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4.疑われてますか!?

 今日ものどかで、良い天気。

 私はお客さんが来るのを待ちながら、いつも通り窓辺で本を読んでいた。


 本は夜中に集中して読むのも良いけど、日中にゆるゆる読むのも良いものだ。


 そんな中、ふと机の上に目をやると、ミミ君が優雅に昼寝をしている。

 ちょうど陽が当たる場所で、とても暖かそうだ。



「は~。

 お客さん、来ないかなー」


 起きてるならちょっとお喋りしたいな、くらいのつもりで声を掛けてみる。

 するとミミ君は身体をピクッとさせてから、そのまま身体を起こしてくれた。


「……最初の男の子が来てから、立て続けに来てるからね。

 案外、またすぐに来るんじゃないかな?」


「そうだと良いねー。

 お布団とかを作ったときはほぼ徹夜だったけど、他のはすぐ作れちゃったし……。

 1日1人とは言わず、何人も来ると良いんだけど~」


「普通なら全部、それなりに時間が掛かるものだったんだけどね……」


「ふふふ、そこは日頃の成果だよ!」



 ……実際、錬金術で使用する素材は多岐に渡る。


 例えば、簡単な薬は薬草からそのまま作ることが出来る。


 しかしもっと難しい薬の場合は、錬金術で作った薬を、さらに素材として使用する場合もある。

 その回数は1回とは限らず、ものによっては何回も、その工程が繰り返されるのだ。


 そこで私は、出来る限りの範囲で毎日いろいろなものを調合することにしている。

 だから想定外の依頼が降って湧いたとしても、結構な範囲で対応することが出来る……というわけだ。



 迅速、且つ、高品質。

 そして『錬金術は、みんなの幸せの為にある』という言葉――


 ……以上の3つが、私の錬金術に対するモットーだ。

 ここはどうしても、譲れないところかな。



「僕としては、もっとちゃんと休んで欲しいんだけどね」


「えー? 確かに睡眠時間は短い方だけど……。

 でも、ストレス解消だってちゃんとしてるよ?」


「それって、僕と遊んでる時間のこと?

 そんな時間、短いでしょ」


「いやいや。

 ちゃんと本を読んだり、調合したり、楽しんでるから!」


「それって、ただの仕事中毒じゃん」


「いやいや!

 錬金術ほど楽しいことなんて、この世界には無いからね!?」


「……ねぇ、アリス。

 僕から依頼を出しても良い?」


「え、ミミ君から?

 どうぞどうぞ、どーんと来い!

 何が欲しいの?」


「『仕事中毒を治す薬』」


「却下します!!」



 ……却下します!!




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――……とか言ってたら、待望のお客さん、だね」


 不意に、ミミ君が扉を見ながらそう言った。


「本当?

 それじゃ、ささっと片付けて……っと」


 私が大急ぎで机の上を片付けたところで、入口の扉が静かに開いた。



「こんにちは。今、良いですか?」


 申し訳なさそうに尋ねてきたのは、私と同年代くらいの女の子。

 そしてその格好は、私も馴染みがあるものだった。


「いらっしゃいませ!

 えぇっと、あなたも錬金術師……ですか?」


「はい、錬金術師のシャロンと申します。

 あなたは……店長のアリスさん、で良いですか?」


 おお、私の名前を知っているなんて!


 ……ああ、いや。このお店の名前を見れば分かるか。

 『錬金工房アリス』、だからね。


「はい、私がアリスです!

 今回はどういったご用件でしょう」



 錬金術師が錬金術師に何か依頼をするときは、ざっくり分けて以下の3パターンだ。


 ひとつめは、自分が作れないものが欲しいとき。

 ふたつめは、自分で作れるものの、その時間を割けないとき。

 みっつめは、自分で作れるものの、許容できないリスクが伴うとき。


 ……今回は恐らく、ひとつめになるのかな?

 しかし彼女の答えは、私の想像とはまるで違って――



「本日は錬金術師ギルドから委託されて、こちらに参りました」


「へ?」


 ちなみに私は、この街の錬金術師ギルドにも所属していない。

 以前の街での販売免許の失効を受けて、何もメリットが無いと判断して、関わらないことに決めたのだ。

 ……結局は、一括買取のシステムから逃れられないわけだからね。


 だから今は清々して、ひとりで頑張り始めたところだったのに……向こうから来ちゃった。



「先日、貴族の夫人が襲われる事件が起こったんです。

 その犯人が、こちらのお店に騙された……と主張しておりまして」


「はぁ……」


 貴族の夫人が襲われた?

 はてさて、何のことやら……。


「こちらのお客様の中に、ディデールという男性がいませんでしたか?

 29歳の、細身の方なんですが」


 ……うちのお客さん、とは言っても、まだ3人しかいない。

 しかし残念ながら、ディデールさんは先日えっちな薬を買っていった人だ。


 はぁ……、やっちゃいましたか。



「そのお客さんは、夜のお薬を買っていった方ですね」


「……夜のお薬?」


 シャロンさんは私の言葉をそのまま復唱し、直後に気まずそうな空気を出した。

 顔も若干、赤らめている気がする。



「詳細は知りません。錬金術師は、プライベートのところまでは踏み込みませんので。

 その辺りは、特に問題ないと思いますが」


 錬金術で作られるものの中には、使い方次第では危険なものが多く存在する。

 但し、明確な悪意を持たない以上、現在は取り締まるルールが割と曖昧になってしまっているのだ。


「まぁ、そこはそうですね。

 ただその犯人、『騙されて幻覚剤を売られた』と言い張っておりまして……」


「性質的に、お売りしたものはそういったお薬に近いですからね。

 ちなみに即効性があるお薬だったのですが、何で貴族の夫人の前で使ったのでしょうか」


 私は逆に、最も気になるポイントを聞き返した。


 実際、それが本当に幻覚剤だったとしたら、何故そんなところで使ったのか……という話になる。

 それは誰しもが、不審に思うところだろう。



「確かにそこは、警備隊でも錬金術師ギルドでも言われていまして……。

 ――ちょっと失礼」


 そう言うと、シャロンさんは突然、私に顔を近付けてきた。

 そしてそのまま、私の目をじっと見つめてくる。



「……えぇっと?」


「ふむ……。

 嘘は、ついていないですね」


 シャロンさんはそう言うと、身体を引いて元の姿勢に戻った。


「はぁ……。

 よく分かりませんが、私は無罪放免……ということで良いですか?」


 ……まぁ、特に犯罪をしたつもりはないんだけど。


「そうですね、何も問題は無かったと報告しておきます。

 このたびは調査のご協力、ありがとうございました」


「いえいえ、大丈夫です!」



 よし、これで終わった――


「……ところで、アリスさん」


 と、思ったら続けられてしまった。


「は、はい?」


「お話を聞く限り、とても優秀な錬金術師とお見受けいたします。

 錬金術師ギルドに興味はありませんか?」


「ありません」


 私は素直に、すっぱりきっぱり即答した。


「そ、そうですか?

 確かに所属しない錬金術師もいますが、入っておけば何かと便宜が――」


「デメリットもあるので、結構です。

 私、以前の街で販売免許を止められたので」


「……は?」


 シャロンさんの間抜けな返事に、私は昔あったことを話す流れになってしまった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――……と、いうことがありまして」


「それは、酷いなぁ……」


 シャロンさんの零した言葉に、私はきゅんとしてしまった。

 仕事を忠実にこなしている中で、ふと素の部分が見えてしまった……っていうのかな。


「本当に酷いですよね。

 だから私は、絶対にギルドには入りません。

 それに……大変ですけど、独立してお店をやるのも面白いですよ!」


 ……まぁ、赤字続きだけどね。

 先日のえっちな薬で、利益がようやく出たところだし。


「はぁ、残念……。

 それでは無駄な勧誘は止めておきます。

 ……でも、あたしとは友達になってくれますか?」


「え? 何で急に?」


 ちなみに私、この街には今のところ友達はいない。

 ミミ君がいてくれるから、寂しいということは全然ないんだけどね。


「それはその、アリスさんからは才能を感じますし……。

 あと、可愛いし」


「え?

 いやいや……。

 はやはや……」


 言われ慣れないことをまっすぐに言われて、私はあたふたしてしまう。

 ついでに何だか、言葉もおかしくなって出てきてしまった。


「ぷっ。

 アリスさん、可愛い~!!」


「はわっ!?」


 私の無様なところを見ると、シャロンさんは突然ハグをしてきた。

 きょ、距離の詰め方ぁあああ~……。



「――というわけで、今日からお友達ということで!

 あなたのことは、アリスって呼んで良い?

 あたしのことはシャロンでも、シャロでも大丈夫よ!」


「えぇっと……。

 それじゃ、シャロちゃん? ……で」


「おっけー。

 それじゃよろしくね、アリス♪」


「はわー……!?」



 ……こうして勢いのまま、私にお友達が出来てしまったのだった。


 でもこの子……シャロちゃん。

 何だか引き込まれるような、そんな魅力があるんだよね……。


 ……う~ん、何だろう?

 それにちょっと、懐かしさも感じてしまうんだけど――




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




「――……はぁ、遅くなっちゃった」


 あたしは空を見上げて、ついつい零してしまう。

 さすがに少し、話し込みすぎてしまったようだ。


 最初は仕事で仕方なくアリスを訪ねたんだけど、この依頼を受けて本当に良かった。


 彼女は何だか放っておけない魅力というか、どこか懐かしいと言うか……。

 だから今までにないくらい、私は積極的にアプローチをして、友達になってもらった。


 ……多分、失礼なところもあっただろう。

 そこは素直に、深く反省しよう。


 でもギルドにべったりのあたしとしては、いろいろ考えさせられることが多かった。

 確かに実力があれば、ギルドから独立する……という選択肢も良いかもしれない。


 アリスは同年代だと思っていたが、話を聞いてみればまさに同い年だった。

 そんな子が、組織にも所属せず、自分の力だけで頑張っている……。


 それだけでもう眩しくて、あたしの中では尊敬や憧れの対象になってしまったのだ。



「ふふふ♪

 お土産までもらっちゃったし……」


 あたしの首には、もらったばかりのネックレスが掛けられていた。

 これはアリスのお手製で、金属加工の途中で出た端材から作ったもの……なのだという。


 鎖の部分は市販品だが、飾りの部分は間違いなく錬金術で作られたもの。

 金色の輝きの中に、キラキラと夜空のようなものが透けて見える。



 ……これ、どうやって作るんだろう。



 あたしが知らないだけなのか、アリスが持つ、彼女独自の技術なのか。


 そのお礼であたしからあげたものなんて、その辺で自分用に買っていた、ただの髪留めだ。

 でも、そんなものでも……、アリスは嬉しそうにしてくれたんだよね。


 正直、あたしが男だったら惚れてるぞ……。

 ……そうだ。アリスのことは、あたしが守ってあげないと!!



 あたしの口は、思わず緩んでしまった。


 あの子は幸いにして、あたしが探している錬金術師ではなかった。

 両目とも、凄く綺麗な薄紫色の瞳だった。


 だから、これからもずっと仲良くできる――



「……よし、あたしも頑張ろ!」



 足を速めて、家路を急ぐ。

 アリスに触発されたのか、今は錬金術のことが何かしたい。

 何でも良いから、何かしたい。


 これからは、もっと一生懸命、勉強をしよう。

 そして勉強の合間には、アリスにたくさん会いに行こう。



 ……遊びに行きすぎても、きっと許してくれるよね?

 だって、あたしとアリスは友達なんだから……!!

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