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002:助けに行く理由

 俺とグレンダは革袋ポーチを見つめ、何故今更こんなものを出してきたのかと訝しそうにカレンを見た。

 特に大事な記憶に紐付いている訳でも、俺の出自を証明するものでもない筈だった。


「あの時置いて行ったものですが、肌身離さず忘れずに持っておきなさい」

「捨ててくれても良かったのに……」

「それは……、お告げがあったのです」


 カレンの言葉と共に、一人の少年が礼拝堂に飛び込んできた。

 コイツは『聖火院』に所属する、冒険者ギルドで細々こまごまとした伝令を務めている少年だった。


「レイク兄ちゃんグレンダさん、大変だ!」


 焦った表情を浮かべている後輩に、何故かオヤオヤ困ったわと小首を傾げるカレン。

 何でグレンダだけでなく、俺の名前も呼んだのか?

 とりあえず、話だけでも聞かないといけないなと思案した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 この街から片道一時間くらいの場所にあるダンジョン。

 そこへは多くの冒険者が、日々のかてを求めて潜りに行く。


 ダンジョンからは多くの恵みを得る事が出来る。

 特に『登山エリア/エイビス山脈』は特殊な薬草も採取でき、近くにあるこの街が流行り病など少ない理由の一つとされていた。


「それで何があった?」

「救難信号が出たんだ!」


 冒険者ギルドは、国や都市には支配されない独立機関だ。

 それでも緊急時には都市防衛要員として徴兵されることがある。

 それは愛国心もそうだが、居住エリアの減少が生活に直結してしまうからでもあった。


 ただ、そんな緊急事態は起こりえない。

 したがって冒険者は基本的に、自己責任で生活をする自営業のようなものでもあった。


「それって、あのタグの奴か?」

「うん……」


 冒険者になると受け取れる物がある。

 有名なのは冒険者カードで、街の出入り・税制面・預金が出来る機能がある。


 ソロが多い俺にとって関係ないものだけど、もう一つにパーティー専用のドッグタグがあった。

 メンバーそれぞれが一つずつ持ち、余剰の一つを冒険者ギルドへ預ける。

 その機能は救難信号を送ることができ、冒険者ギルドは念の為・・・救出者がいるか確認をする。

 その時、今受けている依頼状況・帰宅日が開示されるのだ。


 基本的に助けに行く者は少ない。

 依頼とは事前にギルドが提示した条件に見合った人数で行き、見合った報酬のもと完遂するものだ。

 場合によっては事前調査し、危険を避ける嗅覚を養うのが冒険者というものである。


「それで、何で俺とグレンダを探しに来たんだ? 俺はもう……」

「レイク兄ちゃん。救難信号の相手は『指導者オルツ』と『迂闊なロギー』なんだよ」

「ハァ、久しぶりに聞いた名前が『迷子のロギー』かよ」

「知ってるの?」


 グレンダの問いに、頷いて良いのか悩んでしまう。

『聖火院』にいれば憧れる対象は成功した義兄や義姉で、その中でも差し入れしてくれるのは冒険者が多かった。

 おのずと冒険者に対する羨望あこがれは強くなり、俺も冒険者になって小金を集めることが出来た。

 今考えるとあの頃・・・の義兄や義姉たちは、少ない小遣いで俺たちの事を心配してくれていたのを思い出す。


 そんな俺の子供時代、遊ぶグループは年代によって分れてくる。

 幼い頃の数歳の差はとても大きく、グループ最年少のロギーは何かと事件を起こしていた。


「冒険者は自己責任だ……」

「レイク……」

「確かにロギーも良い大人ですね」

「兄ちゃん、話はまだ続きがあるんだ!」


 冒険者にとって依頼にアタリ・ハズレがあるように、依頼主にとってもアタリ・ハズレの冒険者がいる。

 今回の依頼人はこの街にいる上位の薬師であり、とある人物からの依頼を受けて製作にかかっていた。

 その上で足りない薬草があり、その手自ら採取に同行したようだ。


 どの職業にも貴賤はない。

 厳密に言えば神職は別格だけど、俺たちがギリギリで堕ちなかったのはカレンのお陰だ。

 そしてこの街で安心して暮らせるのは、医師と薬師によるところが大きい。

 その一人の命が失われてしまったなら、この先どれ程に影響があるか分からなかった。


「冒険者に対する信用か……」

「レイク兄ちゃんが戻ってくれば解決できたのに」

「大人には色々と事情があるんだよ」

「で、どうするの?」


「ハァ……。誰も行かないんだろうな」

「そうだね」

「じゃあ、誰かがロギーを叱ってやらないとな」

「そうですね」


 カレンはまるで合格とでも言うような笑顔で、グレンダは絶対について行くとでも言わんばかりに俺の腕をとった。

 定宿を引き払って旅に出る筈なのに、どこをどう間違えたんだろう……。

 冒険者を引退してから始まる俺の冒険は、何故これからなんだろうか?


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 通称『登山エリア/エイビス山脈』へは、案内があればピクニック感覚でも入れる。

 低層では主に角兎や狼などが群れで暮らし、鹿・猪・熊などもいるが比較的出会おうと思わなければ出会えないエリアでもあった。


 準備を整えた俺とグレンダは、一目でその異常さを理解した。

 年に何回かしか起きえない猛吹雪が低層にまで届いていた。

 まだ視界が通ってるから良いものの、上に登っていけば更に異常は増していくだろう。


 ダンジョンには生態系など存在しないと言われている。

 弱肉強食による食物連鎖、そんな説を一蹴するように出てくる魔物自体が変わっていく。


 角兎や狼の体毛は白く染まり、冒険者は訳も分からず傷を増やし血に染まる。

 風・水・氷・雪の精霊の化身と呼ばれる者たちが荒れ狂う。

 他にも雪女・雪鬼、真っ白な猿人に似た魔物なんかもいるようだ。


「いいのか?」

「これが最後の冒険なんでしょ?」

「そうだな。救急用具と食料は持った!」

「あーあ、これがレイクとの最後の冒険かぁ」


 グレンダはおどけて・・・・みせるけど、その手に握られた槍は誰よりも・・・・頼り甲斐があった。

 背中に背負った、いつもより多い食料と長い棒二本。

 これじゃあまるでキャンプだな・・・・・・・・・と笑みがこぼれたけれど、これから行うのは救出作業だ。


 依頼内容で薬草の生息域は分かっているし、あぁ見えてロギーは運が良い。

 後はどこかでジッとしていてくれれば、それだけ生存率は上がるというものだ。

 誰か一人が助けを求めに下山したとなると、全員を救うのは正直難しい。

 俺は指輪の魔道具に唇を押し当て、その指輪でランタンの魔道具に火を灯した。


「ねえ、レイク?」

「どうした? 何か見つけたのか?」

「ううん、やっぱり冒険者に戻らない?」

「畑仕事するまでは、そういう仕事をするんだろうけどな」


 風雪吹き荒れる中、俺はランタンを掲げながらグレンダの問いに答える。

 同じ仕事でも人によって達成率は変わるし、戦闘が得意な冒険者は多くても雑用が得意な者は評価がされにくい。


 今回『俺が抜けた穴を埋めようとした』と聞いて、少しだけ罪悪感が生まれたのは確かだ。

 もしロギーたちを救出できたなら、俺が得たやり方ノウハウを残すのはやぶさかではなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 この世界には魔法が存在する。

 ほぼ全ての者は魔力を持ち、それでも魔法が使える者は一定数を下回る。

 そんな者たちが魔道具を使い、人々は生存範囲を拡大させていった。


「レイク……、レイク!」

「大丈夫だ、グレンダ。道は間違えてない」


 猛吹雪の中、グレンダが声を張るのも無理はない。

 数メートル先が見えない現状で、安全を担保してるとはいえ警戒は必要だった。

 俺が前を歩けば魔物への警戒が薄れ、グレンダが前を歩けば自然の脅威にさらされる。


 そんな俺が掲げているのは魔道具のランタンで、今思えば魔物除けの効果があるのかもしれない。

 購入したのは中級以上の冒険者なら誰もが持てるくらいのランクで、俺のは中古品だけどよく手入れがされている物だった。

 通常の魔道具は、一定の魔力を注ぐと一定の効果が発動する。

 逆に言うと、それ以外の効果が出てしまうのは不良品であり、俺は通常の灯りとして使えているので愛用している。


「休まないで平気?」

「あぁ。最後の冒険だと思うと、何だか力が漲るよな」

「ふふっ、まるで子どもみたい」

「そうだな。迷子で泣いている弟分を、早く助けにいかないと」


 ここのダンジョンは外の時間も反映している。

 日が昇れば夜もやってくる。

 夜になれば魔物の時間となり、その行動は活性化する。


 この灯りが照らす範囲はそれ程広くはない。

 今までの経験と知識が、俺たちの脚を早くする。


 依頼人の命・弟分の不安・そのバディのやるせなさ。

 人命救助は全員助ける事に意味がある。

 そこには依頼人が薬を届ける相手も含まれている。


「見えてきたぞ」

「分かるの?」

「あぁ、きっとあそこだ」


 通い慣れた『登山エリア/エイビス山脈』で目当ての薬草があり避難できる場所は多くない。

 アタリをつけていた場所に全員居れば良いのだが……。

 そんな事を願いつつ、俺たちは慎重に目的の場所を目指した。

1話目をブクマ・評価・イイネをして頂いた方に御礼申し上げます

ありがとうございました!

(/・ω・)/ばんざーい

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