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第3話 兄(利祥)視点その2

 水氷が龍使いの姫だと公にされたのは、水氷が玖雷国から出奔した日の6日前のことだった。


 それまでは秘されていたのである。本当に、それはつい最近のことだったのだ。


 ……6日前のその日。


 それは、蒼霜(そうりん)国の龍帝からの使者がきた日であった。


『龍使いの姫である成水氷(せいすいひょう)を蒼霜国の後宮に召し上げる』との命令を携えた使者が。


 使者による通告だけではなく、蒼霜国の大軍が我が玖雷国に進軍して脅すという念の入れようだった。

 龍使いの姫を差し出せ。さもなくば、覚悟せよ。と……。


 龍使いの姫。それは、すなわち水氷のことだ。

 稀に玖雷国の王族に生まれる白い髪の子供――龍の声を聞き、龍と心を通わせる『龍使い』の力を持った子供。

 それが水氷だったのだ。


 常ならば生まれたと同時に蒼霜国に把握され、親離れもそこそこの年齢で蒼霜国に連れ去られる。そうやって歴代の白い髪の子供たちは蒼霜国にとられていった。


 それがなぜ水氷が16歳という年齢まで見過ごされていたのかといえば、彼女の生育環境によるものだった。


 水氷の母は王宮の下級女官だった。母は王宮にて国王陛下と知り合い、そして故郷に帰って水氷を生む。


 国王の庶子ということすら隠され、水氷はただの私生児として育てられたということである。

 白い髪も、母に命じられるまま黒く染めていたという。


 母親が亡くなり、それから水氷は母方の親戚を転々としたということである。

 そうこうするうちに水氷の本来の髪色や、水氷の実の父親のことが明らかになり――当時世話になっていたという強欲な親戚は、大金と引き替えに水氷を王宮に渡したのだ。


 それでも水氷が龍使いの姫であることは公表されなかった。

 ……公表したが最後、蒼霜国にとられることが目に見えていたからだ。


 もし『龍使い』が生まれたらすぐに蒼霜国に差し出せ。差し出すのなら蒼霜国は玖雷国を守ろう。差し出さないならば貴国の滅亡を意味するだろう――。蒼霜国とのその盟約は建国の昔よりずっと続いているとのことだった。


 蒼霜国にしてみれば、玖雷国に過ぎた力を持たせたくない、ということなのだろう。


 ……公表はされなかったが、水氷が龍使いであるということを勘付いたものは多かったと思う。

 妙に龍と仲のいい水氷に疑問を持った俺のように。

 水氷の近くにいたものたちはみな、薄々察していたはずだ。


 そのなかの誰かが、情報を蒼霜国に漏らしたのだ。

 いや、『売った』のかもしれない。

 大金と引き替えに水氷を王宮へ渡した強欲な親戚のように。


 水氷が龍使いであることを。


 俺は、その裏切り者を許さない。

 必ず見つけ出し、復讐してやる。


 ……とはいえ、実のところ密告者の目星はついている。

 おそらく父王の側妃である采鈴(さいりん)だ。俺や水氷と大して年の変わらない女で、とにかく金遣いが荒く国庫の備えにすら手を着け始めた金食い虫。父も強くいえばいいのに、采鈴には甘い顔ばかりしている。

 その采鈴の羽振りが、最近目に見えてよくなったのだ。


 だが、証拠がない。

 それにもし采鈴ではないとすれば、真犯人をみすみす逃がすことにもなってしまう。


 俺は采鈴が憎いのではない。犯人が憎いのだ。相隣国に密告した者に復讐したい。

 だからこそ、絶対に間違いではないと確信できるまでは慎重にいこうと思う。


 自ら後宮に志願した水氷。……龍帝を暗殺するために、妹は危険を冒すのだ……。

 その想いに報いるのもまた兄としての努めだろう。

 そして、必ず水氷を助け出す。

 必ずだ……。


 俺を待っていてくれ、水氷。

 お前のことだ、助け出される時を心待ちにしながら、ただ俺のことを思い日々を過ごしてくれることだろう。


 ……だからどうか、それまで無事であってくれ。

 水氷……!!





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