17.
「貴方は全く!」
「イダダッ!」
「半日目を離した隙に何をしているんですか!」
「痛いってば!」
両サイドのこめかみにあるローリエさんの拳がグリグリと一層強さを増していき地味に痛い!
それに抗議をするも離してくれない。なんでよ?!
あぁ、顔が固定されて向きを変えられないのに背後にいるメイドさんや騎士さん達のグサグサと突き刺さる視線が辛い。
そもそも、ちょっと部屋から出なかっただけじゃない!
そりゃあ、講義をサボったのは悪いと思ってる。でも、引きこもる前にメイドさんに授業をちょっとの間だけ休むって伝えたからサボリじゃないもの。
「本当に、鈍いと言うか」
なんですって?
「周囲を見て分からないんですか?」
「誰かさんに固定されて見えないんですー!」
やっと自由になった頭を擦れば、いきなり目の前で膝をついた彼に両腕を掴まれた。
「もっと自分を大事にして下さい」
大事って何?
「してますよ!だからへこんでいたのよ!」
極寒の塔の中に閉じ込められての最後も嫌だし、消えてしまうのも嫌。
『ふふっ』
鏡に映った私なのに私じゃない人の弾けるような笑顔と笑い声。
「アイリ…アヤメ」
生きる為の選択肢より、それを選んでしまったら帰れないという絶望感のが強い。
「いったい、カトレアに何を言われた? 直ぐ彼女に手紙を出したが返事を寄越さない」
これは、目の前の人には関係ない事だ。
いえ、本当にそうなのだろうか。今のアイリスは、ローリエさんの妻だ。
「私の問題だけど、でも、そうでもなくて」
死にたくないっていう事しか考えてなかった。違う、考えようとしなかった。
「アヤメ」
「貴方は、二度とアイリスに会えなくても平気?」
「……どういう意味ですか?」
「どうもこうもないわよ」
珍しく彼が私を見上げている。その目は、動揺しているの?
「ケホッ」
急に息苦しくなり、とっさに顔を背け手で口を抑えた。
この味、つい最近もあったわね。
「っ、ゲホッ」
カトレアさんよ、貴方が言った日数って違ってない?
「アヤメ!」
足に踏ん張りがきかず傾くなか、私は愚痴った。
「おね兄さんのどアホー」
旦那さんと一夜を明かすのも、お花摘みも口から血を吐きながらやれって言うわけ?
ナメてんのか?




