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035:戦う理由

 主神にかしずく四柱の従属神。

 火女神さまはその内の一柱で、元の世界でいう所の夏や熱を司っているらしい。


「メジャーなのは大地母神とも言える土の女神さまですね」

「収穫祭で有名よね」

「それって、魔法と何か関係あるんですか?」

「サチは性急に答えを求めがちだな」


 俺たちの養母であるカレンもよく言っていたが『魔法とは|想像(創造)力』である。

 レドリックが言うには貴族は血という素養の上に、幼い頃から培った『出来る』という教育がほどこされる。

 失敗も経験から改善され、魔法は徐々に完成に近付いていく。


 魔法とは貴族のもの、平民は恩恵の一端を預かり受ける者。

 その意識が圧倒的に強い平民は魔法を覚える行為が減っていき、神さまに感謝する機会として『大地の奇跡』とも言える収穫祭が真っ先に頭に浮かぶのだ。


 ちなみに『聖火院』の養母はエルフなので、祈りと同時に魔法についても教わる事がある。

 その為、魔道具の扱いにも精通することができ、冒険者になることが多い卒院生は安価な魔道具だけ使う事に躊躇いはない。


「例えば畑に種を植えて、何故芽が出るのか?」

「そんな当たり前の事、考える必要はないかな」

「何でだ? サチ」


「物を離したら落ちるくらい、当たり前の事だよ」

「うーん。一理ある・・ようなない・・ような?」


 サチの言葉にグレンダは思案顔だ。

 でも、こういう場面で重力の話をしたらいけないような気がする。

 科学も物理も、この世界で言えば錬金術の一部なのかもしれない。


 浅い知識で表現するなら、過酸化水素水に二酸化マンガンが化学反応を起こしたら酸素が発生する。

 この触媒に当たるのが魔力らしく、発生する酸素に当たる部分が想像出来ないだけなのだ。


 そして今回のイレギュラーはただの傷薬の筈が、追加効果がついたことによる。

 一定の行動をとって一定の成果が上がらない行為は科学とは呼べないので、錬金術なら問題ない……とはならないようだ。


「レイクさんの博識ぶりで、私の説明はいらなくなってしまいますね」

「そんな事はありません。でも、今回の現象は?」

「はい、それは二人の魔法使い――レイクさんとサチさんの影響が強いかと」

「僕も入ってるんですか?」


 サチの顔を見ると、少しだけ頬が紅潮しているようだった。


 それはそうだ。

 錬金術師という特別な職業の人に『魔法使い』と認定をされたら誰でもこうなってしまうだろう。

 俺の魔法は少し微妙なものしかないが、それでも『魔法使い』と言われたら照れてしまう。

 グレンダの方を見ると、謎の頷きを繰り返していた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「一日会わないだけでサチくんが魔法に目覚めたのも凄いですが、やっぱりレイクさんの影響が……」

「レイク兄さんって、やっぱり凄いんですか?」

「そうだよサチくん。先程から貴族を例に出して悪いんだけど、やっぱり魔法って貴族のものだからね」

「でも少数でも人口比で考えれば、平民の魔法使いと同等くらいですよね?」


「そこで出てくるのが魔力の『成長度数』というものなんだ。簡単に言うと、早く目覚めた者は成長が速い」

「レイクは早くに目覚めたんだよね?」

「あぁ……。だが魔法なんて、ほとんど使った事はない」


 俺が冒険者を引退した理由は圧倒的な決定力不足。

 この一言に尽きると思う。


 今でさえ魔力が無駄に大きくなり始めて弊害が出ているのに、攻撃魔法というジャンルの魔法は使えていない。

 カレンとの訓練でも制御は上手くなったが、火女神さまが苦手な『小治癒かいふくまほう』とか『着火』では代用品が多すぎた。

 魔力量を抑える為常時展開している『耐火』の魔法も、軽い温度調節くらいにしか効果がない筈だった。


 サチとの戦闘訓練で捌ききれたのは良しとして、俺レベルの使えない魔法使い・・・・・・・・は『魔法使い』とは呼ばないだろう。

 それでも魔法使いと呼ばれたなら嬉しくなってしまう。

 幼い頃の憧れはまだ残っているし、それが俺等の目指すべき冒険者としての像だからだ。


「レイクさんの今までを軽く聞きましたが、こんな短期間に魔力が増大するなんて珍しいんです」

「『聖火院』出身者は、火女神さまに愛されているのよね」

「それだけなら、他の卒院者にもっと加護があってもおかしくないのでは?」

「それも……、そうだな」


「レイク兄さん、そういう話は聞いてないの?」

「俺等の頃は他院との交流は少なかったからなぁ。というか、今は外部から来てただろ?」

「あっ……。研修に来ていた、ただのお姉ちゃんとしか考えてなかった」


 話を整理すると魔法とは、早く目覚めても使わなければ劣化する技術のようだった。

 自転車に乗れたなら忘れる事はない。

 ただ段々と出来る事・出来ない事が固着し、火魔法で言えば『着火』程度に落ち着くらしい。


 俺の急成長は異常で、それは火女神さまから贈られたとはいえ、常時展開している魔法が更に魔力を強くしているようだ。

 だからこその『魔法使い』発言らしく、俺の火に霞まないサチの魔力もまた特別なもののようだった。


「本当は錬金作業も一人で行います。彼は水の属性が強いので、魔力による影響は少ないのですが」

「でも、水の魔力って憧れるなぁ」

「そ、そうですか?」

「うん、きれいな水の大事さは知ってる!」


 少年はレドリックさんの助手的な立場で手伝っていて、それはそれで凄い事だ。

 商業ギルドを頼る以上に、村人を巻き込んで実験施設を作っている。


 俺たちはダンジョンから採れる産物により、薬師が多い地域から来たからこの凄さは分かりにくいかもしれない。

 ただ、ここは一度流行り病で滅んだ村の跡地な為、ここでレドリックさんの存在意義は計り知れないものだと思う。


「もし興味があるなら、二人……三人で作業してみますか?」

「え? 私も良いのですか?」

「今だけしか出来ない実験だからね。今回私は手伝いに回りますよ」


「それならグレンダがやってみると良いな。魔力が関係ないと、どうなるかが分かるから」

「その間レイクはどこか行くの?」

「いや、俺も端っこを借りて作業しようかなと」


 実験の検証・結果には興味があるが、今回はサチとグレンダと少年に同じ薬を作ってもらうことにした。

 錬金窯の操作はレドリックさんが担当してくれるので、補助する人員は足りている。


 その間に軽食でも作り、時間があれば報告書の作り方も覚えようと思う。

 サチにばかり任せる訳にもいかないし、俺の目とパーティーメンバーの目で見た内容の整合性をとる必要があるからだ。


「面白くなってきたな」

「どっちが良い薬を作るか勝負だ!」

「え? せ、先生の弟子として負けないぞ」

「こらこら、私は弟子をとったおぼえはないぞ」


 戦う前から絶望感に包まれている少年を余所に、何故か薬作り勝負が始まった。

すみません。

お仕事が忙しく休みもあまり取れていないので

年内の定期更新は今回で終了します。


ちょっとずつ書き貯めて年始or年内の不定期

更新にてアップしていこうと思いますので

ご声援いただけたら幸いです。


では、みなさま

良いお年をお迎えください。

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