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旅囚戦艦ハシタメ  作者: 泉とも
落ち延びた先の流刑星を滅ぼした後とりあえず傭兵として暮らしていくことにしましたわ
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・ウバステ攻略

・ウバステ攻略


 ※このお話は三人称視点でお送りします。


 ジャメリカ政府の追っ手を返り討ちにした二人は、引き続き目的地である流刑星『ウバステ』を目指していた。


「ドリス、そろそろワープの準備に入ってくださいまし」


 旅行列車風戦艦の車掌室に、銀色の女性型ロボットが入って来る。白み掛かった長い金髪がふわりと揺れた。


 ロボットの名はクランドール家の遺児、滝夜叉だった。


「あ、お帰りなさいお嬢。星間移動用の空間跳躍ですよね。外のほうはもういいんで」


「生命反応と動体反応は消して来ましたから」


 座席に備え付けのガイガーカウンターで、体の隅々を検めながら、滝夜叉は答えた。


 車両に戻る際に除染は済ませたが、宇宙線への被爆はあまり気持ちのいいモノではない。


「しかしねお嬢、流刑星って早い話が大きな監獄でしょう。攻め落としても大して旨味は無いと思うんですけど」


「普通はそうですわね。でもウバステは違いますの」


 全身の安全性を再確認し終えると、滝夜叉はほっとしながら呟く。


「あそこは政治犯という名目で、濡れ衣を着せて失脚させた有力者たちの、ご息女などを幽閉するための場所なのです」


「逆らわない様に取った人質の倉庫なんすね」

「簡単に言えばそうです」


 色黒のアラサー巨メイドことドリスは眉を顰めた。

 明らかに司法と行政の私物化である。


「断っておきますが、クランドール家はこういう“ちゃち”な権力闘争には一切関与してません。うちと大統領家が頂点であることは絶対ですから、する意味が無いのです」


『でも取り締まったりはしなかったんだな』とドリスは思ったが、口には出さなかった。


「木端役人や議員共が、せっせと後ろ暗いことをしていましたけど、何かの役には立つかも知れないと放置していたのですわ」


 やってることは大問題だが、現にこうして当てに出来る場所となったこと、それより更に問題のあることをやっているせいか、メイドは閉口するしかなかった。


「あの、お嬢はなんでそんなこと知ってるんです」


「お爺様から教えられたことに加え、この義体には我が家と大統領家、ジャメリカ中の電子媒体にある情報が記録されてますの。全てとは言いませんが、結構物知りですのよ」


 滝夜叉は自分の頭を指先で二、三度突くと小さく笑った。鋼の肢体に皮膚の類は貼られていないが、肉のように柔らかく形を変えて見せた。


「なるほどな。じゃあそろそろワープしますよ。ハシタメ変形開始。変形終了から自己跳躍に入ります。そうしたら十分掛からずにウバステの近くに出るはずです。座標が合っていればですけど」


 ドリスが計器類を弄ると、旅客鉄道型戦艦は連結部分から直角に曲がり、その身を小さく畳み始めた。


「そのはずですわ。このご時世星図と座標は一般公開されていない、最重要機密ですから」


 ジャメリカでは宇宙時代を迎えてしばらくの間、海賊ならぬ宙賊が蔓延り散々に人々を脅かした。


 暗黒の大海はあまりにも犯罪者に有利だった為、政府は位置情報を秘匿、民間からも没収や抹消を強行した。


 これにより政府と政府から許可を得た、ごく一部の者以外は、右も左も上も下も分からないことになってしまった。そうして犯罪者たちの掃討を済ませ、同星系には静寂と平和が訪れたのである。


「だといんですが、しっかし変形遅っせえな!」

「これがハシタメの泣き所ですわ……」


 長い車体が畳まれ、何かの塊のようになっていく。


 そのままでは全体をワープ可能状態に移行させるより前に、空間へのワープ用の接続時間が切れてしまうのが、ハシタメ最大の弱点である。


 見た目こそ優雅だが、元より逃げも隠れもする気が無く、足を止めて敵と戦うよう設計されているため、噛み合っていない要素が多かった。


 そして十数分後


「よしでは気を取り直して。目標ウバステ。ワープ!」


 ドリスは座席横にある古の移動機器『自動車』の、レバーのような物を押し込んだ。


 船体前方の空間が眩しく輝き、扉を開くように闇を押し退けて行く。


「実は私こういうの初めてだからドキドキします」

「へへっ、俺も」


 二人は顔を見合わせると、軽く笑って初めての空間跳躍へ臨んだ。ハシタメの全身が高エネルギー状態になり、光の中へと飛び込んだ。


「おー、本当に入っちゃった」

「差し詰め白い回廊ですわね」


 宇宙の膨張を否定し逆らうかのように、星と星との間を縮め、戦艦は何処とも知れぬ空間を走り抜ける。


「ん、何か前方に黒いのが」

「通常空間ですわ。これでワープはお終い」

「各駅停車ばりに短ぇな」


 白い回廊を抜けて、再び黒い宇宙へ戻る。

 ここまで三十分も掛からない出来事であった。


「あっお嬢、近くに星があります。映像出しますよ」

「あら綺麗な緑色。随分囚人を酷使しましたのね」

「アレが『ウバステ』なんすか」


 車掌室のガラスに投影されたのは、可視化された星の姿。青い海と白い雲、豊かな緑色の惑星だった。


「ええ。元は赤茶色の石ころだったのに」

「ここからどうします」


「先ずは宇宙港を破壊してそれから行政庁舎を破壊します。残った役人も皆殺しにして制圧したら、そこで一息入れましょう」


「うっす。じゃあ火砲の用意を」


「その前に通信を入れて頂戴。降伏勧告をしないと」


 白銀の機械主人の言葉に、黒いメイドは怪訝な顔をした。恐らく攻撃の過程で、今言われた以外の人間もほとんど死ぬはずなのだが。


「そらまた何故」


「見逃しても貰えると勘違いした馬鹿が丸腰になればその分捗るでしょ」


「なるほど流石お嬢だ。あったまいいなあ」


 得心したドリスは窓に付いていた無線機を取ると、友軍の識別信号を出しながら、予めハシタメに登録されていた、ウバステとの回線を開いた。


「……あれ。おかしいな。繋がってるはずなのに呼びかけに応じないぞ」


「本星から連絡が行ってるはずだから、迎撃用のベリアルが衛星軌道上に展開してないのも変ですけれど、あら」


 滝夜叉たちが首を傾げていると、ウバステの大地が真っ赤に輝いた。


 直後に光の柱となって天へと伸び、ハシタメへと殺到する。


「お嬢! 対宙砲の弾幕だ! すげえ数だぜ!」


 惑星の見えている限りの部分から、尋常ならざる防衛力が咆哮する。


 車両が密集した状態のハシタメに、図らずも火力が集中した形になる。


 それはウバステにとって、最高の威力を発揮できたことを意味していた。


 しかし。


「この程度で驚かないの」


 現状でジャメリカが運用している軍事艦艇のどれであっても、受ければ一溜りもないであろう攻撃が直撃しているにも関わらず、ハシタメは無傷だった。


 まるでワックスをかけた古代乗用車が、水を弾くかのように、特にバリアやフィールドと言った機能も見せず、単純な頑丈さで健在を示していた。


「小動ぎもしねえとちょっと気の毒だな」


「ほらドリス。降下準備。大気圏を抜けたら緑が見えなくなるまで撃ちなさい。それが終わったら星の反対側に回って同じことをするんですわよ」


「もー。人使いが荒いんだから。おっとお嬢。入れ違いに脱出しようとする船があります」


 そう言って車掌役のメイドが正面のスクリーンを示すと、少人数が乗るような高速の小型船が、空に昇っている映像が出る。


「落とせます?」

「やってみましょ」


 ドリスが運転席のコンソールを弄ると、先頭車両の屋根に付いた光線砲に、エネルギーが急速に充填されていく。


「座標、距離、偏差、いいや分かんねえから発射」


 そして適当に発射ボタンを押すと、光線砲から不可視の光条が宇宙を走り、星を捨てて逃げようとする誰かしらを塵に変えた。


 光線に色を付けないことは、この時代の国際法違反だが、二人には全く以てどうでもいいことだった。


「おっしゃ命中!」

「お見事! 流石私のドリスですわ」

「いやはやもっと言ってもっと言って」


 二人は戯れながらウバステに降下すると、ハシタメを元の長大な列車へと戻した。


 各車両に備え付けられた光線砲が、折角長い年月と大量の延べ人数を動員し、開発した星を滅ぼしていく。


 赤い光が大地へと降り注ぎ、全てを焼き尽くす。


「あ、お嬢。今更通信が来てます」

「気が変わりました。無視して殺しなさい」

「そう来なくっちゃあ」


 この日ウバステはジャメリカとの連絡が途絶。収監されていた者や管理していた者も死に絶え、地表は破壊され、事実上の廃星を迎えた。


「ちょっと前まで綺麗な星だったのにねえ」

「どうせまた直ぐ治せますわよ」


 滝夜叉とドリスは酷薄な笑みを浮かべて、殺した星へと降り立つのだった。

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