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第5話 龍帝陛下は女嫌い

 私、そもそもがここの皇帝を暗殺するために後宮入りしたんだけど……。


 あ、そうだ。

 肝心の皇帝・秦瑞泉(しんずいせん)はどうなってるんだろう。

 今夜は来るの? 来ないの? それだけでもハッキリさせてもらいたい。


「あの、家麗さん。それよりも、ですね。瑞泉……様は今夜ここに来るのですか? 来ないのですか? 心の準備というのがあるので知っておきたいのですが……」


「りゅ、龍帝陛下ですか?」


 彼女は困ったように笑った。


「あの……、龍帝陛下でしたら、いまはご自分の寝殿である賛珠宮(さんじゅきゅう)にいらっしゃるかと思いますが……」


 寝殿にいるですって?


「それって、もう一人で寝るから今夜はここには来ない、ってことですか?」


「ええ、まあ、実際に寝てるかどうかまでは分かりませんが……」


 うーん、これは……?

 私は長旅を終えて後宮に入ったばかりだし、今夜はさすがに気を遣ってくれたってこと?


「じゃあ、今夜のお渡りはないってことね?」


 念を押す私の声は思いのほか弾んでいた。


 いけない、いけない。私は後宮の妃であり、寵愛を受けることを第一目的としているのだから。皇帝陛下が来ないことを喜んだ変な妃、だなんて思われてはいけないわ。

 ……でないと暗殺の機会だって減ってしまうんですからね。


「あ、いえ、その。今夜というか、その……しばらくはない、といいますか……」


「え?」


 お渡り自体が、しばらくない?


「それはいつまでなんですか?」


「それは……、その、巫貴妃様はまだこちらの暮らしに慣れていらっしゃらないでしょうし……慣れるまでは、ではないでしょうか……」


「皇帝陛下の寵愛を受けるのも妃の務めです。早く寵愛受けちゃいたいです!」


 そしてとっとと暗殺したいのよ、こっちはね!


「ええ、ええ。巫貴妃様のお心もよく分かりますわ。ですけど、その……」


 そこまで言って、彼女はガバッと身を折って謝りはじめたのだ。


「申し訳ありません巫貴妃様! 龍帝陛下は今後もここにはいらっしゃらないと思います!」


「は?」


「それを巫貴妃様に申し上げようかと思って、夜更けではありますがここに参った次第です。もし巫貴妃様が龍帝陛下を待ちわびていらっしゃるのだとしたら、本当に申し訳なくて……」


「どういうことなんですか、華麗さん!」


「実は……、巫貴妃様にお話しするべきか迷っていたのですが……。龍帝陛下は……女性が嫌いなんです」


「は?」


「特に、その。後宮の妃が大嫌いであそばされ……」


「ちょっと待ってください。それは……え?」


「ですから、龍帝陛下は後宮を……いえ女性全般を嫌悪なさっているんです」


「……え、それって」


 つまりは龍帝陛下は女が嫌いだから後宮には渡ってこない、と。は?


「いくら待ってもお渡りはありません。来ないです。今日も、明日も、明後日も。ですから巫貴妃様ももうお休み下さいませ。そして、今後もどうか、こちらでごゆるりとお過ごし下さいませっ」


 そう言う彼女の目は真剣だった。

 嘘を言っているようには見えない。


 いや、まさか。そんな馬鹿なことがあるはずがないじゃない。


 龍帝陛下よ? 大陸一番の大国である蒼霜国の皇帝陛下なのよ?

 まだお若いはずじゃないの。子供だっていないはずだわ。いわゆる精力絶倫ってやつでもおかしくないでしょ? いろいろ持てあましてるでしょ? 主に精力とかそういう系統のやつをさ。皇帝陛下なのよ!? 英雄色を好むんじゃないの?


 なに女嫌いとかいって後宮避けてるのよ。


 ……アホかっ!!


 龍の使いの姫、巫貴妃。……蒼霜国での私の名前だ。


 暗殺の志をもって後宮に入った巫貴妃である私はしかし、その日、けっきょく皇帝陛下に会うことはなかったのだった。


 その日だけではなく、次の日も。その次の日も。


 家麗の言うとおりだった。

 龍帝陛下・秦瑞泉は筋金入りの女嫌いなのであった……。


 聞けば、17歳で即位し23歳になった今日までずっと、たった一度すらも後宮に足を踏み入れたことはないという。


 龍帝陛下は本当に女性嫌いなのだ。

 職業選択を間違えたとしか言いようがない。暗殺にはもっとも向かない仕事だったのだ、後宮の妃は……。






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