食い違いだらけの教科書
あれ?
俺……?
昨日の夜は、日課のゲームセンターに行ったんだよな?
いつものことだった。
学校帰りに俺の家から二軒隣にある古風なゲームセンターに行ったはずだ。
昨日は確か熱中していて……?
「風ノ助くん!」
え? あれ? 内山 豊子ちゃん?
クラスで二番目の人気を誇る女子だ。
普通の紺のブレザーを着ている。
「どうなってるんだ?!」
「いや、それはこっちが聞きたいわ……」
「風ノ助くん。内山くん。さあ、こっちで早めにミーティングやるぞー」
楠田先生は俺たちを大広間に案内してくれた。
廊下をスタスタと歩く楠田先生の後ろ姿を見ていると、なんだか先生は何でも知っている風だった。
俺は何故か豊子ちゃんの髪型を見つめた。
いつものセミロングだけど……どこかおかしいと思ったら、お姫様みたいなかんざしがついているぞ?!
軽い眩暈を覚えて、大広間に入るとそこには真ん中にポツンと座っている女の子がいた。
学園で一番の人気を誇る秋華 立夏ちゃんじゃないか?!
嬉しい! 嬉しい! もう死んでもいいくらいに! ……隣にいる男さえいなければだが……。
立夏ちゃんの隣には、奴がいた。
クラス一の問題児。
そして学園一の不良だ。
隣の学校で不良同士の喧嘩で相手の顎を超パンチで砕いてしまったとか、焼きそばパンを神速で盗んで屋上でタバコを吹かしながら食べていたりとか、悪行三昧だ。
でも、確か情にはとても弱いと言われているんだ。
俺はクラスでも目も合わせたこともないけど、不良なのは学園ではみんな知っているんだ。
あれ?
名前? なんていったっけ?
確か……うーん……。
そうだ! 煤野沢だ!
俺はそそくさと目を逸らした。
「おいおい。風ノ助くん。君が持っていた教科書のお蔭で今週の予定だった修学旅行がタイムスリップになってしまったんだぞ。こっちの方が旅行よりも危険だけど、クラスのみんなを助けないといけない」
楠田先生は古い教科書をみんなの前で開いて、大きな声でミーティングを始めた。
「風ノ助くんは、もちろん知ってるだろうけど、この教科書には間違いだらけの歴史が書かれているんだ。1567年に生まれた伊達政宗は、確か死去したのは寛永13年(1636年)なんだ……だけど、君たちは知っているだろうか?
今は1661年なんだ……」
「だー!! 何も思い出せん!! あ! 先生! これが異世界転生ってやつですか?! さらわれたクラスのみんなって?!」
俺は混乱した頭で挙手していた。
「こほん! この時代は何か変なんだ」
スルーされた……でも確かに、俺も胸騒ぎがするぜ。
なんていうか、違う歴史にいて、それが命そのものに危険な気がするんだ。さらわれたクラスのみんなを早く助けなきゃ!!
「政宗さまー! ミーチング? よりも、海よりきゃつらが来ましたぞー!」
「政宗さまー!」
「撃ってきましたー!」
廊下から重臣たちの声。
やっぱ、俺が伊達政宗かー!!
「ハハッ。さあ、行っておいで。風ノ助くん……いや、伊達政宗」
楠田先生……からのファイト。……でもなんか正直、心強いや。
先生は若い頃から剣術で全国大会優勝者なんだよな。
俺も先生の試合を見たが、まさに神。
それも一方的で相手が逃げ出したくなるほど強いんだ。
でも、クラスのみんなって一体?
ここはお城なのかな?
まあ、俺が伊達政宗なら戦国武将だし、当然お城だろう。
それにしても、裏の方でドンドン大きな音がしまくってうるさいんだけど?
「また撃ってきたぞー!」
「怯むなー! かかれー!」
海から何かが飛んできているようだ。
お城が蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。その原因を突き止めるため、俺は松の木が生い茂る廊下から外を覗いた。
「……? 海賊?」
見ると、海賊船だとわかるドクロマークの旗を立てた大型船が、何隻も海に浮かんでいた。
「野郎どもー!! 殺せ! 奪えー!!」
「アイアイサー!」
「どうやら、海賊がいるみたいだな。ウゼ~時代劇を観ているみたいだぜ。かったるい時代にタイムスリップってやつか……ダチがさらわれたって言ってるけれども……」
後ろから煤野沢が歩いてくる。
金髪に近い茶髪のとんがり頭だ。
耳と口にピアスがついている。
俺は極力目を合わせないようにして、「そうッスね」と小さく相槌を打った。