表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジパング 風と海賊たちの唄  作者: 主道 学
9/23

 夕方に大広間でのミーティングの後で、俺は一人で廊下へととぼとぼ歩いた。手摺から望遠鏡を使って海賊船の集まりを見ていみる。

 

「一、二、三、四……五……六……わからん……」


 海賊船は数え切れないほど海に浮かんでいる……。

 十や二十よりも多い感じだった。

「台風よりも竜巻の方がいいんじゃ……」

 俺は考えた。

 あの海のど真ん中に竜巻……じゃなくて台風を発生させるには……?

 早くに何としてもクラスのみんなを助けるんだ!

 楠田先生はミーティングの後に、俺に子供の頃を思い出してごらんと言った。


 けれど、記憶力の悪い俺には……子供の頃を思い出すことは不可能に近かった。


「だー!! 思い出せん!!」


 小さい時は、障子に落書きをしまくって親から、ひどく怒られたくらいしか覚えてないなー。


「う、うー、うー、うー……う、うー、うー……う」

「なんだ? 風ノ助くん。モールス信号かい?」


 楠田先生がミーティングをやった大広間の帰りから通りかかった。

 

「あ、楠田先生? そんなんじゃないんだ! 今、必死に子供の頃を思い出してるんだ! 邪魔しないでくれ! 俺って記憶力が無いっていうか……悪いっていうか?!」

「そうか……モールス信号?! ……モールス信号……そうだ!!」

「う、う、うーん……あ、そうだ!」


 松の葉が舞う廊下で、俺と近くにいた楠田先生は同時に閃いた。

 行き交う家来が俺と楠田先生にも深くお辞儀をしている。


「海賊は多分、モールス信号を知らないはずだ!」

「へ……あ!」

「何故なら確か発明家サミュエル・フィンレイ・モールスがモールス信号を発明したのは1837年だ! 風ノ助くん! 頭の良い家来を数人連れて来てくれ! 大至急だ!」

「おう!」

 俺はそれを聞いて駆けだした。

 けれど、さっき何を閃いたかは、すっかり忘れてしまったー!


………


「いいかい? もう一回、言うよ。海賊の頭は多分、大勢いるんだ。カリブ海からどうにかして全て黄金の国ジパングに来たんだ。そこで、その海賊の頭たちだけを一人ずつ倒していくんだ。クラスのみんなはきっと本船にいるだろうし。勿論、最初に言った陽動作戦でね。最後に大海賊ベンジャミン・ホーニゴールドを退治してしまうんだけど。いいかい、そう簡単じゃないけど……全ての頭を失った海賊たちはちりぢりになって、これならいとも簡単にクラスのみんなを助けられるんだ」


 大広間での再びのミーティングだ。

 頭の良いと評判の家来と俺たちが集い。楠田先生の作戦を頭を捻って聞いていた。


「うん? 先生? それとモールス信号はどういう関係が??」

 俺の疑問に楠田先生は笑って答えてくれた。

「ああ、それは一度に全部の海賊の頭を倒すんだよ。だから、当然有効な連絡手段がいるんだ。モールス信号で船と船の間で、みんなで逐一情報を交換していけばいいと思ったんだ」


 楠田先生はチョークで金の襖に書いていた。


「こんな感じかな……」

「うえ?」

 俺は首を傾げた。先生……それはちょっと大胆過ぎやしませんか?

 楠田先生の作戦は、一人ずつ海賊の頭を倒していくんだけど……ほぼ同時になんだよな……。集団暗殺なんて聞いたことないや……。


 つまりは、みんなで船に夜に忍び込み。海賊の頭だけの寝首を掻いていくんだ。その作戦は……台風二号作戦と呼ぼう。最後に本船でみんなを……。


「今から、ここにいる全員にモールス信号を教えるから。しっかりと覚えてくれよ」

 楠田先生はチョークの粉をパタパタと手を叩いて落とした。


「台風に暗殺にモールス信号に……う、うーん」

 俺はこの大掛かりな作戦が大胆不敵過ぎて、緊張感がピークに達していた。周りの家来たちも極度に緊張して武者震いをするものもいた。だけど、煤野沢はいつもヘラっとしていてよくわからない顔だ。


 でも、やっと、まともなこの世界の飯にありつける。

 そう思うとただただ感激してたけど、今は楠田先生の作戦前のため。俺は松の木が突き出ている廊下で子供の頃を思い出していた。


「う、うー、うー。う、うー、うー、……うん?」

 

 そういえば、俺は記憶力は悪いが行動力はあったな。こう、動くことが大好きだった。確か、風と共に走ることが?!


 そうだ!!


 思い出したぞ!


 風と共に走れるんだ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ