食い違いだらけの教科書 その2
「そんなに嫌がんなよなあ。俺は気が向いたことしかしないんだぜ。気が向かないことはスルーするだけだぜ。俺は今は寝ているから、後よろしくな。何かあったら起こしてくれよ」
煤野沢は確か情に弱いっていわれているんだ。
案外いい奴なのかも知れないが、俺の中では危ない奴の中でダントツ一位だ。大広間へ戻る奴の後ろ姿は、よれよれの学ランのせいで何故か疲れているように見えた。
「風ノ助くん。お城の裏の蔵が壊れたって。今燃えているそうよ」
今度は立夏ちゃんが廊下へ歩いて来た。
良かった立夏ちゃんは無事だ。
いつ見ても可愛いんだけど呑気な人なんだな。
さらわれたクラスのみんなのためにも!
もうやるしかない。いざ参る!
俺は家来を連れ回し、城の外へ飛び出した。
「おお! 俺と同じ片目の伊達男か!」
「それは気が合うな! デブ! さらわれたクラスのみんなを返してもらうぜ!!」
何故か日本語をしゃべる海賊の頭らしい男が浜辺まで攻めてきていた。
「でや!」
カキ―ン!
という刀とサーベルの音がした。
「とうっ!」
袈裟斬りで、海賊の頭の派手な帽子と左肩を斬ると、派手に白色の血がでた海賊の頭は笑い出した。
「血が! し……白い?」
「ガハハハハ! 小僧、気に入ったぞ!」
俺は首をかしげるが、刀身全体を背の方へ回り込ませた。
おじいちゃんゆずりの特殊な居合いの型だった。
「む……? お待ち下さい船長! おい、独眼の男! それなら私がお相手してやる!」
「待て、お前副官のくせして俺を下がらせるのか……?」
ひょろひょろとした優男がでてきた。だが、氷のように冷たい顔の副官と呼ばれた男は、海賊の頭を強引に脇にどかし、サーベルを抜いて前に出た。後続の野郎どもが、何やら震えながらひそひそと話し出した。
「いいぜー! それなら! こっちも本気だぞー……ハッ! てっ! ええっ??」
俺の居合いの一太刀を寸でのところで躱ししてしまった。そんな奴がいるなんて……。
と、いきなり副官と俺との間に、スッと刀身が入った。
「待った! 風ノ助くん!」
楠田先生が割って入った。
「ここは私に任せて」
楠田先生は長刀を構えた。 あのデブの海賊の頭よりも強い?!
楠田先生の零した汗は、冷や汗だろうか? 俺は刀を振り回した。
俺は殺気立って抜刀している家来のものに首を向け、「後ろを向いて、撤退していろ! 俺は大丈夫だ!」
と、叫んだ。俺自身は本気をだせばもっと強い方だ。
けれども、この時代の……胸騒ぎは……海賊のせいなんかじゃない!
もっと、根本的な天地がひっくり返るかのような……?
さらわれたクラスのみんなは大丈夫だろうか?
「むむむ、野郎どもー!! お宝の方が先じゃー!! ガキは放っておいていい! お宝は目の前じゃー!!」
海賊の頭は、野郎どもを連れ本丸(お城)へと走り出した!
「待てー! 待て待て待てー!」
それを俺と家来が追いかけ回す。
追いついた俺は、野郎どもの一人の腰の辺りをを刀の切っ先を横にして、横薙ぎではなくて横に押し当て刀身をスッと引いた。
多量の白い血液が辺りへ飛び散る。
続いて、追いかけ回しながら、野郎どもの頭を勢い良くジャンプして刀で叩き割っていく。
超強力な兜割りだ。
これが、おじいちゃんから直伝の剣術だ。
俺のおじいちゃんは剣術の師範をしている。
我が家では剣術を家族一丸となって学ぶ習慣があるんだ。
「このやろー! こいつでたらめに強えーーぞ! こうなりゃ、お頭! 出番ですぜ! お願いしやす!」
野郎どもの叫びに海賊の頭が本丸からこっちへ向きを変えて走って来た。
「ぐわははは! わかったわ! その首。今度は必ず取ったぞー!! 野郎ども! あの城を襲撃していろ!」
キーンッ!
刀とサーベルがぶつかり合う。
俺の刀と海賊の頭のサーベルから火花が飛び散った。
つ……強い?!
「だけど、負けるものかー!! クラスのみんなを返せーーー!!」
こうなりゃ絶対、本気を出してやる!!
俺は剣を真っ正面に構えて目を瞑った。そして、体中の力を抜いて呼吸を整えた。辺りの音が鼓膜にリズムとなって入って来る。
さあ、いくぞ!!