち昇っていた。全属性魔法による一撃、「終煌断」――それが、戦局を決定づけた。
レイ「終わりだ、リオン。もうやめろ」
リオン「……貴様に何が分かる。
この世界の腐った構造も……捨てられた者たちの叫びも」
レイは黙って聞いていた。
リオンの言葉には確かな怒りと悲しみが混ざっている。
力を持ちながら、それを破壊に向けるしかなかった彼の孤独が、透けて見えた。
レイ「俺はこの世界に転生した。
最初はただの夢だと思っていた。だけど……今は違う」
レイは、すぐそばで支えてくれたセラや両親の顔を思い浮かべながら続ける。
レイ「守りたい人がいる。失いたくない世界がある。
だから、お前のように壊すだけの力は選ばない」
リオンは目を細め、数秒の沈黙ののち、口を開いた。
リオン「……甘いな」
レイ「そうかもな。でも、それが俺の答えだ」
風が吹く。夜の冷気の中で、リオンはゆっくりと立ち上がった。
その体は限界に近く、足元はふらついていたが、その姿にはまだ強い意志が残っていた。
リオン「今回は、俺の負けだ。だが……次は違う」
そう言って、彼は魔力を展開し、闇の中へと姿を消す。
レイは追わなかった。追えなかったのではない。追わなかったのだ。
(今は……まだ、話すべきじゃない)
戦いは終わった。だが、物語は終わらない。
それは、確かな始まりだった。
◆ ◆ ◆
明け方。空が薄青く染まり始めたころ、セラが急ぎ足で駆け寄ってきた。
彼女の目は潤んでいた。
セラ「レイ様っ! 無事ですか!?」
レイ「……あぁ、なんとか」
疲れ切った笑みを浮かべるレイ。
セラは彼の手をぎゅっと握りしめた。
セラ「……ほんとに、良かった……。ご無事で」
レイはセラの手に軽く力を返し、空を見上げた。
夜が明け、朝日が昇る。闇の終わりを告げるように、空は美しく染まっていく。
レイ「セラ」
セラ「はい?」
レイ「ありがとう。……そばにいてくれて」
その言葉に、セラは顔を赤らめながら、小さく頷いた。
その後、学園は混乱を避けるために戦いのことを伏せ、教師たちの報告には「不審者撃退」の一文だけが残された。
だが、レイは知っていた。
リオンの闇はまだ終わっていない。そして、その背後には、もっと深い影が潜んでいることを。
──この勝利は、始まりにすぎない。