第9章:始まりの鐘と制限の誓い
「……レイ=ノヴァリア、至急、学園長室へ」
昼休み直前、校内に響いた使い魔の声に、教室がざわついた。
その名を聞いた生徒たちの視線が、一斉に彼へと集まる。
レイ「行ってくる。セラ、昼は先に食べてていい」
セラ「い、いえっ! 私も一緒に待ちます!」
そう言うセラの顔は少し緊張していた。
レイは微笑を浮かべることなく、静かに席を立った。
◆ ◆ ◆
学園長「やあ、来てくれたか、レイ君」
学園長室は、広く重厚な空気に包まれていた。
本棚の奥、執務机の向こうで、老いた学園長が微笑んでいた。
学園長「結論から言おう。――君に、王都の魔法大会へ出場してもらいたい」
レイ「……大会、ですか?」
学園長「うむ。毎年、各魔法学園の代表者が集まって競い合う、王都主催の大会だ。
その実力、既に王都の上層部にも知られておる。推薦を求められてな」
レイは静かに頷いた。
内心、胸が高鳴る。こういった公式の戦いの舞台は、自身の実力を試す格好の機会だ。
学園長「ただし、一つ条件がある。――水と風魔法のみ、使用を許可する。
君の全属性魔法では、あまりに一方的すぎるからな」
レイが全属性魔法が使えるのを知ってるのは、入学する前に伝えておいたからだ。
レイ「……なるほど。縛りを加えることで、公平性を保つわけですね」
学園長「すまんな。だが、その制限すら楽しめるのではないか? 君なら」
学園長の目が試すように光る。
レイは、わずかに口角を上げた。
レイ「構いません。……むしろ、その方が燃えます」
◆ ◆ ◆
セラ「レイ様、魔法大会に出るんですねっ!」
学園を出て、寮に戻る道すがら、セラが目を輝かせながら言った。
セラ「……応援するしかできませんけど、きっと、誰よりも強くて……かっこよくて……!」
レイ「応援、頼んだ」
その言葉に、セラはぴょんっと跳ねるように嬉しそうに頷いた。
◆ ◆ ◆
数日後。王都――中央魔法アリーナ。
観客席は既に満員で、アリーナ中央には巨大な魔力結界が張られていた。
数々の学園から選ばれた実力者たちが、続々と入場してくる。
その中でも、特に注目を集めていたのは――黒い戦闘ローブを纏った、白銀の瞳の少年。
観客「レイ=ノヴァリア……あれが“学園の生徒”か」
観客「え、でも今回は縛られてるんだろ? 水と風だけじゃ、苦戦するんじゃねーの?」
そんな声が観客から飛ぶ中、レイは無言で立ち尽くしていた。
内心では、心が沸き立っていた。
レイ(縛りの中で、どこまでやれるか――いや、“縛りがあるからこそ”、試される)
◆ ◆ ◆
《第一試合、開始!》
審判の魔力が空に放たれ、光の合図が飛ぶ。
レイの初戦の相手は、雷と土属性の魔法使い。
筋骨隆々で、雷撃をまとった男が睨みつけてくる。
相手「悪いが、手加減はしねぇ。縛られてんだろ?」
レイ「……別に。縛られてても、勝てない奴に興味はない」
ピリッ、と空気が緊張する。
雷と土が融合した一撃が、地を這うようにレイに迫る。
観客が息を飲んだその瞬間――
レイ「《風障壁》」
突風が巻き上がり、雷の矢を吹き飛ばした。
相手「……っ!」
レイ「――そして、隙だらけだ」
レイの手のひらに、風と水の魔力が集束する。
レイ「《氷牙旋槍》」
空中で回転しながら生まれた巨大な氷の槍が、雷の使い手を吹き飛ばす。
ドォンという衝撃とともに、相手は結界の外へ。
審判が叫ぶ。
審判「勝者! レイ=ノヴァリア!」
大きな歓声と驚きのどよめきがアリーナを包んだ。
その中で、レイはただ静かに、観客席の一点を見上げていた。
セラが、両手を口元に当てて、目を潤ませながら笑っていた。
応援する瞳は、誰よりもまっすぐで――
レイ(……まだ、面白くなりそうだ)
レイの胸に、異世界の鼓動が響いていた。




