時の行方
「うららららー!」
俺は本丸まで泳いでいた。
水泳も得意なんだな俺は……。
バシャバシャと海水を撥ねて泳いでいると、前方に立て続けに爆音と共に水柱がたった。
「大砲……?」
後方から大きな弾が無数に降って来る。
煤野沢と楠田先生。家来たちはすでに先を泳いでいるけど、俺はしんがりを務めていた。
「あ! そうだ!」
俺は後ろを向いて、刀を抜いた。
爆音の轟く大海原のど真ん中で陣取り。
次々と大砲の弾をはじいていった。
楠田先生の技を見よう見まねでしてみた。
記憶力は悪いが、これでいいはずだ。
多分……。
ガキ―ンという音と共に無数の巨大な弾を跳ね返していく。
でも、ちょっとキツイ!
腕が痺れてきた。
誤算だった!
なんせ大砲の弾が重い!
「風ノ助くん。無茶をするな!」
前方から楠田先生の声が聞こえた。
「大丈夫! 本丸までやってやらー!! みんなは早く本丸まで泳いでくれ!!」
「だから、無茶をするなって……」
楠田先生の呆れた声と同時に、ガコーンと大きな音がしたと思ったら、遥か後方の小型の海賊船で大砲が三つも火を噴いていた。大火事になったようで、幾つもの海賊船が大騒ぎだ。
前方から矢が物凄い勢いで海賊船へ放たれていた。
よく見ると、家来から譲ってもらったのだろう。
かなり大きな弓を楠田先生が引いていた。
矢は音速を超えるかのようなスピードと照準を的確に合わせたかのような命中率で大砲の筒の中へと吸い込まれるように入って行く。
大爆発の轟音が後方から俺たちに向かって、立て続けに鳴り響いていた。
「やったな! 風ノ助くん! 君のお蔭で助かったよ!」
楠田先生の笑顔に俺は即座に首を振った。
「いや、先生のお蔭で……」
「そうでもないよ。君が大砲の弾をはじいてくれていたお蔭で、こうして一矢報えたんんだよ。さあ、本丸まで泳ごう! みんなはきっと大丈夫!!」
「おう!」
俺たちは泳いで、なんとか無事に本丸までたどり着いた。
さあ、今こそ先生と煤野沢と家来たちで海賊対策を練る時だ。だが、その前に……。
「お昼ご飯だーー! 何よりこの世界のご飯は美味い!!」
死ぬほど腹が減っていた俺は厨房まで走ると……。
まだ準備中だった……。
広い厨房には湯気のたった鍋やら水場やらがあって、そこで女中たちがいそいそと昼餉の準備に取り掛かっていた。
仕方なく手頃な鍋に頭を突っ込もうとしていた俺に、女中の一人が怒りだした。
「政宗さま! 昼餉の準備はまだです!」
「もう少々お待ちになってくださいまし!」
「後少しの辛抱です!」
俺はがっくりして、向きを変え、楠田先生がミーティングをしていた大広間へ階段を登った。
途中、五郎八姫に会った。
「なあ、今は戦国時代なんだよな?」
「はい……ですから……」
「豊臣秀吉は慶長5年(1600年)には死んでいたから?」
「?」
空腹を紛らわすために独り言のようにいった。
そして、俺は考えた。
伊達政宗は、確か……文禄2年(1593年)に豊臣秀吉の文禄の役に従軍していた。けれども、豊臣政権の取次で文禄5年8月14日に絶縁状を渡したりして、北条氏と同盟して対立していたんだ。
「うん! クラスのみんなを助けるために今は海賊退治に専念してもいいよな! よし!」
「そういうことでしたら……」
五郎八姫は真顔で言った。
「ここ仙台へと突然現れた海賊と全力で戦いましょう。そう、徳川家康公からも……仰せつかっておりますゆえ」
「へ??」
「次の戦にでるときには、必ず鉄砲騎馬隊も出陣させて下さいまし」
五郎八姫はそつなく俺に言い渡すと、スタスタと去っていった。
「へ?? あ、任せろ!!」
俺は今になって、ここのお城の重要性と俺たちの役割の重さを知った。
クラスメイトを助けるのは、皆殺しにしてからでもいいか……。
あ、でも、海賊はどうやって来たんだ?!
まさか太平洋を船で横断してきたとか?!
「無理だ! どうしてもイメージできん!!」
俺は海賊船が太平洋を横断する様を想像してみようとしたが、頭の中で全然イメージできなかった。
「風ノ助くん。さっさとミーティングやるぞー」
上の階から楠田先生の声が降って来て、俺は階段を走った。