表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厄災のソルジャック  作者: サムライドラゴン
1/1

この地に蔓延る運び屋


 銀河系のどこかに存在する惑星"ザウール"。

 そして、ザウールに存在する国"エキド"。


 エキドは今、深刻な問題を抱えていた。

 恐るべき病気「バイド」の蔓延(まんえん)である。


 バイドに感染した者は皮膚に火傷のような(あと)がつき、身体が思うように動けなくなってしまう。

 最悪の場合は、死に至ってしまう。


 バイドが現れてから数十年が経ち、ついにバイドを治すことができるワクチンが完成した。

 しかしこのワクチンを大量に入手し、金儲けを企む者たちも現れた。



 この物語は、そんな惑星を舞台としたお話である。






 エキド南西部のとある荒野。

 地形はやや荒れていて、砂埃が舞っている。


 そこに一台の装甲車と、球体型の機械がいた。


 装甲車は不安定な地形を荒っぽく走っており、球体は地形を破壊して進んでいる。


「待ちやがれ、ネズミ共!!」


 球体からガラガラの声が響く。

 中に人がおり、操縦をしているようだ。


「待てと言われて待つかよ! まあ、言わなくても待つつもりはねえがな!!」


 今度は装甲車の方から中年男性の声が響く。

 会話から察するに、装甲車が球体に追われているのである。



 装甲車の中には四人の人間がいる。

 中年男性が一人。

 若い男が二人。

 若い女性が一人。


 それぞれが自分の役割をこなしている。


「リュウ、もうちっと優しめに運転はできねえか?」

「できますが、そしたらヤツに追いつかれますよ、社長。」


  “車長” らしき中年男性が “操縦手” と会話している。

 操縦手は一切視線をそらさず前だけを向いていた。


 会話を終えると車長が頭を抱えながらため息をついた。

 そしてすぐに次の指示を出した。


「よし、こうなりゃレイミちゃん、あの泥団子に一発ぶっ放してくれ!」


 車長は “砲手” らしき女性に指示した。

 ちなみに「泥団子」とは球体型の機械のことだ。


「了解、任せな社長!」


 砲手は元気よく答え、近くの男を手招きした。

 その男は、どうやら ”装填手“ らしい。

 手招きも「弾をくれ」というジェスチャーのようだ。


 装填手の男は持っていた弾を装填する。

 そして予め狙いを定めていた砲手は速やかに球体目掛けて砲撃した。


 球体は攻撃を受け、数メートル後ろに吹っ飛んだ。


「見事命中! さすがアタシ!!」


 砲手は自画自賛をして、再び球体の方へ集中した。

 球体との距離はやや離れたが、未だに追いかけてくる。


 すると、装填手が(あわ)てた様子で車長に喋りかけた。


「た、大変です! 残弾、あと四発です!!」

「な、なにぃ〜!?」


 残弾、残り四発。

 装甲車に付いている砲台は2連装砲。

 つまり攻撃できるのは、あと二回。


「ど、どうしてこんな少ないんだ!? まさかリック、資金を横領したんじゃねえよな・・・!?」


 慌てた車長が装填手の胸ぐらを掴んで詰め寄る。

 装填手は揺すぶられて答えようにもできない状況であった。


「社長が前にキャバクラで金を使いまくったんでしょ。」


 すると、操縦手が表情を変えずに運転に集中しながらクールな感じでそう言った。

 それを聞いた車長が数秒固まった後に、装填手を解放した。

 そして手を後頭部に運んだ。


「そうでした、ボクのせいでした。 ごめんなさい。」


 車長がかわいこぶった言い方で謝罪した。

 それを聞いて装填手と砲手は大きなため息を吐いた。




 装甲車と球体は距離を保ったまま、未だに追いかけっこを続けている。

 少しでも速度を落とせば装甲車は球体に追いつかれるだろう。


「このままじゃ、燃料が尽きちまうなぁ・・・。」


 車長は腕を頭の後ろで組んで、席に深く座り込んだ。

 そして数秒の沈黙の後に再び口を開いた。


「ウチも “ソルジャック” が欲しいぜ。」


 「ソルジャック」とは、ザウールに存在する“機動兵器”のことである。

 いわゆる戦闘型ロボットで、弱いヤツでも戦車三台に匹敵する戦闘力を発揮する。

 ちなみに今装甲車を追っている球体型の機械もソルジャックである。


「弾も満足に買えないウチの資金じゃ、ソルジャックなんて夢のまた夢ですよ。」


 装填手は弾を見せながら車長に言う。

 車長は見せられた弾を見て、その後ガクンと肩を落とした。



 しばらくして、操縦手が車長に話しかけた。


「社長、12時の方向に崖です。」

「えっ?」


 操縦手は冷静にそう伝えた。

 しかし車長と装填手はそうではなかった。


「うわぁ、どうするんですか社長!?」

「どうするって・・・。」


 車長は考え込み始めた。

 装甲車と崖の距離はだんだんと近付いている。


 すると、考え込んでいた車長の顔色が変わった。


「そうだ、こうしよう。」


 そういうと、操縦手の方に手を置いて、指示を出した。


「リュウ、速度を落として少しだけヤツとの距離を縮めろ。 だが、近付き過ぎるなよ。」

「了解。」


 車長の指示通り、速度を落とし始める操縦手。

 球体型の機械と距離が縮む。


「社長、なにを!?」


 慌てる装填手だったが、車長は気にせず今度は砲手に指示を出した。


「レイミちゃん、俺が合図したらヤツの手前の地面に向かって弾を発射してくれ!」

「了解、社長!」


 砲手は指示の内容に一切疑問は持たずにそう答えた。

 そして車長は再び操縦手に指示を出した。


「リュウ、崖のギリギリのところまで行ったらカーブをしてくれ。 当然だが、絶対に落ちるなよ!」

「了解。」


 車長は操縦手への指示を終えると、今度は装填手に指示をする。


「よし、弾を装填してくれ!」

「りょ、了解・・・。」


 装填手だけ不安そうな様子だったが、命令通り弾を装填する。

 指示を終えると車長は席に戻って、深く腰を落とした。


「リック、揺れるぞ〜。 しっかり掴まってろよ。」

「りょ、了解・・・。」


 言われた通り装填手は掴まる。

 装甲車の中は声は聞こえず、色々な音が聞こえるだけだった。




 一方、球体型の機械はただ装甲車を追いかけているだけだった。


「なんだ、もうバテて来てやがるのか? 張り合いのない奴らだぜぇ〜。」


 機械の中ではチンピラ風の男がコックピットのようなところで操縦をしている。

 マジックミラーのように外からは中の様子は分からないが、中からは外の様子が分かる仕組みになっているのだ。


 男はただ目の前の装甲車にのみ視線が集中しており、周りを見てはいなかった。




 装甲車と崖の距離がかなり近付いて来た。

 すると、突然車長が声を上げた。


「今だ、レイミちゃん!!」


 その言葉と共に砲手は球体の目の前の地面目掛けて弾を発射した。

 地面に命中して砂や煙が舞い上がり、球体の姿が隠れる。


 装甲車は崖の前で左にカーブした。



 球体は視界を奪われていた。


「くそ、何も見えねぇ!!?」


 男はそれでも真っ直ぐ進んでいた。

 やがて前が見えるようになったが、その時にはもう遅かった。


「え?」


 球体は崖に突っ込んでいた。

 そしてそのまま弧を描くように落ちていった。


 球体の中からは外にも聞こえるくらいの大きな悲鳴が聞こえたが、それが装甲車の方に届くことはなかった。




 装甲車は落ちないように崖から離れ始めた。


「ふぅ、なんとかなったぜ。」


 車長は安心したのか、肩の力が抜けていた。

 操縦手と砲手は特に変わった様子は無かったが、装填手は固まっていた。


「リック、いい加減これくらいのことには慣れろよ。」

「無理です。」


 装填手はその場でへたり込んだ。






 しばらくして、装甲車はとある町へ着いた。

 いわゆる田舎を感じさせる場所だった。


 町は静かで、装甲車が走る音だけが聞こえる。


 そのせいか、装甲車が町に来たことに気付いた住民たちが次々と家の中から姿を現した。



 町の奥まで走行者が移動すると、装甲車は完全に停止した。

 装甲車が停止すると、砲手、装填手、操縦手、車長の順番で装甲車から降りて来た。


 彼らの周りに住民たちが集まると、町長らしき人が車長に近付く。


「あ、あの、それで・・・。」


 町長が車長にそう言うと、車長が装甲車の中から運び出した箱を地面に置き、蓋を開けた。

 その中には小瓶が数個入っていた。

 バイド治療のための“ワクチン”だ。


「約束通りの品だ。」


 車長がその言葉を言ってから数秒後、人々が歓声を上げた。

 町長は車長の手を取り、泣きながら感謝をする。

 四人の装甲車の乗員はそれぞれ笑みを浮かべ、住民たちと共に喜んでいた。




 彼らは『ハビコ屋』。

 ワクチンで金儲けを企む者たち「エビス蛮人(ばんじん)」からワクチンを奪い、バイド感染者たちに届ける一団。


 この物語は、そんな彼らのお話である。







【登場メカ】

・装甲車「ミーティア」

『ハビコ屋』が使用している装甲車。

武装は2連装砲のみ。


・ソルジャック「ボーラー」

今回登場したエビス蛮人 “エイチ・O” が使用していたソルジャック。

名前の通り球体型で、突撃するしか攻撃手段がない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ