第22章:獣人の森での出会い
魔王城へ向かう道のりは、地図で見ても気が遠くなるほど長かった。
険しい山脈や湿原を越えなければならず、歩いて行くなど論外だ。
レイとセラはまず、最初の中継地点として「獣人の森」を目指すことにした。そこは人間と獣人が共に暮らす街があり、冒険者や傭兵も集まる場所だ。仲間を探すなら最適だろうと踏んだのだ。
早朝、まだ街の露が冷たく光るうちに、二人は馬車乗り場へ向かった。
「獣人の森まで二時間だよ。揺れるけど我慢してくれ」
御者の中年男が笑い、馬車の後部へ荷を積む。
馬車の車輪が石畳を転がり、やがて舗装のない街道に出ると、木々の香りが濃くなっていった。
馬車の中で、セラは窓から流れる景色をじっと見ていた。
「ねえ、獣人ってどんな人たち?」
「人間と変わらない。ただ、耳や尻尾があったり、身体能力が高かったりする」
「そっか……仲間になってくれるかな」
「簡単じゃないだろうな。魔王城に行くって話せば、普通は断る」
セラは少し唇を噛んだが、すぐに「でも探してみよう」と微笑んだ。
二時間後、森の入口に馬車が止まった。
木々は高く生い茂り、昼間でも薄暗い。鳥や虫の声が絶え間なく響く中、一本の広い道が森の奥へと伸びている。
その先に獣人の街〈ルオ〉があった。
ルオは木造と石造りの建物が混ざり合う、活気のある街だった。市場では毛皮を売る商人、香辛料の香りを漂わせる屋台、剣や弓を手入れする鍛冶屋などが立ち並び、獣耳や尻尾を持つ住人たちが行き交う。
レイたちは酒場や掲示板を回り、腕の立ちそうな者に声をかけた。
だが結果は芳しくなかった。
「魔王城だと? 冗談じゃない、死ぬために行く気か」
「悪いが、俺は家族がいるんでな」
「興味はあるが、今は依頼で手一杯だ」
数時間探し続けても、協力してくれる者は現れなかった。
夕方になり、二人は宿を探すことにした。
「今日はもう休もう。明日また探せばいい」
レイがそう言った矢先、通りの向こうから甲高い悲鳴が上がった。
瞬間、レイは声の方へ走り出していた。
路地の奥で、まだ十歳ほどの獣人の少女が、狼型の魔物に追い詰められている。
魔物は唸り声をあげ、鋭い牙を剥き出しにした。
「セラ、下がってろ!」
レイは腰の剣を抜き、魔物との距離を一気に詰めた。
金属音と共に剣が閃き、魔物の前脚を切り裂く。悲鳴をあげた魔物は、すぐに森の闇へと逃げ去った。
少女は地面に座り込み、震える声で「ありがとう」と言った。
セラが駆け寄り、彼女を支える。
「大丈夫? 怪我は?」
「う、うん……大丈夫」
少女は耳をぴくぴくと動かしながら、二人をじっと見つめた。
「助けてくれて、本当にありがとう。あの……名前を聞いてもいい?」
セラが笑って答える。
「私はセラ。こっちはレイ」
その瞬間、少女の目が大きく見開かれた。
「……レイ? 本当に……レイなの?」
レイは眉をひそめる。
「俺を知っているのか?」
少女は小さく頷き、震える声で言った。
「あなたのこと……ずっと探してたの」
夕暮れの街のざわめきの中、その言葉だけが妙に鮮明に響いた。
セラも驚きに目を見張り、次の言葉を待った。
だが少女は、それ以上何も言わず、ただ二人を見つめ続けていた。




