第5章:黒幕の影と静かな監視
訓練迷宮での魔物暴走事件から数日が過ぎ、学園は表向きの平穏を取り戻しつつあった。
しかし、その静けさの裏で、レイ=ノヴァリアの心は休まることがなかった。
手の中で握りしめる黒い触媒の欠片は、まるで冷たい氷のように重く、その存在をひた隠しにするようだった。
あの魔力は間違いなく、リオン・カーディアのものだ。
誰よりも冷静で、誰よりも強大な魔力を持つ彼が、暗躍している証拠だった。
(今、動けば全てが崩れる……証拠はまだ薄い。学園に告げるには早すぎる)
レイは深く息を吐き、冷静さを保とうと努める。
彼の選択は「泳がせる」こと。
リオンが何を企み、どのように動くのかを見極めるために、じっとその時を待っていた。
セラ「レイ様……先生に話さないのですか?」
セラの声が、部屋の静けさを破る。
レイ「まだだ。今話しても、何の意味もない。むしろ学園に動揺を与えるだけだ」
セラは黙って頷き、彼の決断を理解しようとする。
二人の間には、言葉以上の信頼があった。
日常は平穏を装っていたが、レイの警戒心は日に日に増していった。
授業中も、休憩時間も、リオンの一挙手一投足に目を光らせた。
その冷たい瞳の奥に潜むものを見逃さないように。
(表面の無表情の裏には、計り知れない闇が潜んでいる)
闇夜が深まるごとに、レイの心は重く沈んだ。
学園の隅々まで、魔物の気配を探り、影を見張る目を光らせた。
レイ「次の動きは間違いなく来る……奴はまだ手を緩めていない」
セラにささやくように告げるレイ。
セラは強く頷き、緊張の糸をピンと張り詰めた。
夜の静寂が支配する頃、異変は突如として訪れた。
闇に包まれた学園の庭から、異様な唸り声が響き渡る。
魔物たちがいつも以上に凶暴になり、暴れだしていた。
レイの目は一瞬にして鋭く光った。
(来た……奴の仕業だ)
彼は魔力を高め、慎重に闇の中へと足を踏み入れる。
そこには、魔物を狂暴化させているリオンの姿があった。
冷たい瞳がレイを捉える。
リオンはまるで待ち受けていたかのように、ゆっくりと振り返った。
リオン「ノヴァリア」
その声は冷たく、低く響いた。
レイ「やはり気づいていたか」
レイは動じず、静かに返す。
レイ「お前が裏で操っているな。魔物の暴走も」
リオンは微笑みすら見せず、言葉を続ける。
リオン「愚かなものだと思っていたが、侮れないな」
レイ「学園を巻き込むのはやめろ」
リオン「巻き込まれなければ、変わらない。誰も救えない」
レイの視線は揺るがなかった。
レイ「力の使い方が問題だ。お前のやり方は破壊でしかない」
リオンは魔法の手を止めず、冷たく言い放つ。
リオン「弱さを知らぬ者に強さはない。
お前は弱いから、守るものがあるから、動けない」
レイ「違う。力は、守るために使うものだ」
二人の魔力が闇夜の中で交錯し、光と闇の渦が生まれる。
リオン「今夜、この争いで決着をつけよう」
リオンがつぶやき、激しい魔法を放った。
レイは瞬時に反応し、詠唱なしで魔法を展開する。
リオン「蒼焔!」
青く燃え上がる炎がリオンの魔法を切り裂く。
セラ「水刃!」
セラの支援も入り、水の刃が敵の攻撃を防ぐ。
戦いは激化し、学園の夜空に轟音が響き渡った。
だが、その戦いはまだ序章に過ぎなかった。
二人の戦いの背後には、まだ見ぬ真の陰謀が潜んでいるのだ。




