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第3章:模擬迷宮訓練、開幕!

セラ「ふわぁ……緊張してきました……」


朝の寮の廊下で、セラが制服の裾を整えながら、ぎこちない笑みを浮かべた。


その隣で、レイ=ノヴァリアは淡々と歩きながら、空を見上げる。


レイ「落ち着け。俺たちは何も問題ない」


そう言いつつも、レイの心の奥底では、言葉とは裏腹に小さな興奮がくすぶっていた。


レイ(……ついに、異世界のダンジョンか。魔法学園の実戦授業ってやつも、悪くない。いや……正直、けっこう楽しみにしてた――なんて、口が裂けても言えないが)


表情一つ変えずに歩くレイの中で、現実では味わえなかった“冒険”への期待が高まっていた。


 


学園の掲示板に貼り出された紙にはこう書かれていた。


『本日:初回実戦授業 ― 模擬迷宮訓練』


生徒たちがざわめき、浮き足立っているのが分かる。


「えっ、実戦って本当に魔物と戦うの!?」

「まじかよ、魔法まだろくに当たんねーってのに……」

「おいおい……エルフのメイドまで連れてるアイツは余裕そうじゃね?」


そんな声が飛び交う中、レイとセラは静かに整列していた。


 


 


模擬迷宮――それは魔法障壁によって作られた、訓練用の安全なダンジョンだった。

ただし、出てくる魔物は本物。もちろん弱めに調整されてはいるが、それでも不慣れな生徒には十分すぎる脅威だ。


ティア「君たちは“ペア”での行動になる。

自分の魔法がどれだけ通じるか、動けるか。実戦を通じて学んでもらうわ」


そう語るのは、担任のティア=ルヴァリエ。優雅でおっとりした女性教師だが、かつての戦場経験者として知られている。


 


クラスの中でも、レイとセラはすぐにペアとして認識された。


セラ「よろしくお願いします、ご主人様……いえ、レイ様」


レイ「別に普通に呼べって言ってるだろ」


セラ「は、はい……!」


 


迷宮の入り口は、まるで森の中の洞窟のようだった。


一歩足を踏み入れると、足元にひんやりとした空気が漂う。石畳の床と湿った苔の壁、ほんのりと魔法光で照らされた空間。


 


セラ「うわぁ……ほんとにダンジョンなんですね……」


セラがきょろきょろと周囲を見回しているのを横目に、レイは小さく笑う。


(こういうの、ゲームでしか見たことなかった。……やっぱり、異世界は面白いな)


 


 


生徒たちは一定の間隔を空けて迷宮に入っていった。

その中でも、ドラン・マードックとその取り巻きの二人組は騒がしくしていた。


ドラン「へっ、俺たちにかかりゃあスライムくらい楽勝だっての」


仲間「だなだな! でもエルフ連れのアイツらはどうだかな~?」


仲間「あいつ絶対勘違いしてるよな、異種族連れてイキってるってやつ?」


 


セラがちらっと彼らを見たが、レイは何も反応せず、前を向いていた。


レイ「気にするだけ時間のムダだ。無視しろ」


セラ「……はい」


 


 


迷宮の中は、想像以上に静かだった。

他のペアが構えながらおそるおそる進む中、レイとセラは淡々と奥へ進んでいく。


セラ「ここまで……敵、出ませんね」


レイ「いや、そろそろ来る」


そう言った直後――


「ギィィィィ!」


鋭い声を上げて、ゴブリン風の魔物が二体、角を曲がって飛び出してきた。


 


セラが立ち止まる。が――


レイ「落ち着け。水を、3時方向」


セラ「はいっ!」


セラが小さく詠唱を唱える。


セラ「《水弾生成・アクアバレット》!」


パァン――!


鋭い水の弾が放たれ、ゴブリンの片方の額に命中。

そのままよろめき、倒れる。


 


もう一体がレイに飛びかかった瞬間、彼は片手を上げた。


詠唱なしで、風の刃が“何もない空間から”現れ、スパッと魔物を切り裂く。


レイ「……ストームエッジ」


風が切り抜けたあと、ゴブリンは無音のまま崩れ落ちた。


 


レイ「…………」


セラが口を開けてポカンとしている。


セラ「は、早い……ていうか、何も言ってなかったような……」


レイ「別に、言わなくても出せる」


セラ「そ、そうなんですか……すご……」


 


 


その後も、レイとセラは魔物が出現するたびに落ち着いて対処した。

セラは《アクアスピア》という水の槍を使って距離を取りながら戦い、

レイはときおり雷や闇を使って、一瞬で敵を片付けていく。


 


他の生徒たちは、悲鳴を上げたり、パニックになっていた。


「ひぃっ、ゴブリン2体!? 話が違うだろ!?」

「こっちはこっちでスライム爆発したぁー!!」


――その横で、レイとセラは静かに歩きながら、淡々と迷宮を進んでいた。


 


(……戦闘も、思ったより楽だな。力は抑えてるけど、それでもこの程度。

 いや、だけどこの世界の“普通”が、まだ全部分かったわけじゃない。油断はしない)


そんなふうに思いながらも、レイの内心は静かに高鳴っていた。


(……はは。異世界って、やっぱり楽しいな)


 


 


そして――迷宮の最奥、クリア地点に到達したのは、他のどのペアよりも早かった。


セラ「ふぅ……終わりましたね、ご主人様」


レイ「お疲れ。よく動けてた。五ヶ月前とは比べ物にならないな」


セラ「えへへっ……褒められた!」


セラが頬を赤らめて笑うのを、レイは少しだけ目を細めて見ていた。


 


そのときだった。


「せ、先生! あっちの通路で魔物が暴走してて、生徒がっ……!」


迷宮の別ルートから生徒が飛び出してきた。


――迷宮は安全なはずだった。

だが、その空気がほんの少しだけ、変わり始めていた。

初めての授業

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