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ノヴァリアの魔導師〜転生したら全属性使いだった〜  作者: にゃふ
第3話:冒険に出よう

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第24章:獣牙の一撃

 翌朝、獣人族の街の中央にある巨大なコロシアムは、早朝から熱気に包まれていた。

 円形の闘技場をぐるりと取り囲む観客席は、すでに何百人という獣人たちで埋め尽くされている。毛並みの異なる者たちがざわめき、獣のような咆哮を上げながら試合開始を待っていた。


 中央の砂地に、レイとガルドが向かい合う。

 陽の光が二人の影を長く引き、互いの視線はまっすぐぶつかり合った。


「昨日はよくも受けてくれたな、人間」

 ガルドは腕を組み、鋭い牙を覗かせる笑みを浮かべた。

「言っただろ、負けるつもりはないって」

 レイは剣をゆっくりと抜き、刃に朝日の光を反射させた。


 審判役の壮年の獣人が両手を掲げ、試合開始の合図を取る。

「両者、構え!」


 その瞬間――

「始めぇっ!」


 ガルドの姿が消えた。

 いや、正確には、あまりの速度に目が追いつかなかった。

 風を裂く音と同時に、レイの右側から重い衝撃が迫る。


 ――速い!


 反射的に剣で受け止めた瞬間、耳元で金属が悲鳴を上げた。

 ガルドの一撃は鋭く、重い。しかも連撃が休みなく襲いかかってくる。

 レイは後方へ跳び、距離を取った。


 観客席からは歓声とどよめきが混じって響く。

「やっぱりガルド様の速さは桁違いだ!」

「人間なんてすぐ倒れるぞ!」


 ガルドはすでに次の一手を放っていた。

 地面を蹴った瞬間、砂煙が舞い、獣の咆哮のような気配が迫る。

 レイはあえて左へ身をかわし、振り向きざまに剣を振るう。

 しかし――空を切った。


「遅い!」

 背後から肩口への蹴りが叩き込まれ、レイは地面に転がる。砂が口に入り、苦い味が広がった。


 だが立ち上がるのに時間はかけない。

 ――速度では勝てない。ならば……

 レイは剣を低く構え、相手の動きを読むことに集中した。


 次の瞬間、ガルドが再び疾駆する。

 だが、今度はレイの視線がその足の筋肉の動き、砂の散り方、わずかな肩の揺れを捉えていた。

 右、そして上から――!


 「はっ!」

 レイは剣を振り上げ、ガルドの斬撃とぶつけた。火花が飛び散り、二人の足元の砂が弾ける。

 ガルドの目がわずかに見開かれた。


「今のを防ぐか……面白い!」

 声と同時に、さらに速度を上げる。

 レイは防御と回避を組み合わせながら、わずかずつ間合いを詰めていった。


 観客の熱気は最高潮に達している。

「人間が押し返してる……だと?」

「おい、本気で強いぞあいつ!」


 やがて、ガルドの動きに一瞬の隙が生まれた。

 全身のバネを使って跳び込む――しかし、そこに待っていたのは逆襲の回し蹴り。

 レイの視界が一瞬ぐらりと揺れる。


 ――危ない、意識を持っていかれる……!


 奥歯を噛み締め、踏みとどまる。

 レイはすぐに反撃せず、むしろ一歩下がって構え直した。

 ガルドも同じく距離を取る。二人の間に静寂が落ちる。


 わずかな間をおいて、同時に地面を蹴った。

 砂が爆ぜ、二つの影が交錯する。

 剣と爪がぶつかり、耳をつんざく金属音が響いた。

 交錯の一撃から二人は跳び離れた。

 息を荒げるレイの視線は、目の前の獣人戦士を捉えたまま動かない。

 ガルドは口の端を吊り上げ、鋭い牙を見せつけるように笑った。


「やるじゃねぇか、人間。……だが、ここからは本気だ」


 次の瞬間、ガルドの全身から圧迫感のある気配があふれ出す。

 獣人族特有の戦闘形態――【獣化】だ。

 筋肉が膨れ、爪は刃のように長く伸び、瞳が金色に輝く。


 観客席から歓声とどよめきが入り混じった叫びが響く。

「おおっ! ガルド様の獣化だ!」

「これで終わりだな、人間!」


 ――やっぱり来たか。

 レイは剣を握る手に力を込める。獣化すれば速度と膂力がさらに跳ね上がる。今まで以上に一撃が重くなるだろう。


 砂が爆ぜた。

 視界の端から影が迫り――いや、もう見えない。ただ風圧だけが先に届く。

 レイは反射的にしゃがみ込み、頬のすぐ横を爪が通り抜けた。

 その風圧だけで皮膚がひりつく。


 続けざまに背後から重い衝撃が襲う。

 咄嗟に剣を振り上げ受け止めるが、膝が砂にめり込むほどの威力。


「おいおい、まだ立ってるか!」

 ガルドの声は挑発的で、それでいて心底楽しんでいるようだった。


 ――速度を封じなきゃ勝てない。

 レイは深呼吸し、頭の中でガルドの動きを整理する。

 足音はほとんど聞こえない。頼れるのは砂煙の舞い方と、攻撃前の微妙な重心移動だけ。


 そして――使うしかない。

 レイは片手を地面に触れ、魔力を流し込む。


「【土陣】」


 足元の砂が瞬時に硬化し、細かな石柱が無数に突き出した。

 ガルドが駆け込んだ瞬間、その足元の感触が変わる。

 高速で走るには、ほんのわずかな引っ掛かりや凹凸が命取りになる。


「ちっ……!」

 ガルドの速度が一瞬だけ鈍る。


 その一拍――それこそがレイの狙いだった。

 正面から飛び込み、剣を横薙ぎに振り抜く。

 ガルドは爪で受けたが、衝撃で体勢が崩れる。


「まだだ!」

 レイは間を置かず、二撃目を叩き込む。

 刃がガルドの肩口をかすめ、鮮やかな赤が砂に落ちた。


 観客のざわめきが一瞬止まり、すぐに怒涛のような歓声に変わる。

「人間が……ガルド様を傷つけた!?」


 ガルドは口元を拭い、笑った。

「面白ぇ……本当に面白ぇぞ、お前!」

 そして、獣化状態のまま突撃してくる。


 しかし今度は、レイもその軌道を読めていた。

 硬化させた砂地が、ガルドの足の回転をわずかに遅らせる。

 ほんの半歩分の遅れ――それが勝負を分ける。


 レイは剣を逆手に持ち替え、懐へ潜り込み、柄で鳩尾を突いた。

「ぐっ……!」

 ガルドの呼吸が一瞬途切れる。

 そこに全力の回し蹴りを叩き込み、巨体が砂上を転がった。


 砂煙の中で、ガルドは片膝をつき、息を荒げる。

 数秒の沈黙――そして、口から笑い声が漏れた。


「……降参だ。お前の勝ちだ、人間」


 審判が両手を高く掲げ、勝者を告げる声が響く。

「勝者――レイ!」


 観客席は爆発するような歓声に包まれた。

 セラが観客席から身を乗り出し、笑顔で手を振っている。


 ガルドは立ち上がり、レイの肩を叩いた。

「いい戦いだった。またやろうぜ」

「ああ、次は負けない」

 そう返すと、二人は固く握手を交わした。


 その様子を見ていた少女――獣人族長の娘は、目を輝かせてレイのもとへ駆け寄った。

「やっぱりすごい! あんなガルドに勝つなんて……!」


 こうして、レイの仲間に新たな一人が加わることが決まったのだった。

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