理想の彼氏、買いませんか?
記録を見ると、このお話は四年前に思いついたようです。ただ、その時は「よくあるお話だから私が書く必要ないよね」と判断し、そのままお蔵入りしていました。
でも、最近小説を書きまくるようになって、「よくあるシチュとは鉄板で萌えるネタであり、誰が何度煎じても美味しいのでは!?」と思うようになり、このネタも形にすることができました。
書いてみると非常に楽しく、煎じて良かったです!!!
優しい彼氏が好きだな、とか、優しい彼氏が欲しいな、とか思っている方々に届けばいいな、と思っています。
「お前だっていい加減勘づいてるんだろ!?」
隆志の怒鳴り声に私は拳を握った。
「そうよ、あんたの荷物それだから、全部持って出て行って!」
「ハハハ! 俺だってせいせいしたぜ!」
隆志は足音荒くアパートの階段を下りて行った。
薄暗い部屋のベッドに横たわり、私はただ天井を見ていた。隆志は行った。新しい女の部屋に転がり込むみたいだ。私の時と同じように。
隆志が私に飽きないか。隆志が浮気をしないか。気になって気になって仕方がなかった。だけどそんなことからはもう全部解放されたんだ。そう思った瞬間、涙がこめかみを伝って流れ落ちた。
しらじらと夜が明ける。明るくなってゆく窓の外と、だんだんと増えてくる喧噪。私は横たわったまま、じっとそれらを感じていた。
喧嘩による興奮は醒め、ほとんど眠らなかったので、出勤する私はかなりボーッとしていた。
(疲れたな……)
まだ朝なのに、これからの一日が思いやられる。電車を待つ間、駅の看板広告を眺める。韓国の歌手のように美しい男性の写真が大きく載っていた。
[最新AI登載の理想の恋人が、ありのままのあなたを愛してくれます!]
(ありのままの私か……)
『ありのままの君が好きだ』
そんなことを言ってくれる男性には、映画やドラマの中でしかお目にかかったことはない。飯が不味い、色気がない、思えば隆志はダメ出しばかりだった。
『これ以上どこを直せばいいの!?』
『私のなにもかもが気に入らないのなら出て行って!!』
投げつけた言葉が耳に蘇り、鞄をギュッと握り締める。そうしながらも目は広告を追い、ふと、右下に『レンタルプラン』『結婚プラン』という文字と、金額が書かれているのに気づいた。私は無意識に数字の桁数を数えていた。
(……買える)
胸の中にそんな言葉が灯った。ビックリして、そして改めて看板を見つめ直す。途端に半分眠っていたような身体が覚醒した。ドキドキしながら、来た電車に乗る。私は会社の最寄駅につくまでずっと、スマートフォンで『レンタル彼氏』の情報収集をした。
その日の仕事を定時までに終わらせ、会社を出た。駅に着いてからスマホで『レンタル彼氏』の情報収集を再開する。恐る恐る見たクチコミサイトの評判もそこそこ良い。
家に帰って袋麺で食事を済ませ、私は急いでパソコンの前に座った。そして『レンタル彼氏』の公式サイトにアクセスする。
(お見積もりは無料って書いてあるから……! 見るだけ、見積もりを取るだけだから!)
調べていくと、このサービスにはオプションが細かく設定されていることがわかった。派遣されてくる『レンタル彼氏』は顧客の好みに合わせ、容姿や一人称、二人称、名前、口調などが選べ、また、最低限会話をするだけの鑑賞プランから、掃除や洗濯、料理などのハウスキーピング機能もつけられるプランがあり、さらには高価だがセクサソイド機能もつけることができた。
(二人称……どうしよう)
絵梨花、とちゃんと呼んで欲しい。隆志からは「おーいエリ!」「うるせぇよエリ坊!」などと呼ばれていて、とにかく隆志と同じ呼ばれ方は嫌だった。
隆志から結婚についての話を聞いたことはない。ただ、私はずっとお金を貯めていた。結婚式が挙げられ、マンションの頭金になるくらいのお金は。
顔の形、肌の色、ドキドキしながら仕様を選ぶ。まるでゲームのキャラメイクみたいだった。
『おっぱいはデカい方がいいよな!』
隆志には家賃や食費は半額出して貰っていたけれど、彼は私の借りたアパートのリビングで、私が買ったテレビの前に座り、私と似ても似つかないキャラを作り、きわどい服を着せていたのを思い出す。
私だってやってやる。隆志の要素が絶対に入っていない、理想の彼氏を作り出すんだ。
夢中でオプションを選んでいたら、夜明け前になっていた。
「ハイ、これインデックスシール。届いていたから。……水原さん、大丈夫?」
ボーッとしていた私はハッとして差し出された文房具を受け取った。手が震える。流石に二日連続寝不足はマズい。
「も、申し訳ありません!」
今まで頑張ってきたのに、徹夜で『レンタル彼氏』の仕様を選んでました、などと言えるわけがないし、そんな理由で仕事を失いたくない。
「違う。文句じゃなくてさ、心配してんの」
私は彼女──総務の中島さんを見た。よく挨拶は交わすが、こんなふうに気にかけるほど親しみを持ってくれているとは思わなかった。それなら、もう言ってしまおうと思った。今大変なのは事実なんだから。
「……長年付き合った彼氏と別れまして」
「そう。パイン味、食べられる?」
中島さんはコーヒーカップの横に、飴を一つ置いてくれた。
『レンタル彼氏』にはいくつかの型から選ぶ即納モデルと、細かく仕様を選べるカスタマイズモデルがある。即納モデルの方が安いしすぐに届くが、私は理想の彼氏が欲しかったから、カスタマイズモデルにした。届くのは一ヵ月後だ。
カスタマイズの過程では、私自身に関してもかなり多くの質問に答えた。何となくわかったが、少し前に流行った性格テストだろう。派遣されてくる『彼氏』の性格の参考にするんだろうなと思った。
朝起きて朝食を作り、会社に行き、帰って家事をこなし、寝る。残業が続くと家事どころではなく、流しにカップ麺の殻が積み上がることもあった。
そんな日々を過ごしながら、私は胸の底に火が灯った思いで、カスタマイズしたレンタル彼氏──『京也』が届く日を待っていた。我ながら優しそうでカッコいい、理想の彼氏が設定できた気がする。苗字は私と同じ『水原』だそうで、そんな小さなことにもときめいた。
静かな家で一人過ごしていると、隆志がいた頃のことを思い出す。リビングではバラエティ番組が流れ、芸人のネタに隆志がバカ笑いしていた。たまに隆志の友人達に会うのも気が重かった。
『隆志の彼女、相変わらず綺麗じゃん』
『イヤイヤコイツ、もう年増だし! 可愛げがないんだよな〜! いわゆるバリキャリってヤツでさ!』
『すごーい!』
『ほら、ミクちゃんみたいに素直な、本当に若い子の方が男にはモテるの!』
バカ笑いしながら私を貶める。苦痛でしかない時間だった。最後の方はもっと酷かった。『人数合わせだから』と言って合コンに出かけたり、朝帰りだってしたことがある。
早く、早く京也に来てほしい。そしてこんなクソみたいな男のこと、すぐに忘れさせて欲しい。
一月程経って、私は一通のメールを見て胸を押さえた。差出人が『レンタル彼氏』だ。
[ご注文いただいた『京也』が日曜日に帰宅します。長らくお待たせいたしました。ご注文誠にありがとうございました]
その日は金曜日。それから土曜日にかけて、私は流しを綺麗にし、部屋の掃除もしまくった。京也にはハウスキーピング機能もついているのに、何故かだらしないところを見せたくなかったのだ。
(早く来て……!!!)
日曜日は朝六時に目覚めてしまったが、もちろんこんなに早く京也が来るわけがない。だけどもう、一時間も待てる気がしなかった。まるで遠足前の小学生みたいだ。
ジリジリしながら待ち、そして十時きっかりに部屋のインターホンが鳴った。
(京也……!)
勢い込んでドアを開ける。私が散々悩みながらカスタマイズした『京也』がそこにいた。朝の清々しい光を浴びて、とてもいい男ぶりだ。ぱっと見はロボットではなく、人間と変わらなく見えた。最近の技術は凄いと思う。
「ただいま、絵梨花」
その言葉だけで涙が溢れた。思わず彼に抱きついて、そして玄関の外だということに思い至る。私は彼を部屋に招き入れ、鍵を閉めた。
「私のこと好き?」
「好きです」
私は安堵のあまり、玄関の壁に凭れた。こうして月々の料金を払えば、ずっと、安心して愛して貰える。
「キッチンはここでね、使ってる鍋とかはこの収納の中。いちいち説明しなくてもわかるかな……?」
「いえ、助かります。ありがとう、絵梨花」
カスタマイズの時選んだ優しく深い声は大当たりだった。聞いているだけでウットリする。バス、トイレを除けばリビングと寝室だけの小さなアパートを案内し終えると、京也はエプロンを身に着けた。ハウスキーピング機能付きの『レンタル彼氏』は必ず持参するそうだ。
「昼食を作りましょう。絵梨花は楽にしていて」
笑顔が眩しい。京也は冷蔵庫を覗き、中身をチェックしている。ホーッと息をついて、リビングのソファに沈み込む。隆志がご飯を作ってくれたことなんて一度もなかった。よく考えたら私はフルタイムで働いているし、家賃も食費も折半。なのに家事は全部自分で担っていたのが本当にバカみたいだ。
テレビを観ながら、イタリアの街角を訪れた俳優の、穏やかな語り口に聞き入る。そうだ、リビングではこんなふうに静かに過ごしたかったんだ。
「どうぞ、簡単なものですが」
京也が出してくれたのは桜エビとブロッコリーのパスタだ。麺の茹で加減も絶妙で、味も私が作るのより美味しいくらいだ。
「美味しい! すごく美味しい!」
「ありがとうございます」
穏やかな笑顔に、緊張と疲れが溶けていくような気がした。
その日は京也に家事を任せ、積読を手に取ったりして穏やかに過ごした。
「寝室はここよ」
私はしなくてもいい緊張をしながら、京也にベッドを示した。
京也にセクサソイド機能はつけなかった。高かったのもあるが、その必要性を感じなかったからだ。
隆志が選んだ(そして私が買った)大きなベッドで、ただ京也と並んで横たわる。ホーッと息をつき、限りなく安らぎを感じた。
思えば、隆志から気持ちが離れれば離れるほど、セックスするときには身が竦んだ。隆志も飽きてきたようで、別れる前はやり方がだんだん粗雑になってきた。事後もすぐにベッドから下りてシャワーを浴びに行く。
付き合っていた頃は嫌われまいと必死だったが、思い返すと悔しくてたまらなくなる。私のことを好きでもなんでもない、つまらない男に、心も身体も支配されていた。
京也はセックスしなくても恋人でいてくれる。他に恋人を作ったりもしない。そういう契約だからだ。それはとても安心できて楽だった。
電力で動く『レンタル彼氏』の体温は、人間とほぼ同じになるように設計されている。もっとも、恒温動物の人間ほどの安定感はなく、運動するとオーバーヒートすることもある。ただ、故障していなければ、触れていると低温火傷をするほど温まることもない。今出回っている家政ロボットの中でも、抜群の安定感だそうだ。
京也が来てから一週間。生活による疲れはすっかり取れ、私はぬくぬくと布団に入り、京也に寄り添った。
「ハァ~。京也に会えて本当に良かったよ。隆志って最悪だったなぁ……」
京也の温かい手が私の頭を撫でた。
「『隆志』様とは以前お付き合いしていた男性ですね。別れてお辛くはないのですか?」
「ないない。出会った頃は夢中だったんだけどね~」
隆志は日に焼けて筋肉質で、フットサルも上手い。私は以前海外サッカー観戦を趣味にしていたことがあり、隆志は私が好きだった選手にほんの少し似ていた。
「地味だけどいいサイドバックでね……。代表とは言ってもそこまで有名な選手じゃなかったから、今何をしてるのかは全然わからないや。あ、隆志じゃなくてこれは好きだった選手の話」
「わかります」
京也の柔らかい声は、本当に好ましく鼓膜に響いた。
「隆志はガテン系でね、ちゃんと稼ぎはあったみたいだよ。現に家賃とか食費は半分出してくれてたしね」
「そうですか」
「もう要らないけどね、京也が来てくれたから」
「隆志様が、お好きだったんですね」
「……そうよ、好きだった」
少し鼻の奥がツンとした。京也の優しい手が頭を撫でる。
「『恋は盲目』って言葉、本当だね。きっと隆志はそんなんでもないけど、私は一緒にいたくて、なんでも言うこと聞いていた」
「そうですか」
「結局、隆志にとって私なんて、セックスできる家政婦だったんだと思う。薄々わかってたけどね。ご飯や掃除に『ありがとう』なんて全然言ってくれなかったし」
私はため息をついた。
「男の人はプライドが邪魔をして、女性に素直にお礼が言えないみたいだからね」
言うと京也は少し語調を変えた。
「プライドのせいでお世話になっている女性に感謝の気持ちも表せない? それなら私には、プライドなど一切要りません」
「京也……!」
百点満点中百二十点の回答だ。
「レンタル彼氏、怖いな……」
「? 申し訳ございません」
「いいのいいの」
私はクスクス笑って京也にすり寄ると、布団を被り直した。
京也が来てからは何もかもが順調だ。家事は全て彼が担ってくれるし、その機能だけでも、『レンタル彼氏』に支払っている料金の元が取れるのではと思えるくらいだ。
料理のレパートリーをいくつか教えたら、覚えて作ってくれるようになった。流石AI登載と言ったところだ。
私はパソコンを睨み、考え込んでいた。私は京也をレンタルしている。毎月の家賃程度のコースだ。彼が来て、もうすぐ一ヵ月。『結婚プラン』に切り替えようかと、本気で悩んでいるのだ。
『レンタルプラン』を『結婚プラン』に切り替えると、ローンを組むことになる。京也のことは『買い取り』になり、彼はその後、もう他のユーザーにレンタルされることもない。
頭金は、大体私の三ヵ月分のお給料。まだ一ヵ月でその決断は早いだろうが、私の気持ちとしては、もう結婚したくてたまらなくなっていた。
結婚したら、そこで不安な日々も終わりじゃないの? 永久に京也が手に入る!
その時玄関をガチャガチャさせる音がして、連続してチャイムが鳴った。宅配便などは京也が出て受け取ってくれるので、私はほとんど気に留めなかったが、少しだけ違和感があった。
「はい、水原です」
パソコンを見つめて考え込みながら、京也がドアを開ける音を聞く。
「なんだ!? テメェ、男かァ!?」
大きな声に、心臓が飛び上がった気がした。この声は隆志だ。
「もう男連れ込んでるのかよ!」
叫びとともに、ゴツンと鈍い音がして、京也が吹き飛んだ。私は椅子を倒して立ち上がった。
「京也!!」
隆志が立ち上がろうとする京也に馬乗りになり、執拗に頭部を殴りつける。ゴツン、ドガッ、と鈍い音が響き、私は恐慌状態に陥った。
「やめて! やめてよ!!」
叫んでいると、怒りにドス黒く染まっていた隆志の表情が変わった。
「テメェ……もしかしてロボットか?」
そしてニヤニヤ笑うとゆらりと立ち上がる。
「エリ、お前ロボットとヤってんのかぁ!?」
「京也はそんなんじゃない!」
「うるせぇ!」
私の頬にパンチが飛び、痛みとともに吹き飛ばされた。同棲している間、酷い言葉は投げつけられたけれど、暴力は振るわれなかった。一体彼になにがあったのかと思う。
「飯が不味いんだよォ!!!」
隆志が吠えた。
「カップラーメンなんて食わせやがって美久のヤツ! 掃除も洗濯もしねぇ! なんのために居るんだあのクソ女が!」
また殴られる! 私は腕で顔を覆い、歯を食いしばった。鈍い音が響く。だが痛みは訪れなかった。目を開けると、暖かい身体が私を抱きしめている。
ドゴッ、ガスッとえげつない音が響くが、それらの暴力は全て私には届かなかった。私を庇って京也が殴られていたからだ。
「もうやめて! お願い! 京也が死んじゃう!!」
「ロボット相手に頭おかしくなったのかよォ! このクソエリが!!!」
もうダメだ。京也が壊れてしまう。せっかくこんなに幸せな一ヵ月を過ごしたのに。私が泣きじゃくっていると、いつの間にか暴行は止まっていた。なんだろうと思って薄く目を開けると、微かにサイレンの音が聞こえてきた。落ち着いた声が響いた。
「隆志様の暴行は、全て録画・録音済みです」
「京也……!?」
怒りに染まっていた隆志の顔が青ざめ、サッと立ち上がった。サイレンの音はもうすぐそこだ。
「私を殴ったことは器物損壊に過ぎませんが、妻を負傷させたのは傷害罪。また、住居侵入罪にも問われることになるでしょう」
隆志が駆け出し、外に出ようとした。だが、複数の足音がして、部屋に警官達が入ってきた。ジタバタと暴れる隆志が、見る間に拘束される。
「大丈夫ですか!」
中年の警官に助け起こされ、私は涙を拭いながら何度も頷いた。
「顔を一回殴られただけです。でも、京也が……!」
気がついたら口の中に血の味がする。だけどもう、そんなことはどうでもよかった。
「ああ、家政ロボットですね」
警官は京也を見て頷いた。私を庇った京也の髪は乱れ、肌には傷がついて、コードや骨材が露出している箇所もある。だけど彼はゆっくりと起き上がった。
「私は大丈夫です、絵梨花。ご心配をおかけして申し訳ありません」
その言葉に、また涙が溢れた。こんなにボロボロになって、大丈夫だなんて言わないで欲しいと思った。京也が落ち着いた声を出す。
「表皮とボディに傷がついていますが、家政ロボットとしての機能は損傷しておりません。また、修理費用は全て隆志様に請求されることになるでしょう」
拘束された隆志がギョッとしている。当然の報いだと思った。
「隆志様に最初に殴られた瞬間から、録画・録音が始まり、またそれは弊社センターへとリアルタイムで転送されています。110番通報は弊社センターから行ったものと思われます」
中年の警官が笑顔で言った。
「高性能の家政ロボットですね。本当に良かったです。これだけ証拠が揃っていたら、泣き寝入りすることにはならないと思いますよ」
「んだとォ!?」
性懲りもなく隆志が暴れているが、もう危険が及ぶことはないだろう。私は安堵のあまり、また涙を溢れさせてしまった。
事情聴取と現場検証が終わり、逮捕された隆志を連行して、警官達は去った。
「絵梨花、お疲れ様です。どうぞお飲みください」
京也がココアを作ってくれた。カップを包み込むと、血の気を失っていた指先が、じんわりと温まる。
「妻って言った……」
ふと、そんな言葉が零れ落ちてしまった。京也が微笑む。
「私は水原京也ですから」
顔がカーッと熱くなる。
京也は『レンタル彼氏』プロジェクトの修理部門に預けられ、精密検査を受けることになる。私は休みを取って、それに付き添うことにした。今まで過ごした日々の記憶をなくしてしまうのでは? とか、修理したら京也の性格が変わってしまうのでは? などと心配でたまらなかったからだ。そんなことにはならない、と京也は繰り返し説明してくれたのだが。
「フフ……修理が終わったら、結婚する?」
京也は目を瞬いた。
「セクサソイド機能をつけるということですか?」
私は顔から火を噴くかと思った。
「ちちち、違うよ! 結婚プランに変えるかとか、そういうこと!!!」
「も、申し訳ございません!」
京也も顔を赤くしている。ロボットも赤くなったりするんだなぁ、などと思いつつ、私と京也はソファに並んでしばらく照れていた。