024:気持ちが分かった理由
目的地は『レドリックの実験農場』と呼ばれる場所で、この街から徒歩一時間くらいの場所だ。
本来なら村と呼んでもおかしくない規模だが、錬金術師の当人が嫌がったのでこの名称で呼ばれているらしい。
代理の村長もいれば半定住化している人々もいるようだ。
見どころは倉がある村長宅・錬金術工房・シンボルである5mくらいの樹。
後は畑と呼ばれる場所だが、それが少し変わっているらしい。
「本物の錬金術師に会うなんて初めてだよな」
「その辺の職業って幅が広いからね」
「確か薬の性能を引き出すのが薬師、錬金窯を使って入れ物ごと造るのが錬金術師。魔力は使ったり使わなかったりかな?」
「でも、実績があるから援助してもらえるんだよね?」
「ほっほ。放棄された村を復興させた英雄じゃな」
「確か昔、飢饉があったんだよね」
旅の醍醐味とは食の他に、その地の歴史にあると言っても過言ではない。
安定した土地なら歴史は積み重なるが、一言で終わってしまうような土地も存在する。
そういう意味では、旅の錬金術師が再興した村なんてドラマ性がある。
「ほら、見えてきた」
「先に知らせに行ってくる!」
「あ~あ。行っちゃった」
「これがサチを見た最後でした……」
「ほっほ、多分大丈夫じゃろ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
事前に村のような存在と聞いていたので、出入口に門番がいるとは思わなかった。
ただ大きく手を振るサチはお気楽さ一杯で、無表情を演出している門番の口元は小さな笑みがこぼれていた。
「もう、遅いってば!」
「ハァ、俺たち護衛が依頼主から離れるのはどうなんだ?」
「だって、二人がいれば問題ないじゃん」
「確かにのぉ」
「ほらね」
「お爺ちゃん、納得しちゃダメだって」
アサドさんが手を挙げると、二人の門番は訓練されたような動きで左右に別れていく。
そしてすれ違いざま『初めて来たなら、村長宅へ挨拶に行くように』と言われた。
小さな村だけあって、大きな通りを歩けば全容はすぐに分かってしまう。
少し進むとすぐに大きな倉が目に入り、アサドさんとルチアちゃんは直ぐに商談モードに入った。
街から徒歩一時間くらいの距離なら大量の水を運ぶ必要もなく、ここの村長は近くの街の管理者の息子なのでトントン拍子で話が進んでいく。
「なかなか良い護衛を雇えましたね」
「ほっほ。ギルドの推薦でしたが、ルチアのことを思えば……のぉ」
「あー、お爺ちゃんが営業モードになってる」
「サチ、分かったか?」
「全然……」
「これは女の子だけに分かる何か……かな?」
「ねー、グレンダさん」
「……うん。ねー……」
見た目だけで言えば、俺たちの恰好は物見遊山の旅人にしか思えないだろう。
グレンダは槍を持っているので護衛っぽいが、見た目はポワポワした若い女性だ。
サチはルチアちゃんと変わらないくらいの年齢だし、俺にいたっては火掻き棒を杖代わりにして歩いている。
微妙に噛み合わない二人の会話が面白くて吹きだすと、グレンダは俺の背中をブラインドにして村長から隠れた。
この人見知りと傷つきやすい対人関係をなんとかすれば……。
それでも見知った仲間同士だとよく喋るし、サチと違って役目を忘れることは決してない。
サチについては見習いなので何とも言えないが、下手をすると俺の上司になる可能性も秘めている。
未成年の壁に阻まれているサチは、ある意味成長期真っ只中だ。
戦闘面で活躍が難しいので、その他の方向性を伸ばしてあげる必要が出てきた。
「それにしても村長さんって若いんですね」
「またまたぁ。レイクさんと同じくらいでしょう?」
そんな村長の後ろには数人の小さな子どもがいた。
周りを見渡せば畑がいっぱいな中、こんな環境で家族をつくるのも悪くないなと思った。
「皆さん、一つだけ約束してください」
「何でしょうか?」
「錬金術師とは特別な職業であると同時に、忌避されやすい職業です」
「はい」
「それで?」
「もし様々な行為に違和感を覚えたなら、まず私に相談を」
「貴方が話して諭す……でしょうか?」
「いいえ、私も戦う術を持ち合わせております。もちろん、そちらのお嬢さん程ではありませんが」
街から見て、少し違和感があると言われている実験農場。
それはただ単に変わった植物を育てるだけではなく、次代に活かす品種改良も考えた実験農場のようだ。
過去の知識を少し持っている俺は、あの頃食べていた物が全てといって良い程改良されている事を知っている。
例えば大きい実がなる苗があって、その実は酸っぱいとする。
例えば甘い実がなる苗があって、その実は小さい実がたくさんできるとする。
遺伝子で有名なメン……、メン……なんちゃらさんの考えに基づけば、やる事は自ずと決まってくるだろう。
それを直観と自信の持っているカードでやるならば、相当異端に見えることもある筈だ。
「そんなに危険な人なんですか?」
「いやいや、どちらかと言うと凝り性なだけだね」
「俺たちは野蛮人じゃないよ!」
「分かってるさ。だから私が汚れ役を買っているんだよ」
直接レドリックさんを応援しているのが村長一家で、多分街で暮らしてた方が便利なのに近くで支援をしている。
恐いもの知らずと潤沢な資金が研究の成果となり、放棄された土地と畑――冒険者になるよりも健全な未来が約束されていた。
この土地が村と呼ばれる直前まで持って行ったのはレドリックの功績であり、レドリックが固辞したせいで名称が宙に浮いていた。
確かにいくら自分が活躍しようとも、『レイク村』なんて呼ばれるのは正直むず痒い。
一通り忠告を聞いた後、俺たちみんなでレドリック家のラボまで向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこそこ広い土地だけあって、普通の野菜を栽培している者も多くいた。
「あれって何? レイク兄さん知ってる?」
「ビニール……じゃないな。多分温室かな?」
見た目はまるっきりビニールハウスだけど、どことなく硬そうだし透明感もそれほどではない。
その近くにはポツンと小さな小屋があり、そこがレドリックの家のようだ。
馬車の荷物のほとんどは村長宅の倉に降ろしてある。
残っているのはレドリックがすぐに使うもので、俺たちにはその価値が測りかねていた。
とにかくここから見える景色は温室と少し高い樹木、水を抜いた後の池?
そんな戸惑いを感じながら温室の前まで行くと、小屋から誰かが出てくる気配がした。




