016:レイクである理由①【閑話】
冒険者ギルドでは数か月に一度、定例会議が行われる。
それはギルドが健全に運営されているかの『予算組み・執行・収支報告』から始まり、『冒険者への支援・死亡率』など場所により様々な事が話し合われていた。
同時に検討されるのが冒険者の昇格試験であり、条件を満たすだけで上がれる段階を超えた者が有資格者かどうかも検討されている。
「最後の議題は中途職員採用についてです」
「サブマス、それは今必要な人材なのか?」
「その辺については、フリーダ説明を!」
「はい」
長年冒険者として活動していたレイクは聖火院出身で、農村から出てきた一般の者より下地が整っていた。
それはハングリー精神であり知識を貪欲に吸収する他、読み書きと最低限の魔力操作を有していたからだ。
特に僅かなりとも魔法が使える冒険者は貴重で、小治癒・着火の魔法は無いよりはあったほうが良い。
冒険者としての経験値は高いが、体格的には恵まれなかったせいか戦闘力は並程度なのがネックだった。
高い依頼達成率と顧客への手厚いサポート。
特に聖火院出身者に多いこの行動も、レイクは頭一つ飛び出るほどの実力を有していた。
「確かに冒険者ギルドは慢性的な人手不足に陥っている」
「では!」
「サブマスはレイクを雇ったとして、どのようなポジションを考えているのか?」
「説明します」
冒険者ギルドの特徴として、冒険者は強者をリスペクトする。
その性質上、ギルドマスターは引退した高位冒険者が就くことが多かった。
社会的地位を持った者が就くこともあれば、高位冒険者として社会的地位がついてくることもある。
通常なら知識に乏しい『看板』のギルドマスターをサポートするのがサブマスターの仕事だった。
ところが、この地域の二人の関係性は少し違ってくる。
圧倒的なカリスマ性と知識を兼ね揃えたギルドマスターと、その意を汲み昇華させるサブマスターの存在だった。
独立性を保ったまま領主との関係も良好で、政治的・経済的にも多大な影響を与えている。
近場にあるダンジョン・薬師が育つ環境など、全てが順当に進んでいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ギルマス・サブマスの二人だけになった部屋にノックが聴こえてくる。
受付嬢フリーダに案内されたのは三人で、それぞれ部屋の前で待ち一人ずつ案内される。
「フリーダ。まず、その子の紹介を」
「当ギルドの見習いで、準職員のサチくんです。自己紹介をお願いします」
「聖火院所属のサチです。今日はレイク兄――レイクさんについて聞きたいことがあるとか?」
街のお手伝いから徐々に戦闘職にシフトするのが多い冒険者だが、サチのようにギルド専属で仕事を請け負う者は正直少ない。
ギルドにはギルドの給与体系があり、冒険者は税で優遇される分、中途半端なポジションでは得る物が少ない筈だった。
そんなサチが情報屋兼伝令役として活躍出来ているのは、ひとえに将来性を買われたからだ。
「君が知っている限り、レイクについて教えて欲しい」
「そうですねぇ……」
レイクを一言で現わすとするならば、『おひとよし』が似合うのかもしれない。
良い意味では身の丈を理解しており、悪い意味では損得勘定に疎い。
ただ一般的な金銭感覚は持っていて、冒険者を引退しても蓄えを残す事に成功している。
「冒険者として、得意不得意はあるのかな?」
「採取・解体・夜営は得意だった筈。後はぁ……、フリーダさん?」
「えぇ、小治癒・着火の魔法が使えます」
「となると、不安なのは戦闘面なのか?」
「え? それって、どこ情報?」
「どうなんだ? フリーダ」
「その辺は……。一番よく組んでいたグレンダさんに聞いた方が良いと思います」
サチは首を傾げながら、『ロギー兄ちゃんが、「未だに勝てない」って言ってたよなぁ』と一人呟く。
これは多分目的によって戦い方が変わるからだ。
皮が欲しいモンスターの討伐では、なるべく皮を傷つけたくはない。
悪くなりやすい内臓類は摘出・保存に注意が必要で、薬効を求める部位は物によって変わってくる。
冒険者ギルドの昇格条件には、モンスターの討伐・人型モンスターの討伐がある。
場合によっては賞金首狩りをすることもあり、当然それらを狩る戦闘力は必須となる。
つまり戦闘が苦手という評価は本人視点で、圧倒的強者を見過ぎたせいかもしれないという可能性もあった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サチと入れ替わるように、部屋に入って来たのはグレンダだった。
「グレンダはレイクがギルド職員になるにあたって、何か心配なことはあるかい?」
「いえ、何も……」
「まだ配属場所を伝えてないにもかかわらず?」
「はい、何も……」
冒険者ギルドに所属している冒険者は、大抵パーティーを組んでいる。
それは報酬の安定化や経費の削減にも繋がるからだ。
受けられる依頼も幅が広がり、特に狩り・護衛任務で実力を発揮する。
それでも独りを好む者は一定数おり、その一定数の中にはコミュニケーション不足を理由にする者もいた。
同じ地区で活動する冒険者は自然と、『誰が信用できて、誰と関わるべきではない』という判断をしていく。
その中でリーダー気質を発揮して、時々バディを組んでいたのがレイクだった。
「では、戦闘面ではどうです?」
「私のランクが高いせいか、いつもレイクに不当な評価ばかりくだる。ギルマスなら分かるでしょ?」
「えーっと、私にも分かるように説明して貰えませんか?」
「槍使いと短剣使いが敵と戦ったとして、安全に対峙するならどっちが敵の注意を引くか……だな」
「安全性なら槍使いですね」
「その時、短剣使いは安全な場所でサボっているのか?」
「あっ……」
戦闘の基本は、いかに安全に敵を倒すかに終始する。
敵をキレイに倒す必要はなく、そんな事を考えるのはよっぽど実力差がある場合に限られる。
もしそれを実行するならば、ピンポイントで急所を狙う必要がある。
例えば首筋を掻くとか、眼を刺すとか……。
大抵のモンスターは自分よりも大きく、対格差を考えれば人間は吹けば飛ぶような存在だ。
そんな相手に対して、心を奮い立たせ近距離戦をしかけるなんて勇気か蛮勇でしかない。
「本当は前線で一緒に活動したいけど、レイクの情熱は……」
「気力は失せてるのか?」
「今はまだ休養期間なだけ! 農家をさせるなんてもったいない」
「落ち着いて、グレンダさん」
グレンダはいつになく熱弁したせいか、感情の起伏に顔が急に真っ赤になる。
それからはボソボソという受け答えになり、間もなくグレンダは退場となった。




