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「危ない」
「つっ」
痛いくらいに腕を掴まれた。
「大丈夫ですか?」
耳に低く囁く声は、聞いたことがない人のものだ。
それに、目の前には白いカーテンのようなものがぶら下がっている。いや、これってベールのレース?
「アイリス」
私は、菖蒲よ。あ、待って。アイリスって最近、読んだラノベに出てきた名前だ。確か強引に婚姻を迫った相手の名は。
「ローリエ」
「あぁ、誓うと復唱すれば終わりです」
副賞?
私、何にも応募なんてしてないけど。
「誓います…? 痛っ」
シルエットしか見えない相手から未だかつてないほどの圧を感じて、つい言ってしまった瞬間、額にチクリとした痛みを感じて、触れようとした手に光る物に目がいった。
私のガサツいた手とは違うほっそりとした指。その薬指には真新しい銀色の指輪が納まっている。
「どういう事?」
私の困惑をよそに真っ白だった世界が突然終わりを告げた。
「目を見開いたままが好みですか?」
「えっ」
いきなり眩しくなり、拍手が鳴り響く中、私は、怖そうなイケメンにキスをされた。
✻〜✻〜✻
「では、失礼致します」
「……ありがとう」
今は、深夜。お風呂のお世話をしてくれた若い女の人が退出を告げ退出した現在、私はやっと一人きりになれた。
「なんなのこの状況は」
私が、何故かアイリスという若い女の子の中に入り込んだのは、彼女の結婚式の最中だったようだ。
「しかも、この格好はどうみてもアレよね」
ガウンのような長い上着を羽織っているものの、その下はもはやパジャマの意味をなさない、スケスケな格好なのである。
コンコンコンッ
力強いノックは、今さっき出ていった女の子ではなさそう。
「あっ」
しびれを切らしたのか、入りますという声とともに現れたのは、昼間にキスをされたイケメンだった。