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第4話 後宮のはじめての夜

 決死の覚悟でやってきた蒼霜国の後宮。

 龍に乗った私は、朝方になってようやく蒼霜国の宮廷の門の前に降り立ったのであった。


 そして、着の身着のまま、速やかに後宮に移された。


 宮を与えられた私はそこで紹介された女官との挨拶を済ませ、身支度を調えることとなった。


 慌ただしく後宮の第1日目は過ぎ、辺りはもう夜も更けている。全ての人が眠りについた気配があった。


 私も、もう湯はすませてあるし、寝間着にも着替えている。

 今は敷かれた豪華な布団を前に腕を組んでうなっているところだ。


 私は一人静かに息を吐いた。…………さて、どうしたものか?

 いや、どうしたもこうしたもない。


 今は夜更け。ちょうどいい頃合いではないか。


 これからすることといえば、やっぱりアレよね。後宮で夜にすることっていったら、アレよ、アレ。夜伽。


 ……はぁ。

 って、なに緊張してるの、私は。


 別に龍帝にそういうことをされる必要はないのよ。

 その前にこの短刀でズブリとやっちゃえばいいんだから。

 龍帝が夜具に入ってきたら、そこをひと思いに殺すのよ。


 ……いえ、相手を油断させるためにもやっぱり……そういういことをしたあとがいいのかしら?

 うーん。どうしたらいいのかしら……。


 ところで、暗殺に使おうと思っているこの短刀、明らかな危険物ではあるんだけど取り上げられはしなかった。

 なんでもこの後宮では、妃は自分の身は自分で守るもの……という意識が徹底しているそうなのだ。妃自らが短刀を振り回して自分の身を守ることを推奨されるだなんて、どれだけ危険な後宮だというのか……。


 実はこの短刀、実は母の形見の短刀である。

 というわけで、お母さん……。どうか私を陰謀渦巻くこの後宮からお守り下さい……。




「……あの、すみません。巫貴妃(ふきひ)様」


 ふと、控えめな声が聞こえた。

 振り向くとそこには私と同じくらいの歳の少女がいた。

 彼女は、私が着る服を準備してくれた人だ。名前は確か……。


家麗(かれい)さん。どうかしたんですか?」


「まあ、巫貴妃(ふきひ)様。呼びつけでかまいませんわ。私は巫貴妃様の女官なのですから」


「あの、すみません。巫貴妃って……?」


 首を傾げると、彼女はハッとした顔になった。


「そういえば、まだご説明申し上げておりませんでしたね。すみません、もっと早くにお伝えすべきことでしたのに……」


 慌てて頭を下げる彼女に、私のほうが慌ててしまう。


「そんなこと気にしないでください。私もここに来たばかりでよくわからなくて……。いろいろ教えていただけると嬉しいです」


 そう言うと、彼女は安心したように微笑んでくれた。それから、ゆっくりと話してくれた。


「龍帝陛下の後宮に入内されたお妃様には新しい名前が与えられるんです。それが、水氷様の場合は巫貴妃様となります。だから、これより以降、蒼霜国での水氷様は巫貴妃様と呼ばれることになるんです」


「へえ……そうなんですか……」


 妃になった女の名を奪う、ってこと? 本当に、なんというかそういうのって徹底しているのね。呆れるしかないけど。


「それで、この後宮にはいまだ皇后様がいらっしゃらないので……」


 家麗さんは言いづらそうに目を伏せた。


「その……、貴妃という位は後宮において二位ですので……、しかも他に貴妃様はいらっしゃりませんので……、たったお一人の貴妃となった巫貴妃様は、実質この後宮の一番上の位を持つお后様ということになりました」


「は!?」


 思わず大きな声を出してしまった。

 つまり、それって……。


「要するに、私はここではいちばん偉い人になってしまった、ということですか?」


 恐る恐る尋ねると、家麗さんは笑顔で大きくうなずいた。


「はい。そういうことになります」


「でっ、でも、それって……ええっ!?」


 私は今日来たばかりのぺーぺーの新米妃よ!? それにいくら姫っていったって、小国である玖雷国の王の諸子なのよ。そんな私にこんな高い位なんて、分不相応ってやつじゃないの!?


「私、そんな……故郷の国でもそんなに位の高い姫だったわけじゃないですよ!? それがなんで後宮でいきなりそんな。それにこの後宮には他にもお后候補の方々がいるはずです。その方々を差し置いて私が一位って、そんなのおかしいですよ」


「いるにはいるのですが……」


 と家麗さんは苦笑する。


「……その、どなたも龍帝陛下の寵愛を受けておりませんので……」


 ああ、なるほど。後宮っていうのは龍帝陛下の寵愛が全てみたいなところがあるってことね。……って、え?


「だから、事実上、この国の皇帝陛下のお相手として、巫貴妃様が一番適任だというわけです」


 いや、それならなおのことおかしいでしょ。


「私だって、寵愛どころか龍帝陛下に会ったことすらないんですが。どう考えても他のお妃様のほうが一位の位って適任では?」


「いえ、だからこそ、なんです」


「え?」


 意味がわからずに首を傾げた。


「ええと……。他のお妃さま方と巫貴妃様はある意味同じ位なのです。ですが、龍使姫さまだと聞いております。我が国において龍は神に並ぶ神聖なもの、その龍の使いであらせられる巫貴妃様はまさに龍帝陛下と並び立つお方なのです」


「……んんんん?」


 龍の使い?

 私は龍使いの姫、だけど。

 龍使いの姫っていうのは、龍の声を聞き龍を使役する力がある姫、って意味ね。


 それがいつの間にか龍が使わした巫女姫ってことになってるみたいね?


 いやまあ、……意味的に同じなの? これは? 定義とか難しくてよく分からないわね……。


「巫貴妃様がご存知ないのも無理はないと思います。巫貴妃様は生まれてからずっと隠されてきたと聞きました。表に出てこられないように閉じ込められていたのではないでしょうか?」


「え? いやそういうことではないんですが」


 別に表に出られないように閉じ込められたわけではないのよねぇ。


 確かに村で正体を隠して育てられはしたけれど、あれはなんていうか騒動が大きくなるのを嫌った母が隠していたってだけなんだけで……。


「おいたわしや、巫貴妃様。蒼霜国にてどうか心やすき日々を送られますように……。この国の民はあなたの味方ですわ、巫貴妃様」


 そう言って家麗さんは私の手を握ってくれた。……どうしよう。

 なんだかすごい勘違いされている。



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