第18章:対策会議と奪われた希望
厳かな空気が流れる中、学院長レギウスと魔法局から派遣された数名の上級官僚たちが、円卓を囲んで座っていた。
「魔王軍の残党が動き出している可能性があると?」
レギウスの問いに、静かに頷くレイ=ノヴァリア。その傍らには、沈んだ表情のセラとカナリアが控えていた。
「ザイロスという男が動いていました。闇属性の魔法核を使い、魔物の暴走を引き起こしていた可能性が高いです」
「だが証拠は? 魔王軍などという言葉を軽々しく使えば、王国全体が混乱するぞ」
そう言って眉をひそめる官僚たち。しかし、レギウスは静かに手を上げた。
「……彼は信頼できる。今は事を荒立てるより、静かに水面下で動くべきだろう」
「……助かります」
レイは一礼した。彼の眼差しは、ただの学生とは思えない鋭さを宿していた。
セラは花壇の前でしゃがみ込み、にこにこと花に水をやっていた。
レイは少し離れたベンチでその様子を見ていた。柔らかな風が通り過ぎ、まるで日常が戻ったかのような時間。
「……平和って、少し怖いですね」
レイがぽつりと呟いた。
「ふふっ、そうかな? 私は嬉しいけどな。レイ様とこうして過ごせる時間があるなんて」
「……お前、ちょっと成長したな」
「えっ!? そ、そんな急に褒められると……うぅ、にやける……」
レイはわずかに微笑み、空を見上げた。
だが、胸の奥に刺すような違和感だけは消えなかった。
“静かすぎる”
その直後だった。
「セラっ!!」
振り向いた時には、セラの姿がもうなかった。
地面にわずかに焦げ跡。魔法結界が破られた痕跡。そして、セラの落としたリボン。
レイは無言でそれを拾い上げ、目を閉じた。
「……連れていかれた、か」
静かに、だが確実に怒りの気配が立ち上ってくる。レイのまわりの空気が、次第に凍りつく。
「レイ!」
駆けつけたカナリアが慌てて叫ぶ。
「セラが……いないの……!? いや、そんな……!」
「……落ち着け。魔力痕はまだ新しい。闇属性……間違いなくザイロスの手の者だ」
「どうするの……?」
「……探す。何があっても、セラは取り戻す」
レイは目を開いた。その紅い瞳には、冷静さと殺気が入り混じっていた。
レイは夜の帳が落ちた頃、学院の封印区域にある禁書庫を訪れていた。
そこには古代魔族や魔核に関する文献がわずかに残されており、彼はそれを丹念に読み進めていく。
『――魔核により、魔族は意識と肉体を永続させる術を得た。闇の者はそれを媒介に“他者の感情”を糧とし、進化する』
『また、“異世界より来たりし知識の器”を持つ者、稀にして例外……彼らは、定められし運命に抗う“核”となる』
「……やはり、異世界から来た存在は過去にもいた……か」
口元をわずかに引き締めながら、レイは本を閉じた。
学院の最上階で一人佇むレイ。眼下には街の灯が揺れている。
(セラ……無事でいろよ)
その手の中には、まだあのリボンが握られていた。
“今度は――絶対に奪わせない”
その誓いは、静かに、しかし確かに夜風へと消えていった。




