031:きっかけは理由
「錬金術師と魔力に目覚め始めた少年かぁ」
「サチくん、あんな人たちと自分を比べてたの?」
「そういう訳じゃないけど……」
「気持ちは分かるな……」
「ハァ、そういう無自覚な所だよ」
「えっ?」
サチの気持ちは俺たち卒院生が抱えている、共通したものだと勝手に思っていた。
ところが、どうやらそうではないらしい。
「例えば戦闘力が低い問題とか?」
「うん」
「攪乱要員はそんなにいらないとか」
「そうだね」
「じゃあ、大体合ってるだろ?」
「レイク兄さんは色々出来るじゃん」
「それはね、冒険の中で誰でも覚えていくことだよ」
「グレンダ姉さんも?」
サチの問いにグレンダはそっと目を逸らした。
確かに人には得手・不得手があり、俺たちはそれぞれソロの道を歩むことが多かった。
グレンダとだって│そんなに(・・・・)組んだことはない筈なんだけど、妙に気が合う仲間は確かに存在する。
そうなると交渉の│主導権を取ったり、仲間がやらない事を担当することは普通にあった。
「大体レイク兄さんは、魔法が使えるじゃないか!」
「引退を決めるまでは、軽い擦り傷を治す程度だったんだよ」
「火もつけられるし回復もできるなんて、僕から見たら……」
確かに魔法と言えば魔法だけど、俺の考えている魔法とは随分とイメージが違うようだ。
それを羨ましがられても、絆創膏や火打石程度の便利グッズに何の意味があるのだろうか?
どちらかというと魔道具のストーブや収納する物を選ぶポーチ、火女神さまの贈り物の方が生活を豊かにしてくれている。
それも日常使いしかしていないので、限られた仲間としか共有することができないでいた。
「そういえば、カレンから魔法の修行は受けなかったのか?」
「評価は普通だって。魔法に適正がないのが普通なんだよ」
「うん、それは聞いたことがある。一部の貴族さまの血統が特別なんだって」
「そうは言うけど、魔道具を簡単に扱えるのも俺たちの利点なんだぞ」
「魔法は想像力とか、一回魔法が使えれば後は簡単とか言うけどさ。所詮は出来る人の感想なんだよね」
「グレンダの水の魔道具とか便利だけどな」
「これはある意味、最後の砦だから……」
サチが吐露した気持ちから察すると、レドリックさんだけではなく俺たちを含めた全員に劣等感を抱いていたようだ。
さすがに商業ギルドの二人にまで嫉妬していたとは思わず、サチだって冒険者ギルドに戻れば違う場面で実力を発揮出来ただろう。
錬金術師は特別だとしても、その他は『隣の芝生が青く見える』としか思えない。
「ねえ。レイク兄さんは、どうやって魔法を覚えたの?」
「その話、私も聞きたいかも?」
「最初に……か」
「僕だったら絶対に忘れないと思う」
昔から魔法を使ったという実感も少なく、これが魔法なんだと正直拍子抜けした記憶しかない。
だから頭から微かな記憶を手繰り寄せると――何故かロギーに当たったりする。
「思い出した……。けど、美談でもなんでもないぞ」
「それでも知りたい!」
「知りた~い」
野営をする訳でもないので、食事も終わったし│さっさ(・・・)と寝ても問題ない。
それなのに妙なテンションで俺の昔話を語ることになってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あの頃の俺たちは非常にヤンチャだった。
義兄たちが俺たちを引っ張り回し、良いこと・悪いことを覚えながら成長して行ったあの時代。
兄弟姉妹を分類するなら、ロギーは違うグループに属する立場だった。
それなのに『味噌っかす』と言われても俺たちについてきて、何度撒かれても俺たちと一緒に遊びたがった。
それでも義弟には無理な場所へも遊びに行く義務が俺たちにはあった。
何故だか分からないが、それは男にしか理解できない使命のような気がする。
だから夕食後の外出も、こっそり行く筈だった。
「話は漏れてないな」
「うん、大丈夫」
時代的に今より貧しくても、好奇心だけは今の倍以上あったと思う。
何より義兄たちがヤンチャしていた時代でもあり、暗闇しか見えなかった俺たちが光を目指すには暗い場所が心地よかった。
その時どこを目指したかは正直思い出せなかったけど、短時間で済む肝試し的なイベントだったような気がする。
交代で抜け出し、義兄たちに勇気を披露する。
そんな遊びが何故かロギーにバレてしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それで道に迷ったロギーの大捜索大会に変更になり、転んだ拍子に擦りむいた怪我を俺が治したんだった。
「またロギーなんだ……」
「泣き虫で、すぐ迷子になるんだよな」
「それを助けに行けるレイクが凄いね」
「逃げ方とか隠れ方が独特なんだよ」
「でも、よく魔法が使えたね」
「『痛いの痛いの飛んでけ』って言ったら、驚いた顔をして治ったって言うもんだから」
「兄弟愛なんだね」
最後の言葉に最近会ったロギーの顔が浮かぶ。
確かに幼い頃は可愛かったかもしれないが、俺もおっさんになっている以上アイツも似たようなものだ。
「僕には、そんな特別なイベントは起きないしなぁ」
「サチくんは、家族がいなくなったらどうするの?」
「周りのみんなに聞き込みをして、仕方ない理由だったら何もしない」
「まあ、事情はそれぞれだからな」
「でも、探して欲しいと思っている時は?」
「時系列で足取りを追って、ローラー作戦かな?」
この考えが出来ている時点で、サチのポテンシャルの高さは十分にあると言える。
俺たちは立ち止まったら恐ろしい事を考えてしまう。
だから一歩でも前に進もうと思うし、その上で見つからないなら火女神さまの元へ行ったと思うだろう。
それが傷つかない一番の方法で、自ら安全を放棄した家族との正しい別れ方だった。
「多分、正解なんてないんだよ」
「そうだな。だからキッカケなんて大層なものじゃなくても良いし、その時が来ればきっと分かるさ」
「二人はすぐそうやって懐柔しようとする。僕だって子どもじみた我儘だって分かってるよ」
「サチくんにもレイクの指輪みたいなものがあれば良いのにね」
「これは不思議と外せないからなぁ。じゃあ、こっちを貸すよ」
「火掻き棒って、ある意味僕ら向けかもね」
火女神さまから授かった火掻き棒。
サチが広がった薪を搔き集めるていると、少しだけ違和感を覚えた。
「サチくん、先端が燃えてるよ」
「えっ? うわぁ」
持ち手の部分には保護材が巻かれているが、基本的には金属製の火掻き棒だ。
だから先端が燃えるなんて、余程の事がない限り……。
それとも、余程のことが起きているのかもしれない。
そう、あの時『暗闇が恐い』と言ったロギーを励ます為に生まれた魔法の火のように。




