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5.

「明後日の早朝に此処を発ちますが、明日はご挨拶など行かれますか?」


この世界の悪役令嬢に入り込み、結婚した相手に早々にバラした日から、何故かお互いが寝る前に短時間ながらも話をするようになっていた。


さて、なんだっけ。あぁ、両親や友達に別れの挨拶か。


「行かないと答えた場合は?」


トンッと軽く肩を押されただけで、アイリスの身体は、簡単にベッドに沈んだ。


「まだ、お預けの状態ですので。明日の予定がないのなら」


古臭い言い方をすれば、私とローリエさんは、同じベッドで寝てはいるけれど未だに清い関係である。


「それなら挨拶に行ったほうが良さそう」

「つれないですね」


いつの間にか右手の指の間に彼の指がスルリと入り込んでいる。


「最近、少し自信をなくしていまして」


この顔面偏差値の高さで何をのたまっているのだろうか。しかも顔だけではなく身体能力は勿論、頭脳も良いだろうに。


「贅沢な悩みですね」


アイリスだから見目や家柄も良いけど、本来の菖蒲なんて。


「んっ」


緩く組まれていた彼の指がゆるゆると動きだしたので、油断してた私は、変な声を出してしまった。


「原因は貴方なんですけど」


私のせい?


「嫌われてはないだけマシなんでしょうが、ソレだけでは物足りなくなってきたんですよね」


あぁ、なるほど。


「欲求不満なんですね」


ボスッ


私の真横に顔が落ちてきた。しかも、唸っている?


大丈夫か?


「貴方は、不意に大胆な言動をする」


悩ましいというように艶っぽいため息を耳元でつくのはわざとかな。


「結婚したから良いんだろうけど」

「けどなんですか?」

「私の身体というには違和感があり過ぎて。きっと、アイリスって初めてですよね? だったら適当な私の判断で進めてよいのかなとか」


なんて言えばよいか。伝えるのが難しい。あぁ、せめて同じ世界で時間が戻って人生やり直しとかがよかった。


「ならば、少しは、そういう見方の対象になっている?」

「異性としてという意味なら、勿論」


本当かなと呟きながら至近距離で見つめてこないで。


まぁ、菖蒲の顔じゃなくてアイリスだからなのか、美形に耐えられるけど、本来の私は、アイリスのように綺麗な顔ではないし、とにかく地味なのよ。


「すみませんが、近いし重いです」

「失礼」


やっと離れてくれて、ほっとした。彼が話す度に耳に息までかかるのは、正直、落ち着かなくて。


「遅くなりましたね。寝ましょうか」

「はい」


今日も平和に終われ…。


「あの」


右手には、まだ彼の指が絡まっている。不便だから離して欲しい。


「今日は、コレで我慢しますから」


勿論、いいですよね?


いい笑顔に負けた私は、渋々右手を貸し出した。




〜 ローリエ Side 〜



「よく、そんな無防備に寝ていられるな」


此方が呆れるほど寝入ってしまうと起きないアイリス、いやアヤメという名の妻は警戒心がない。


 唇に入っている髪の毛を外してやれば、指が頬を掠めたのか、彼女の眉間に皺が寄った。髪が短くなったアイリスは、更に幼く見え、昔、ダリアの後を付いて回っていた時を思い出させた。


「あの頃が、一番幸せだったのかもしれないな」


ローリエは、表情や仕草、話し方まで変わってしまったアイリスだが、彼女ではない女性に惹かれ始めている自分に気づき、困惑していた。


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