第8話 翼龍・真琉からの報告
『丹花茶楽しみー』
思わぬ好物到来にうきうきな真琉に、私は釘を刺さずにはいられなかった。
「あんまり期待しないほうがいいわよ真琉。ここは後宮なのよ、さすがに龍の口に合うお茶があるとは思えないわ」
『ふっふーん。まぁ見ててよ。きっとすっごい苦いお茶が来るよ』
「龍好みのやつが出てくるといいけどね……ところで真琉、定期報告お願い」
邪魔者……といったら可哀想だけど部外者の女官・家麗さんがいなくなったことで、私はようやく真琉に本題を振ることができた。
「……お兄さまの様子はどう?」
やっぱり気になるのはお兄さまのことよね……。
……真琉には玖雷国の様子を定期的に見てきてもらっていた。
兄はあれで結構な短気である。自分の思い通りにならなかったらすぐに不機嫌になるし、感情的になって暴発する。そこが気になっていたのだ。
……妹の私を目の前で取り逃した兄。私を龍帝の後宮に入れてしまったわけだし、どれだけ怒っているのだろうか……。
『あー、あいつね。変わりなし、以上』
あっさりそれだけを真琉はいった。
「……もうちょっと詳しく教えてくれてもいいんじゃない?」
『といわれてもねぇ。ほんとにどこも変わりがないんだよ。君のお兄さんも相変わらず荒れてるしね。君のことを蒼霜国に密告した犯人を必死になってさがしているのも相変わらずだ』
「そう……。犯人は見つかったの?」
『目星はあるみたいだけど、確証がないから泳がせてる状態かな』
「お兄さまにしては我慢強いわね」
『それだけ本気なんだよあいつ。怖い怖い。あ、玖雷でも水氷のことは噂になってるよ。あの姫は龍使いだったのか、それで諸子なのに王宮に召し上げれたのか……ってね。それを発覚と同時に蒼霜の後宮にとられたんだから玖雷としてもいい気はしないよね』
どこも変わりなし、という真琉の言葉が重くのしかかる。つまり、二ヶ月前からずっと玖雷国には不穏な空気が渦巻いている、ということだ……。
「あのとき私に協力してくれた龍たちは? なにか酷いことされてない?」
『ふふふ、人間ごときが僕らになにができるっていうのさ?』
「……それもそうね」
龍は人ではない。当たり前だが、龍は龍だ。
龍は人に対して傲慢だが、その傲慢に似合った力がある。人間などが敵うような存在ではないのだ。
『僕らは楽しいから玖雷に手を貸してやってるんだ。そこにあの変態からの逃亡だよ? 楽しくて楽しくて震えるね。それを止められる義理はないよ』
そう。基本的に龍たちは人間に『楽しいから手を貸している』に過ぎない。本来なら使役などできない相手を玖雷国が何故使役できているかといえば、だから玖雷国は龍の機嫌をとって導く術に長けた国、ということなのである。
『それから王族たちだけど、水氷を蒼霜の後宮に差し出したのは自分たちの手柄です、と言わんばかりな顔してるのも相変わらずだね。ことを荒立てたくないってのは分かるけど、この手のひら返しって胸くそ悪いもんだよね。あれだけ揉めてたのに。あ、一つ変化はあったな。国境にいた蒼霜の兵が完全に引いたよ』
「そう、よかった……」
――蒼霜国の兵が完全に引いた。
私はそのことに思わず安堵のため息をついた。
だが、それだけだ。真琉のいうとおり、玖雷国側も、そして暗殺を志す私も――私も本当に変化のない二ヶ月間を送ったのだった。
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