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017:レイクである理由②【閑話】

 最後に案内されたのは『指導者オルツ』で、『迂闊なロギー』と一緒にレイクたちに救出されたレジェンドであった。

 冷静に状況を判断し雪山での遭難を乗り切ったのは、何もロギーが持つ幸運だけに頼った訳ではない。

 細い糸を手繰たぐりよせたのは紛れもないロギーだが、その糸を最後まで離さなかったのはオルツの持つ才覚だった。

 薬師の患者も含めた全てを救ったとして、ギルドからオルツの評価は一段階上がっていた。


「実際にレイクを推薦したのは君と聞いている」

「あぁ、そうだ。折角の有望株を腐らせるのはもったいないだろう?」

「君は助けられた側だから、負い目があるのでは?」

「そうだなぁ……。ではギルマス、貴方も遭難してみるといい」


「どういうことだ?」

「人はどういう時に冒険者に感謝するのか?」

「オルツさん、話が飛躍しすぎてますよ」

「では、こう考えてはどうかな?」


 もし仮に、ある村が魔物に襲われた場合。

 自身の大事な人が魔物の餌食えじきになって、その魔物を倒した冒険者は感謝されるだろうか?


 倒した冒険者が上級者なら、襲われる前に倒せたかもしれない。

 薬師ならポーションで、聖職者なら魔法で大事な人を癒してくれるかもしれない。

 それでも被害にあった大事な人は帰ってこないし、被害にあった村は復興に時間がかかってしまうだろう。


 そんな相手に、『後はお前たちの事情だ』とさっさと帰るのか?

 それとも『今日の酒は美味い』と素早く報酬をねだり、そそくさと酒場に繰り出すのか?


 自身の無力さを嘆きながら、それでも緊急時には頼ってしまうのが冒険者という存在だ。

 事件が終わったと安心させる微笑み、それは何物にも代えがたい。

 レイクにはそんな温かさがあるし、それを育む環境は確実に周囲に揃っていた。


「農民出身の冒険者はいるし、まだまだ田舎は冒険者に偏見をもっている」

「盗賊まがいとも言われているし、冒険者崩れは多いですね」

「下地がある分、聖火院出身者には頑張って欲しいが……」

「人が住める領域は、まだまだ多くない。環境に影響されすぎて、魔物による淘汰が人類の成長を拮抗させてる原因でもある」


「あの~。レイクさんを雇うのは、そんなに難しいことでしょうか?」

「フリーダ、有望な冒険者をギルドに引き入れるのは簡単さ。ただ、心の中のわだかまりを解消させてやらねばなるまい」

「ある意味、時間に追われず安全で、お給料も約束されているのにですか?」

「考えが凝り固まってなければ、案外生きるだけの仕事は山程ある。それなのに『冒険者しかない』と思うのは視野が狭い証拠さ」


 自身も冒険者ならば推薦者も冒険者だ。

 それがギルドという色眼鏡で見ると、世界は都市単位とてもせまくで考えられてしまう。

 それはある意味為政者・・・の考え方であり、『明日食べる物がない』という経験をしていない者には想像しがたい。


 自身の行動が報酬に結びつき、自身に投資して結果に繋げる。

 それはマネーゲームのようでもあり、良い武器・良い道具を使えば一定以上の冒険者には簡単になれる。

 そこに『死』というリスクがあるだけで、そこに目を向ける若者の冒険者は少なかった。


「今までの意見を総合すると、冒険者としてダメならギルド職員として強く推したい……だな?」

「体力が許すなら、私自ら彼と組みたかったが……」

「方向性が似すぎたのが残念だったな」

「その分、彼の弟分を鍛えることにするさ」


「オルツさん。私共はレイクさんもそうですが、貴方の早いギルド入りも望んでるのですよ」

「その辺は優秀なギルマス・サブマスがいるからなぁ」

「その意味も含めてレイクさんなんですね」

「確か冒険者ギルドには、あの特記事項があっただろ?」


 ギルマスの顔は一瞬険しくなり、サブマスの顔に笑顔が張りついたまま強張る。

 それは上級冒険者ならば誰もが知っているソレで、下級冒険者には眉唾な噂だったものだ。


 狭義で言えば『殺人許可証マーダーライセンス』であり、広義で捉えれば『執行権』だった。

 オルツがレイクに与えようとしているのは『巡察官』の権限で、それを持つ意味は思ったよりも大きい。


 ただ単に冒険者を辞めるよりかは一度大きな都市の在り方や仕組みを勉強し、それを各ギルドへ還元して欲しいという内容だ。

 やる事は冒険者とは変わらないが、多くの特典がつく分旅がしやすくなる。


 独立性を保つ冒険者ギルドだが、特別に運営本部があるわけではない。

 ただ国を治めている者がいる以上、パトロンへの報告義務だけは行っておいた方が心象が良かった。


「オルツ。今言っている言葉の重みは……」

「心配なら、お目付け役をつけるかだな。レイクを中心とした冒険者として雇うか、情に頼って依頼するかは任せるよ」

「あのランクの冒険者なら、人を傷つけるのが怖いということはないだろうな」

「一方的に押し付ける形になっても?」


「私が心配しているのは、次代の冒険者たちの質の向上さ。もし魔王なんて生まれたら……」

「それでロギーさんを鍛えているのですね」

「どの冒険者がいつ覚醒するかは分からない。なら、少しでも生き延びられそうな奴を鍛えるべきだろう」


 そして強者を導く者の育成が急務になる。

 冒険者独自の情報網によれば、場所の差異はあれど天変地異・凶作・流行り病などの兆しが見え隠れしている。

 モデルケースとなっている医療に篤いこの地域でも、人的災害を仕掛けられたら一発でお陀仏だ。


 レイクの回復魔法については、覚醒の可能性もなくはないと思っている。

 聖女になるには性別で引っ掛かり、聖職者や宮廷魔法使いになるには出自で軽くねられてしまう。


 もし仮に強大な力を持った時、そこにはくさびを打つ必要が出てくる。

 その時が来た場合、『畑を耕してました』では目も当てられない。

 人には生まれた時から役割があり、その役割は成長と共に変わってくるからだ。


「後は本人のやる気次第だが……。一度会ってみない事にはな」

「いきなりギルマスが呼び出したら、警戒するでしょうね」

「それなら温泉都市での依頼を考えたらどうでしょうか?」


「湯治か……。レイクは、まだ若いだろ?」

「あそこは今それどころではない筈です」


「彼ならきっと解決してくれますよ」

「オルツ、その言葉に責任を持てよ!」

「分かりました、ギルマス。私からも助言を送っておきます」


 後日サチからレイクに、オルツとの慰労会の話が伝えられる。

 そこにはグレンダとロギーも呼ばれ、助けられた事の感謝の宴会が開かれる予定だ。

 残念ながらサチに参加資格はなかったが、特別に口止め料として出席することになる。


 ちなみにオルツもロギーも薬師の先生も、レイクへの報酬として別の形で貢献している。

 ロギーはあの時の毛布を買い取り、聖火院へ寄付をした。

 オルツと薬師の先生は聖火院への寄付を行ったが、オルツに関してはロギーの面倒を見て貰っていることが大きい。


 何はともあれ、レイクの人生を変える分岐点は、すぐそこまで迫っていた。

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