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バスローブのような物を羽織った色気駄々漏れの男、かたやスケスケ衣装を隠した美女が無言で見つめ合い5分は経過しただろうか。
「座りませんか? あと、可能なら私の話を聞いてくれると有り難いです」
本の通りならば、侯爵家の次女、アイリス・エイフールは姉である長女の婚約者だった目の前の男、辺境伯のローリエ・ジュライドを姉から奪った。
しかも、その理由は昔から気に入らない姉の大切な人だから。
いくら何でも幼稚過ぎる。
その他にも学生生活では同級生だというのに見た目や態度が気に入らないからと場所取りをさせたり、やりたくないからって当番を押し付けて。
「最低じゃないの」
既に詰んでいるというやつじゃない。
「私も伺いたいですね」
座っていたベッドの左側が、彼が座った事により傾いた。
「私は」
「貴方は」
言葉が被り、再び沈黙になってしまった。こんな状態では、すぐに夜明けになってしまいそう。
「私から話しますね。私は、外見はアイリスさんですが、違います。この国でも、この世界でもない場所で生まれ、生活していました」
頭がおかしくなったとか気まぐれな遊びかと思うだろうか。普通ならブチ切れるよね。
怒鳴られるのは耐えれるかもしれないけど、暴力は嫌だな。
「続けて下さい」
チラリと少し距離をおいて座る隣の様子を見れば、彼も私を見ていた。その促す言い方や目には苛立ちは意外にも見られない。
「私は、結婚式にこの身体に入り込んだようです。ただ、本によくあるような交通事故にも遭ってないし、仕事も過労死するほど激務じゃなかった」
日常の中で、小さな不満はあったかもしれないけれど、友達と遊んだり、家族と日帰り温泉に行ったりしていたし、消えちゃいたい程の思いはなかったはずで。
「え?」
いきなり、顔に白いものが来たとおもったらゴシゴシとこすられて。
「コレしかないので」
どうやら、彼の袖口で拭かれたらしいって。
「あ、あれ?」
私は、泣いていた。しかもボロボロと涙が落ちているくらいに。
「す、すみません」
泣いているって自覚したら、もっと涙が溢れてきてしまった。
そう、私は今になって気づいたのだ。
「私は、戻れない? 皆に会えないのかな」
さっきまで冷静だった。なのに何故、こんなに混乱してるの?
「ふべっ」
いきなり硬いモノに覆われ、びっくりしてもがいても動けない。
「え、ちょ」
すぐにローリエさんに抱きしめられたんだと気がついたけど、疑問が増すばかりだ。
貴方は、婚約者の妹の私に邪魔されてお姉さんと結婚出来なかったんでしょ? おかしいよね、この状況は。
「昔、こうすると泣き止んだんですけどね。貴方は、やはり彼女ではない」
そんなキッパリ言い切って大丈夫?
「何故、すぐに信じたかと言いたそうですね」
「はい」
秒で返事をした。いや知りたいよ。でも、ずっと抱きしめられながら話せないから離して欲しくて身体を動かすも、やはり動かない。
「その顔ですよ」
笑いを含んだ言い方に、つい苛立ち上を見上げたら、思っていたより顔が近くて。
「顔が真っ赤な所。アイリスなら嬉々としてしがみついてくるはずだから」
そんな理由で信じちゃうの?!
というか私って……なんか馬鹿にされてる?
「話の区切りが良いのでとりあえず続きは終わってからにしますか」
「え?」
何をと言う前に、身体がベッドに沈んだ。