三つの時代
「う!」
だが、俺は途端に顔をしかめた。
せっかく俺の剣技を思う存分見せてやりたかったが、海賊の頭のサーベルが後方へと吹っ飛んでいた。
煤野沢だ。
たった一振りでサーベルをふっ飛ばしてしまうなんて。
奴は刀を振り回して笑ってやがる。
こいつもタダモンじゃない!
「マジモンの剣術っても簡単だなー」
「ガキー! 俺のサーベルを返しやがれー!」
今となっては後ろの地面に突き刺さったサーベル。
煤野沢はニコニコと刀の切っ先を海賊の頭の目の前に向けた。
「チャンバラごっこはおしまいだよ。さっさとダチを返してもらおう」
薄く笑っている煤野沢は、仲間? でもある俺でも怖かった。
「……ふっふっふ。小僧。覚えていろよ」
海賊の頭が震える声を発し、海に浮かぶ海賊船の方へと脱皮のごとくに駆け出していく。
「風ノ助。楠田先生がダチを助けるミーティングの続きをするってさ。俺、欠席な。天守閣ってところで寝ているから」
「……はーい」
…………
「はぁー」
かなり疲れたな。
俺は呼吸を整えた。
思えばここへ来てから走りっぱなしだったな。
同級生を助ける前に立夏ちゃんに会いに行こう。
楠田先生の強さはひょろひょろとした男よりも強かったみたいだ。今のところ海賊たちは海賊船へ逃げている最中だろう。本丸も無事。家来たちがいるし。
あ、でも。楠田先生の長刀はなんだかおじいちゃんがよく使う長刀と似ているな。
そんなこんなで俺は再び大広間に着いた。
さらわれたみんなは大丈夫だろうか?
煤野沢を除いて、俺たちは全員揃った。
「さあ、ミーティングやるぞー」
楠田先生は海賊のことなんて忘れているかのような口ぶりだ。一呼吸置いて先生は言った。
「この時代の胸騒ぎの原因がわかったかも知れない……」
「え……?」
「三つの時代が混ざっているんだ……」
「ええ……?」
俺たちは耳を疑った。
そういえば立夏ちゃんも豊子ちゃんもこの世界に胸騒ぎを覚えているのかな? それに、楠田先生はいつ頃そんなことがわかったんだ?
「まず海賊の最盛期は1660年から1730年頃で……」
楠田先生はポケットから取り出したチョークで、一番高そうな金の松を模した襖に書いていった。
「海賊は、海賊のいるカリブ海に植民地を持っていた西ヨーロッパや北アメリカと戦って消えていったとされているんだね」
カリカリ、カリカリ。
楠田先生は授業を始めた。
「ふむふむ……」
「そして、今の時代が1661年だ。つまり、現代と1661年と伊達政宗の生きていた時代とが……」
カリカリ。
「うん?」
「先生! どうして今が1661年だとわかるんですか?」
豊子ちゃんが挙手した。
大広間の外は、急に真っ暗になって大雨が降り出した。
「昨日、風ノ助くんの家来から大きな火事のことを聞いたんだ……。それは1661年2月19日に起きた。大小名屋敷70軒、町家42町、787軒を焼いた。万治4年の大火だ」
楠田先生が険しい表情で話しながら、襖でチョークで書いていく。
外の雨風が激しくなった。
ビュウビュウと鳴る風に松の枝が激しく踊っている。
俺はなんでこんなところにいるんだろう。
今まで学校生活は楽しかったのに……。
「先生……眠いです」
立夏ちゃんが緊張感皆無なことを言った。
「ああ。そういえば、もう深夜の3時頃だね。仕方ないかな。明日、攫われたみんなを助けようよ」