・肉食系ショタとダメな室長
※このお話は三人称視点でお送りします。
宇宙戦艦ハシタメのドック車両。
26両編成全長2kmを超える怪物列車の中核となる船渠であり、人型戦闘機械『ベリアル』の格納、整備改造、発進を担う。
稼働当初は滝夜叉たち三名しかいなかったが、メイド達が合流したこともあり、現在は幾らか人員が追加されていた。
「それでエゴ君、だったかしら。あなたの機体は」
「あれです室長様」
先ほどのドリスからの命により、緑髪の女性と金髪の少年が、ドック車両に入る。
「あれって、ベリアルじゃないのね」
「はい……ボクは格好悪くて嫌なんですが、ドリスが現状ではこれが一番だって」
金髪の少年、エゴはばつが悪そうに、区画内の片隅にある、自分の機体を指差す。
それは上下が対照になったような、丸みを帯びたマシンだった。
「ギアボッツ社のV・Mね。機種名はエッグフォード。非ベリアルの機体の中でも、ロングセラーの名品じゃない」
緑髪の女性、ネジ子開発室長が眼鏡を指で摘まみ、クイッっとしながら言う。
ジャメリカ星脱出の際に、警察用の宇宙港を襲撃したとき、ドリスが盗み出した機体群を、組み直した物である。
「宇宙用と重力下用に、上下で四つずつ計八本のアーム兼レッグを装備して、状況によって付け替えたり、そのまま逆転できる。小型高速高出力で、見たところ随分改造してあるのね。装甲も厚そうだし、弱点の軽さも克服してるみたい。武装も吟味してあるし、過保護ねえ」
「うう……」
感心するネジ子の好評に、エゴは弱ったように呻いた。自分は気に入らないのに周囲がそれを褒めて来る。
「あなたこれで戦ったんでしょう?」
「はい、ほとんどオートだったけど」
滝夜叉らと営業に出た先の惑星で、思わぬ大規模戦闘に突入したのだが、彼はドリスからこの機体を譲られ、初陣を飾った。
出る幕はほぼ無かったが、自分で機体を動かすという経験と、実戦の興奮は何物にも代え難かった。
「今はどう」
「ドリスに教えられて、だいぶ動かせるようになったけど、やっぱりボクは救世主様のエトルムみたいな、もっとスマートな機体に乗りたいです」
エゴの中にはぼんやりとした、何か格好の良いヒーロー然としたベリアルに乗り、滝夜叉の隣に立つ理想の自分が存在する。
「ならもっと腕を上げないと。V・Mは作業用機械がベースだから、操縦もまだ優しいほうなの。ステップアップするには、最初のマシンくらい使い熟せないとね」
(まあ一つの機体に習熟すると、他の機体は要らなくなりがちだけど)
ネジ子は内心の余計な一言を、告げずにそっと胸の内にしまった。
「それってどのくらいの期間でしょうか」
「あなたが自分の戦い方を見つけ出すまで」
「戦い方……ですか?」
「パイロットとしての自分を把握することよ」
ネジ子たちはエッグフォードの足元まで行き、手動入力用のコンソールを操作し、コクピットまでの昇降用ワイヤーを解放する。
「例えば滝夜叉お嬢様、あの方はかく乱がお好みですが、ご自分で速攻を仕掛けるほうが断然強い」
「分かります」
エトルムの機能や自身の特殊な仕様を活かし、先日ジャメリカ星からの刺客を全滅させた主人のことを、エゴは思い出した。
「一方でメイド長はお嬢様の護衛を務めますが、火力と装甲を盛って突撃するのが、本来の姿なの」
「ああ、やっぱり」
彼はドック車両に鎮座したままの、ドリスの機体を見た。未だ出撃したことはないが、異色というか非常に物々しい。
「要するに、自分の得意な分野を見つけろってことですね」
コクピット内に入り定位置に座ったエゴと、内部の採寸を始めるネジ子。
「得意と好みね、両方同じとは限らないから」
「得意だから好きになるんでしょ?」
「ふふ、まあその内分かるわよ」
そう言いながら彼女は、操縦室内に対して小さ過ぎる少年の体を見て、改めて適切なサイズと距離感を計算する。
「あらあら、これだとレバーを押し込むと、ペダルが踏み込めないし、逆だとレバーが押し込めないのね。手足の長さが足りてないっていうか」
「ボクが小さいんじゃなくて、コクピットが広過ぎるんです!」
自分がチビであるかのように言われて、エゴはムキになった。
事実ベリアルを始めとした戦闘用の機体は、安全設計の一環として、子どもが使用できないよう設計されているものである。
操縦機器のロックは勿論のこと、重量制限がある、物理的に手足が届かないなど。
「そうね。だけど本格的なリサイズは今からじゃ難しいから、簡単な調整に留まるわよ」
「構いません。僕だけここに残る訳には、いきませんから」
別段エゴがこの場に残ったとしても、戦力的には大差が無く、むしろ事故や訓練不足であることを踏まえると、そのほうが良かった。
しかし彼自身は己を足手纏いとは思っていない。
「短時間で他にできることだと、エアバッグでも付けましょうか」
「エアバッグ、ですか」
古式ゆかしい飛び出る緩衝材である。
ジャメリカ星の物は高品質で、使用後は瞬時に再収納されて使い回しが可能で、視界を長時間塞がない仕様になっている。
同様の仕組みでベリアルサイズの物があり、こちらは外側に飛び出し、盾代わりに用いられる。
「そう。格好付けて搭載しない人が多いけど、戦場に長時間居座るなら、あって損はしないし、小手先の装備は持てるだけ持ったほうがいいのよ」
エゴは自分の機体が、次から次へと小賢しい真似をする様を想像した。
何だか悪くないという気分になった。
「じゃあ、お願いします」
「決まりね。目指せフルアーマーフルオプション!」
エゴは自分の機体が装備を盛ってゴテゴテした姿を妄想した。
何だかイケるような気がして来た。
「他に困ってることってあるかな? 帰って来るまでの間に、なるべく用意をしておくけど」
「困ってること……あっ」
メイド服姿の少年が、ふと視線を落として顔を曇らせる。
「どうしたの?」
「実はボク、戦闘すると、興奮しちゃって」
ネジ子は彼の視線を追う。
スカートで隠れているが、間違いなく股間へと注がれていた。
「おっきくなっちゃうんです」
「大きくって」
「……おちんちん」
頬を赤らめて顔を背ける、彼の言葉の意味を、年上の開発室長は、最初こそ飲み込めなかった。
しかしそれもほんの数秒のことで、直ぐに相手の言いたいことを理解した。
「ドリスや救世主様は、メイド隊にもそういう人がいたから、気にしないって言ってくれたんですけど、中々治まらなくて」
戦闘や激しい運動による興奮状態が、性的な情動を喚起することは、歴史的にもスポーツ競技の選手が証明している。
「そういうときメイド長はなんて」
「その辺で種蒔きして来いって」
理解があるけど下品な上司を思い浮かべて、ネジ子は眉を顰めた。
「えっと、やり方は分かるのかしら」
「ウバステだとそういうの見慣れてたから」
人間にしか見えない人間ではない少年の、気が触れそうになる日常は、偏った知識と経験を、彼に与えていた。
「大きいってどれくらい」
「どれくらいって、あ!」
「ちょっとごめんね」
ネジ子は特に気にしていない風を装い、エゴのスカートの中、スパッツの奥へと手を潜り込ませた。
柔らかな物体はしかし、手の中から少しはみ出す程度であり、擦るように揉むと、中心部が熱を持ち、硬く屹立していくのが分かった。
(15cmくらいある。この背格好で)
十歳程度の少年のオベリスクを、手に伝わる感触のみで、彼女は判断する。
間違いなく大きいほうである。
「あう、うん、ふぅ、あのう」
「ああごめんなさい。でもそうね、これがいつもだと辛いわよね」
「鎮静剤とか無いんでしょうか」
エゴはやり場のないまま、急に叩き起こされた欲求の扱いに、困っていた。
「それだと体に悪いから、無理のない処理を覚えるべきね。こういうのって、相手がいるのが一番だけど、ここだとまだセクサロイドは無いし」
そう言うネジ子の目は暗く湿り気を帯びていたが、厚い眼鏡のレンズに隠されて、エゴは窺がい知ることが出来ない。
「もしエゴ君さえ良かったら、その、私の体、使ってみる?」
「え!?」
「こんなおばさんじゃ、嫌かもしれないけど」
ネジ子は彼の股座から手を放さずに、体を寄せた。日照りに餓えた臭みが、エゴの脳を強烈に刺激する。
「ううん。でも本当にいいの」
「君がしたかったら、毎日だって、いいよ」
「し、室長様!」
「あ! こらこら、ここじゃダメ。後で!」
真っ当な性教育を受けていない生物を誘い受けし、ふとした切っ掛けから日々の潤いを手に入れたネジ子は、内心でほくそ笑む。
「嬉しい。救世主様はあんまり治まらないなら、メイドの誰かに、相手を頼んでみたらって言ってたけど、こんなに早く見つかるなんて」
特段の抵抗も忌避感も無い。背徳というより野生に近い情事が、ハシタメで始まろうとしていた。
そしてネジ子は思い知ることになる。
若い生命をぶつけられる、その意味を。




