第11章:決戦、漆黒の術士
王都魔法大会、決勝戦。
陽が傾き始めたアリーナには、張り詰めた空気が漂っていた。
審判「レイ=ノヴァリア、準備をお願いします」
控室の外から聞こえるアナウンスに、セラが不安げにレイを見つめる。
セラ「レイ様……絶対に、無理はしないでくださいね……!」
レイ「……大丈夫。勝つ」
レイは静かに立ち上がり、結界の扉を開いた。
眩い光が射し込む。大観衆が待つ決戦の舞台だ。
対戦相手として現れたのは、全身黒のローブをまとった男。
顔の下半分は仮面で隠され、名前すら公表されていない。
《漆黒の術士》――それが、唯一の呼び名。
漆黒の術士「よくぞここまで登り詰めたな、少年」
レイ「……お前が、あの日の黒い気配の正体か」
漆黒の術士「答える必要はない。だが、君には期待している。
この世界の“歪み”を正すために、私と共に来る気はないか?」
レイ「断る。俺はこの世界で、俺のまま生きる」
漆黒の術士「……ならば、壊すまでだ。君という存在も、この世界も」
◆ ◆ ◆
審判「決勝戦――開始!」
審判の声と共に、空がねじ曲がった。
黒ローブの男が放った闇魔法は、空間すら歪めるほど強大だった。
漆黒の術士「《深淵封鎖》」
周囲の魔力が吸い込まれていく。まるで“魔法が使えなくなる”かのような感覚。
しかし――
レイ「風は、俺の中にある」
レイは即座に風魔法を構築。
レイ「《烈風陣》!」
圧倒的な風圧が、空間の歪みを切り裂く。
観客が息を呑んだ瞬間、続けて水魔法が放たれる。
レイ「《氷雨穿孔》!」
空中から降る無数の氷の矢が、闇の盾を撃ち抜く。
それでも黒ローブの男は笑っていた。
漆黒の術士「さすがだな。だが、私の力は“次元”が違う」
闇魔力が一気に膨れ上がる。
男の背後に、巨大な黒き魔物の姿が浮かび上がった。
漆黒の術士「《魔神召喚・断罪の冥王》!」
レイ「っ……!」
観客席がざわつく。審判たちが慌てて結界を強化する。
規格外の闇魔法が、レイへと牙を剥く。
◆ ◆ ◆
セラ「レイ様ぁぁあっ!!」
セラの叫びが、届いた。
その声に重なるように、レイの中で記憶が蘇る。
――転生してすぐ、魔力を感じた瞬間の高揚。
――セラを助けたあの日の選択。
――「この世界で、誰かを守る力を持ちたい」と思ったこと。
そして今、目の前の脅威が、それを試している。
レイ「俺は……ここにいる意味を、見つけたんだ」
レイの体が、風と水の力で輝き始める。
レイ「制限の中で、最強になる。それが、俺の証明だ」
両手を組み、魔力を解き放つ。
レイ「――《嵐氷断界》!」
風と水が融合した超高圧の魔力が、巨大な氷の槍となって空を切り裂く。
黒の魔神を一刀の下に吹き飛ばし、術者ごと叩き伏せた――!
◆ ◆ ◆
轟音が止み、沈黙の後、黒ローブの仮面が地に落ちた。
現れたのは――かつて魔導省の最高研究員とされた男、「ザイロス=ネメクス」。
ザイロス「やはり、君は……興味深い……。
だが、これは“序章”に過ぎん」
レイ「お前の目的は、なんだ?」
ザイロス「世界の均衡を壊し、“魔力による真なる支配”を築くこと。
選ばれた者だけが、生きるにふさわしい世界だ」
レイ「……それが“選ばれなかった者”を切り捨てるなら、俺はお前の敵だ」
ザイロス「ならばいずれまた会おう――もっと深い闇の中でな」
ザイロスは転移魔法を発動させ、その場から姿を消した。
◆ ◆ ◆
審判「――勝者、レイ=ノヴァリア!」
観客席が割れんばかりの歓声に包まれた。
だがレイは、それに応えず空を見つめていた。
レイ(この世界の闇は……まだ続く)
その隣で、セラが心からの笑顔を浮かべていた。
セラ「レイ様……やっぱり、すごいです!」
レイ「……まだまだ。これからも、鍛錬だ」
微かに笑みを浮かべたレイが歩き出す。
闇の残り香が消えぬこの世界で――
彼はまた、一歩、強くなった。




