プロローグ
俺の名前は――**黒瀬悠斗**だった。
どこにでもいる、ただの高校生。
勉強は普通、運動も普通、人付き合いも普通。
唯一、人より強く持っていたのは、「異世界に行きたい」という――現実逃避にも近い、強い願望だった。
ある日の帰り道。
ぼんやり空を見上げていた俺の前に、赤信号を無視して突っ込んできたトラックが現れた。
驚く間もなかった。
衝突音も、痛みも感じる暇はなく、視界が白く染まっていった。
そして――世界は、音も、重さも、色さえもない空間に変わっていた。
(……まさか、これが)
死、そして転生。
あまりにも“テンプレ”な展開に、俺は最後の最後で苦笑していた。
だが――意識が戻った瞬間、俺はすぐに“それ”を理解した。
目の前にあるのは、異様に大きな顔と、眩しい天井。
体が動かない。言葉も出せない。手足はぷにぷにと柔らかく、何もかもが小さい。
(……嘘だろ。これ、赤ん坊……!?)
まさかの「赤ちゃん転生」。
泣く声と、温かい手の感触。そして――優しい声が聞こえてきた。
母「この子、男の子よ! 元気な声……よかった……!」
父「レイ……そうだ、“レイ”と名付けよう。ノヴァリアの名を継ぐ者として」
女の人が、俺――いや、“レイ=ノヴァリア”を抱きながら、微笑んだ。
その瞬間、俺はこの世界で、二度目の人生を得たのだ。
――そして、十三年が経った。
魔法と剣、魔物と精霊が存在するこの世界。
俺はその中で、ひたすらに魔力を鍛え続けた。
毎朝の瞑想、昼の訓練、夜の魔力循環。
誰に教わることもなく、俺はただ、独りで強くなった。
結果――俺の魔力量は、国の上級魔導士すら凌駕し、
あらゆる属性の魔法を扱える“全属性魔導士”となった。
だが、それでも俺は満足していなかった。
もっと強くなれる。もっと、高みに行ける。
この力を、ただ持っているだけでは意味がない。
そんなある日――いつものように森を探索していた俺は、“それ”に出会った。
少女だった。
銀色の長い髪。薄汚れた白い衣。血の気のない顔と、細い体。
そして、長く尖った耳が――彼女がエルフ族であることを示していた。
レイ「……大丈夫か?」
声をかけても、返事はない。
魔力はかすかに流れている。命は、まだある。
俺は迷わなかった。
少女を抱きかかえ、そのまま森を後にした。
あの時の彼女の表情を、俺は今でも忘れない。
目を覚ました彼女は、俺に深く頭を下げ、そしてこう言ったのだ。
セラ「ご主人様、セラ=ノヴァリア、一生ついていきます……!」
名は、セラ=ノヴァリア。
その日から、彼女は俺の“メイド”として、一緒に暮らすようになった。
それが――俺、レイ=ノヴァリアと、
彼女、セラ=ノヴァリアの運命の始まりだった。
この出会いが、やがて世界を巻き込むほどの戦いへとつながっていくことを、
この時の俺はまだ、知る由もなかった――。
プロローグでした。ここから毎日0時に上がります。上がらなかったらその日のどこかの時間にあげます。




