・たぶん何かイイ感じのBGMが鳴り響いてる
※このお話は三人称視点でお送りします。
滝夜叉たちは空中宮殿ウパニシャッ島の奥にて、宇宙人オートマンの卵と邂逅した。
「先ず前提となる情報の共有から始めよう。そこを適宜修正していくだけでも、話すべき事柄は絞られていくはずだ」
考古学者兼忍者兼冒険家のジョンドゥは、携帯端末を起動し、紙媒体の記録用品を準備した。
「この惑星『オジヤン』は既に滅び、駄目になっているということで、よろしいですかしら?」
『はい。この星の知的生命体は宇宙へ進出できず、滅亡してしまいました。お気の毒です』
テレパシーで会話する青白の卵はもぞりと身動ぎした。現在はジョンドゥが抱卵中である。
「我々は君たちをオートマンと呼んでいる。他の星に文明を与えて、宇宙を放浪する民。正しい名前はあるかね」
『概ねその実態で合っていますが、僕たちに自らを規定する名はありません。シェムハメフォラシュ、ゴエティア、天津神、修羅。およそ様々な敵と味方、善と悪の名で呼ばれて来ましたが』
滝夜叉は『言ったもん勝ちですのね』と思った所、卵は『そうですね』と返した。
精神的な会話に黙秘権を行使するならば、予め防御手段を講じるか、心頭滅却する以外に方法は無い。
「? 何がそうですねなんだ」
「そっか、教授には伝わってないんですのね」
『あなたの思考の回線が開かれていないようです』
「君は我々の考え事に相槌を打てるのか」
滝夜叉とジョンドゥは、なるべく口頭で会話をしようと決めた。
卵もなるべく会話の漏れが無いよう、注意することを約束する。
初対面の三者だが、高い知性と理性と生態で、交流を円滑化していた。
「君たちに母星はあるのか?」
『いいえ、私たちの本体は文字なのです』
「文字が本体?」
滝夜叉は生きた文字ということから、文字の形を取る生物なのか、それとも人々が文字に命を見出したのか、判断が付かなかった。
『私たちは他の星の生命に、自らを文字として与えます。彼らは長い時間をかけて更に文字を作り、広めて行きます。これが私たちの繁殖方法なのです』
卵の言葉に寄れば、人々はそうと知らずにオートマンを神と崇め、共生関係にあったことになる。
「しかし君たちが文字だとすると、人々が神と思っていたものは何だ」
『アレは私たちの指導者のようなものです。その星での知的活動が限界に達し、衰退に転じると私たちは卵を作り出すのです』
滝夜叉は何となく嫌な予感がした。そしてそれを言語化することなく、成り行きを見守ることにする。
『卵は二つ、一つは予備です。つまり私』
「本命は上手く行ったんですの?」
『はい。仲間を連れてこの星を離れました』
「このログにある、神とロボットたちだな」
どうして見えているのかは不明だが、ジョンドゥのログに頷くようにして、卵が動いた。
「どうしてロボットまで回収した」
『私たちが刻まれた物は私たちの体なのです』
滝夜叉には身に覚えの有る感覚である。
『そして指導者の個体は無事に孵化し、同胞を連れて宇宙へ向かいました。また次の星を求めて』
「初めから、彼らに神はいなかったのだ。彼らのための恩寵も」
二人はログに残された言葉を思い出した。
――アレは神だった。紛れも無く、我々にとっての。しかし、我々の神では無かった。
「謎が解けましたわね……」
「ああ、これを論文に纏めて、学会に発表しよう」
未知の多い宇宙人の秘密が一つ明らかになった。しかし二人の胸の内は、釈然としないまま。
滅びた星の答え合わせをしても、結果はもう出ているのだ。そこに希望など有りはしない。
『私からもよろしいでしょうか』
「ああ、こっちの質問ばかりだったしな」
「何でも聞いてくださいまし」
『あなた方はこの星の調査に来たと言っていました。それは学術的な理由ですか?』
二人は顔を見合わせた。学術的と言えば学術的だが、経済的といえば経済的な理由である。
「ああーうん。私は考古学者だ。こういう廃星の調査を生業としている。鑑定士なんて揶揄されるが、星の値踏みをする輩なんて他にもいるよ」
ジョンドゥは躊躇いがちに答えた。帽子を脱ごうとして宇宙服の頭を触り、舌打ちする。
『そちらは』
「私は宇宙海賊で雇われの用心棒ですの。報酬次第ではこの星を、手に入れようかとも思ったんですけれど……」
一方で滝夜叉は正直に答えたものの、溜息を吐いて俯く。
『ふふ、アテが外れましたか?』
「これだけ汚染が進んでいると、正直価値は」
冷涼な風が吹く砂の星は、有毒物質のセンサーが壊れかねないほど、荒れに荒れていた。
『なるほど。もう一つお聞きします。数日前から戦闘用の機械と、宇宙船に乗ってやって来た方々との関係は?』
「ここに来るまでに倒した連中ですわね」
「いや全くお恥ずかしい話だが……」
ジョンドゥは学長と彼が雇った傭兵たちのことを卵に伝えた。
副業の個人製作の映画がコケたこと、その負債の穴埋めに、研究成果の横取りを画策していることを。
『はーん』
「めちゃめちゃ興味なさそうですわ」
「こんなどうでもいい反応をされるとは」
卵はさもくだらないとばかりに、実際にくだらないのだが、気の無い返事をする。
知的好奇心に水を差されたような塩梅だった。
「私からも一つよろしいかしら」
『何ですか』
「あなた、これからどうなさるんですの」
銀色の少女は、この星の唯一の生存者に、問いかけた。
『卵は無事に孵りました。私の役目はありません。だからこのまま、ここで機能を停止する日が来ることを待ちます』
「あら勿体無い。それでしたら、私たちと一緒にこの星を出ませんこと? 役目が無いということは、あなたは旅に出ても良いということですわ」
殻を傷つけないように、滝夜叉はそっと卵の表面を撫でる。
『僕が旅に』
「勿論、安全は保証できませんけど」
「折角の命なんだ。死ぬのは生まれてからでも、遅くはないと思うぞ」
卵は二人の精神を読もうとした。弱くも強くもない、気遣いと温かさがほのかに伝わって来るのみであった。
『良いんですか?』
「丁度お土産が欲しかった所でして」
『ふふ、お土産か。それも悪くないかも』
「よし決まりだ。船に戻って一度帰ろう」
ジョンドゥはこれまでの記録を付けて携帯端末を仕舞うと、卵を抱えて立ち上がる。
それと同時に拍手の音がした。
「誰だ!」
「中々感動的なやり取りだったよウーンズ君」
「学長!」
部屋の入り口には大量の傭兵を引き連れた、初老の男が立っていた。白髪の頭部に黒縁の眼鏡、慇懃そうな物腰に笑顔を貼り付けた人物。
が、分厚い宇宙服にすっぽりと収まっている。
『僕が言ってたのはこの人たちです』
「いったいいつの間に!」
「私とて学者の端くれ。ロボットやサイボーグの目を騙す忍術の一つくらいは覚えている」
「気を付けろ、奴はあの歳でカルチャースクールと通信教育に手を出すほどのフリークだ!」
得意げな学長と説明する考古学者に、滝夜叉の電子頭脳は強い痛みを覚えた。
これは本来ならありえない事象である。
「このトンチキ共が!」
「動くな! その卵を渡してもらおうか」
「ふさけるな、誰が」
「もしも戦闘になればそれも壊れるぞ」
相手の台詞に被せ気味に言い放ち、学長が鼻で笑う。それに合わせて周囲の完全武装した傭兵たちが銃を構える。
「そこのロボットは平気でも、君とその卵まで無事でいられるか分からない。そうだろう? ウーンズ君」
「学長、あんたの映画の最後の冒険な、あれは最低だった。説明不足で接点のない女が勝手に死に、どこか陰鬱な空気が払拭できず、ハッピーエンドでもなく、年老いた主人公に意味を持たせたい一心で、無駄に辛い過去を盛った! 誰も望んでないあんな駄作!」
「黙れ!」
学長が手にしていた光線銃の引き金を引くと、ジョンドゥの足元で火花が散る。
「卵を渡せ、さあ!」
「くっ」
『僕は構いません。大丈夫ですから』
彼は躊躇したが、それでも他に手は無かった。やがて悪の手に秘宝(卵)が渡ってしまうと、その悪は勝ち誇ったように卵を掲げた。
「よーし、これでオートマンに関する研究成果と発表は私の物だ!」
「あなたに論文が纏められますの」
「安心しろ。君たちが集めた資料程度なら、私も手にしている。要するにだ、君たちにもう用はないということなのだよ」
その言葉と同時に、室内にまだまだ傭兵が侵入し、二人を取り囲む。
「お約束だな。芸が無いぞ学長!」
「王道と言え。さあ、やれっとと、何だ!?」
学長が処刑の合図を出そうとした矢先、宮殿が大きく揺れた。
それは地震ではなく、誰かから攻撃を受けているかのような揺れ方だった。
「まさか外のベリアルか!」
「監視からは異常ナシとのことです!」
「じゃあここの防衛システムか!」
――お嬢オオオオオオオオオオオオオオオオ!
聞き慣れたメイドの叫びと共に、巨大な鉄拳が宮殿の地下から突き出し、最上階の床をぶち割った。
「ドリス! ナイスタイミングですわ!」
「今だ、それ!」
室内が分割され、一時的な混乱の最中、ジョンドゥの鞭が閃く!
『わー!』
「しっしまった!」
器用に絡み付いた鞭はそのまま卵を高々と持ち上げ、学長の手から奪い返すことに成功する!
「教授! 床の穴から飛び降りて!」
「おいおい本気か!」
「大丈夫、主役は私たちですわ!」
二人は顔を見合わせると、少しの間見つめ合い、ドリスが空けた穴から空へと飛び込んだ。
しばらく落下すると、以前と同じようにセント・エトルムが駆け付け、二人を救出する。
「何をしている! 早く追い掛けろ!」
お定まりの命令と、本当に追って来る傭兵たちのベリアル。
「諦めの悪い学長め。どうだ、勝てそうか!」
「問題ありませんわ、ドリス!」
「うおおおおお! 遂に出番だあああああ!」
何故か怒っているようなサイボーグメイドと共に、滝夜叉は敵を迎え撃とうとする。
「さあ、いっちょやりますわよ!」




