表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/100

第10章:幻惑の挑戦者

大会2日目。レイの第二戦が始まろうとしていた。

控室の窓から見える王都のアリーナには、朝から人の波が絶えず、熱気が空を揺らしていた。


 


セラ「レイ様、水をどうぞっ」


セラが小さな魔法水筒を手にして駆け寄ってくる。

表情はいつも通り元気だが、どこか落ち着かない様子をしていた。


 


レイ「……ありがとう。どうかしたか?」


 


セラ「いえ……ちょっと、控室の方で見かけた人が……なんか怪しかったというか……。道具を触っていて、何か仕込んでいたような……」


 


レイはその言葉に目を細めた。

昨日、親ゴブリンの魔石を見た記憶が頭をよぎる。


 


レイ(また“何か”が、動いているのか?)


 


レイ「気をつけろ、セラ。何かあっても、即座に魔力で反応できるようにしておけ」


 


セラ「はいっ!」


 


レイは立ち上がり、結界石の前へと歩を進めた。

審判が告げる。


 


審判「準決勝、レイ=ノヴァリア、出場者ゲイル=マナス、準備を」


 


会場がどよめく。今回の相手は“幻惑”の異名を持つ魔術師。

精神干渉や幻術を得意とし、過去には相手を錯乱させ自滅させたこともあるという。


 


ゲイル「へぇ……あんたが噂の魔物を倒した生徒か。縛られてるって聞いたけど、それでも来るとは、なかなか肝が据わってるね」


 


ゲイルはにやけた顔で片手をひらひらと振っている。

ローブの内側からは、微細な闇の魔力が常に揺れていた。


 


レイは無言で構える。


 


 


◆ ◆ ◆


 


審判「始めっ!」


 


審判の声とともに、ゲイルが両手を広げた。

次の瞬間、視界が歪んだ。空が二重に見える。地面が波打つ。


 


ゲイル「――《幻葬・四重迷界げんそう・しじゅうめいかい》!」


 


観客たちから驚きの声が上がる。強烈な幻術魔法だ。

通常であれば、相手は数分のうちに方向感覚を失い、精神を支配される。


 


だが――


 


レイ「風は、流れを教えてくれる」


 


レイは静かに目を閉じ、風を手のひらに集めた。

周囲の気流が空間の歪みを“感知”しているのだ。


 


レイ「――《風流想破ふうりゅうそうは》」


 


突風が四方から巻き上がり、幻の空間を一掃する。

視界が一気に晴れた。


 


ゲイル「なっ……!?」


 


驚くゲイルを見つめるレイの目は、冷たい光を宿していた。


 


レイ「……俺には通じない」


 


ゲイル「ちっ……じゃあこれはどうだ!」


 


ゲイルが詠唱と共に、虚空から幻の分身を四体作り出す。

本体を判別しづらくし、その間に闇魔法を構築する戦法。


 


レイ「――甘い」


 


レイの掌に水の魔力が溜まる。


 


レイ「《氷鎖矢陣ひょうさしじん》!」


 


水から生まれた氷の矢が、空間を正確に射抜いていく。

全ての分身が同時に貫かれ、最後にゲイルの足元へと氷鎖が伸び――


 


ゲイル「くっ……動けねえ……!」


 


ゲイル「……詰みだ」


 


レイは、構築済みだった風の刃を一閃。

結界ギリギリで止まったその一撃に、ゲイルは降参の意を示す。


 


審判「勝者、レイ=ノヴァリア!」


 


会場からは大歓声。

だが、レイはそれを背に静かに歩き出す。

勝利は目的ではない。その先にある“何か”を暴くために、彼は進んでいるのだから。


 


 


◆ ◆ ◆


 


控室に戻ると、セラが小声で話しかけてきた。


 


セラ「さっき、あの怪しい人……試合中に観客席の裏に回ってました。何か、魔力を撒いていたみたいで……」


 


レイ「……後で確認しに行くか」


 


レイはうなずき、目を閉じる。

そして――そのときだった。


 


???「……やっぱり、面白いな。君という存在は」


 


控室の奥。誰もいないはずの陰から、黒ローブを纏った人物が姿を現した。

その男の顔は見えない。だが、その雰囲気は、リオンを操っていた気配と似ていた。


 


???「君に、もっと試練を与えてみたくなった」


 


レイ「……何者だ」


 


???「まだ名乗る時ではない。だが――いずれ分かる。君がどこまで“この力”に抗えるか……」


 


男はレイの方に黒い魔石を放り投げ、霧のように消えていった。


 


レイはその石を手に取り、じっと見つめた。


 


レイ(また、“闇”の気配……)


 


セラが心配そうに近づく。


 


セラ「レイ様、どうか……?」


 


レイ「――問題ない」


 


そう答えた彼の瞳は、冷静さの奥に、再び闘志の炎を宿していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ