第67章:強化
「……で、ザイロスってどこにいるんだ?」
寮の一室で荷物をまとめながら、レイがぼやくように呟いた。セラもミナも同じ疑問を抱えている。ヴァルゼリオはあくびをひとつしてから、ぽつりと口を開いた。
「お前さ、気配察知って強化してないんだっけ?」
「は? 強化?」
レイは一瞬で固まった。自分が異世界最強クラスでありながら、意外とズボラな部分を突かれた格好だ。ヴァルゼリオは肩をすくめて続ける。
「お前の感知能力って今、基礎レベル止まりなんだよな? 魔力量が化け物だから何となく広範囲を察知できてただけで、本来の“拡張・重ね掛け・調整”をしてねぇ」
「……は?」
「本気で気づいてなかったのかよ……」
ミナとセラも呆れ顔で顔を見合わせる。
「いや、お前ら当たり前みたいに言うけどな!? 前世知識フル活用でも“察知を複数属性で強化する”とか聞いたことねぇぞ!?」
「逆に何で今までやらなかったのか不思議なんだけど」
ヴァルゼリオはそう言って、実演を交えながらレイに教え始めた。
まず【気配察知】の感覚を意図的に広げる。
そこへ【魔力感知】を重ねることで、生命反応+魔力の揺らぎを一体化して拾う。
さらに、特定個人の“魔力の癖”を記憶し、それを目印にサーチ範囲へ適用する。
「いやいや、それ普通やらねぇからな!? 何でサラッと3工程目がある前提なんだよ!?」
「俺が魔王だった頃は常識だったぞ?」
「魔王基準を押し付けんな!!!」
セラが小声で「レイ、がんばれ」と囁き、ミナはニヤニヤ笑っている。ヴァルゼリオは気にせず説明を続けた。
「ザイロスの魔力の波は独特だ。ほとんどの魔族が不快に感じるレベルで尖ってる。お前、一度直接対峙してるんだから、魔力の癖は覚えてるだろ?」
「……言われてみれば」
レイは深く息を吸って、意識を集中させた。ヴァルゼリオの指示通りに、自分の“気配察知”へ魔力感知を繋げる。感覚の網が周囲へ広がり、建物、街、人々、魔力の粒子――多重的な情報が一気に拡張されていく。
「――ッ、これ……やべぇな」
思わず目を見開いた。視覚ではなく、“意識で見る”世界が圧倒的な解像度で展開されている。
「んで、そこにザイロスの魔力をイメージして重ねろ」
ヴァルゼリオの言葉に従い、レイは記憶の奥底に残る不快な魔力の感覚を呼び起こす――あの歪んだ闇のうねり。嫌でも脳裏に焼き付いている気配。
「……!」
瞬間、視界のような感覚に“点”が浮かび上がった。普通の魔力とは質が違う。刺すような棘と、底冷えする禍々しさ。強化された感知能力によって、その位置は驚くほど鮮明に把握できた。
「場所、見つけた」
レイは目を見開き、はっきりと告げた。
セラもミナも表情を引き締める。ヴァルゼリオは口元だけで笑った。
「ほぉ、本当に見つけたか。で、どこだ?」
レイは指を鳴らしながら言い放つ。
「この大陸の北側、魔族圏と人間領の境界付近。……古代遺跡の地下だな。魔力が濃すぎるし、結界も感じた。どうせあそこだろうと思ってたけど」
「即答かよ、便利だなそれ」
「教えてもらったおかげだ。……正直、テンプレ展開のくせに隠れ家の場所だけ地味に厄介とか勘弁してほしかったけどな」
「またテンプレって言ってるし」
ミナがツッコミを入れながらも嬉しそうに笑う。
レイはその場で背伸びをして、満足げに息を吐いた。
「よし。これで――ぶっ飛ばせる準備は整った」
その声音には、確かな手応えとわずかな高揚が混ざっていた。




