異世界の入り口
青年に再開し、話が始まります。
その男の格好はあのときと同じく、今にも壊れそうなか弱そうな人間でいかにも愚かであった。その愚かさの象徴するかのように彼は数日前と同じ黒い服装なのだ。
この愚かな世界の原住民の彼は、目が合わずにへらへらした顔で私を呼び止めたのだ。普段の私ならこんな人間に興味もなければ、出会いもしなかっただろう。
私はどこかおびえた感情をごまかすためにわざと作ったへたくそな笑顔の彼を安心させるかのように、小さな子に話しかけるような温かみのある声で、
「あの時の方ですよね。あの時はすみません。なんというか邪魔してしまって。」
私の声に安心したのかさらに恐怖したのかわからないが、彼の広角はさらにあがり、よりいっそう不気味な笑顔に変貌し、あの時のようにまたもごもごと私に話しかけてきた。
「へへっ、いやっ、あのそれはちがいますよ。へへっ、ふふっ、あんときはなんか酔いつぶれて、体調が悪かっただけなんすよ。ははっ、、」
なんとか聞き取ることができたが、酔いつぶれただけの男にあんなに関心を持ってしまったのかと少し落胆の感情を持ったが、まだ彼が私の知らない世界の住人である可能性はまだ存在するかもしれない。
「そうだったんですね。僕も酔いすぎて周りが見えなくなることありますし、お互い気を付けないとですね。ところで、どうしてまたここにいらしたんですか。」
私の質問に彼もまた聞き取りづらいのか少し間を開けて、こう答えた。
「いやっ、その、僕はこの辺住んでいるというかその、ずっといるんすよね。」
なんということだ。日本の若者はもうすでにホームレス化しているのだろうか。本当に同じ日本に住む人間なんだろうか。私は本当に異世界に迷い込んでしまったのだろうか。
彼の発する言葉はたしかに一つ一つは微細なものだが、そこに含まれた情報というのは私の脳を満たすほど膨大で、まさにあの時の大雨のようであった。
「普段は何をされているんですか?」
もう私の興味は彼のことで満たされ、もう彼の発する言葉をもう止めらないほどに欲していた。
彼は、先ほどよりもさらに間を開け、先ほどの笑顔などなく悩みこんでいた。普段の生活を答えるだけだというのに、どうして悩むことがあるんだろうか。そんな小さな疑問でさえ、彼のアクションはわたしの心を大きく揺れ動かすのだ。
5分は悩んだろうか、ようやく固く閉ざされた口をまたもごもごと動かし、
「オーバードーズっす。」
何を言っているんだろうか。わたしも大学にも通い、会社の同僚にもアメリカ人だっているが、初めて聞く英語、カタカナ語であったのだ。彼が私の知らない情報を示した知性に、私よりも劣った人間だと思った人間であると思っていたので少し動揺した。
私はそれを確かめるためにも、これがなんであるのかを知る必要があった。しかし、この事実を知ることがこの後起こる私の人生の分かれ道でもあった。
次回、男の人生の大きな分岐点。
もうちょっとで完結させる予定です。
長期にするのもよくないしね。